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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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訓練の成果 後編

「……二人とも、準備はいいな?」


 普段は騒がしい二人だが、今は呼びかけに黙って頷くのみだ。

 審判役はバウアーさんが適任だろうと俺は言ったのだが、


「リコリスさんが一番成果を見てほしいのは、ハインドさんとユーミルさんでしょうから。ジジイの出る幕ではありませんな」


 とのことで審判役を任されている。

 地下のような操作パネルはないのでメニュー画面を開き、一対一の実戦形式を選択。

 初期MPなしは本式の決闘と同じ仕様。

 装備の性能は実際の数値を無視して同格のものになるよう設定。

 ただし、武器の大きさが違うのでその分だけ当たった時のダメージに差は出るはずだ。

 渡り鳥、ヒナ鳥、そして止まり木のメンバーが集まった中でスタートボタンに指をかける。

 押下し、システム側のカウントダウンが始まったところで巻き込まれないように後退。


「――遠慮はいらんぞ、リコリス! 私を倒すつもりでかかってこい!」

「はい! ……行きます!」


 リコリスちゃんとユーミルが同時に前に出る。

 戦闘スタイルが変わったリコリスちゃんはともかく、ユーミルは相手が誰であろうと待ちを選択しない。

 故に、二人の戦いは初手から激しい攻防となった。


「むっ!」


 盾で受けると見せかけて、リコリスちゃんはスッと身を引いた。

 上段から振り下ろしたユーミルのロングソードが空を切る。

 普通ならここで体が流れるところだろうが……。


「なんのっ!」


 更に踏み込みつつ、すかさず斬り上げへと移るのがユーミルである。

 だが、それすらも予想の範疇だったのかリコリスちゃんが盾でそれを受ける。

 のみならず――。


「むおっ!?」


 ユーミルの剣の動きに合わせて、リコリスちゃんは盾を思い切り跳ね上げた。

 ロングソードは上へ、腕を持ち上げた状態で体勢を崩すユーミル。


「手が、痺れ……!」

「くっ!」


 あれ? リコリスちゃん、チャンスなのにちょっと涙目なような。 

 そして、満を持してサーベルを横薙ぎに……。


「ふんぬっ!」

「ああっ!? 体術忘れてたぁ!」


 振ろうとしたところで、剣を放り投げたユーミルが体当たりを入れる。

 察するに何度も注意されたところだったのか、リコリスちゃんの言葉にバウアーさんの表情が僅かに引きつっていた。

 そのままユーミルはしばらく取っ組み合ってから、小ダメージを受けつつ剣を拾って後退。


「お、これでリコがちょっぴりリード」

「転んだまま剣を上手く突き出したね」

「仕留めきれなかったのは失敗だけど、リコらしくない上等なリカバリーかも。やるー」


 ここまでの明確な上達ぶりに、シエスタちゃんとサイネリアちゃんの声が弾む。

 今のどさくさでダメージを与えられる辺り、リコリスちゃんの対応力は上がっているようだ。


「また体術ですか、ユーミルさん。汚いですよ。ちゃんと剣術で戦ってください」

「やかましい! 黙って見ていろ!」


 リィズの言葉にユーミルが剣を握り直す。

 さて、ここからが真価の問われるところだ。

 ユーミルは相手が強いほどギアが上がるので、最初の攻防とはまた違ってくるはず。

 腰を軽く落とした次の瞬間……加速。


「速っ! アサルトステップ!?」

「いや、まだ使っていないな。素の運動能力だ」

「マジでござるか。相変わらず天然自己バフ持ち、みたいで恐ろしい……あ、あとハインド殿の声援でもバフかかるし」

「それはもういいって」


 トビが思い出したように付け加えた言葉は、多分体育祭のあれが原因だろう。

 歓声を上げる子どもたち、それから感心したような止まり木の大人たちの声が耳に入ってくる。

 それは何も、急に速度を上げたユーミルに対してばかりのものではない。


「……リコリスちゃん、ペースチェンジしてもしっかり防いでいるな」

「本当だね。これなら新型の鎧でも、そうそう致命傷は受けないかな」


 盾の丸みを使った受け流し、尖った先端を用いての威嚇、押し付け……。

 素人目ではあるが、見事な盾捌きと言っていいと思う。

 そして何よりも大きく変わっているのが――。


「やっ!」

「ぐうっ!? 何だ、この偶に混ざる重い手応えは!」

「それがユーミル先輩の斬撃分ですよ! そっくりお返しします!」

「む……小癪な!」


 この『シールドカウンター』だろう。

 攻撃が積極的なユーミル相手だと発動させやすいというのもあるが、俺たちが思わず舌を巻いたのはその発動タイミングだ。


「うわ、そこで!?」

「ユーミル殿、戦い難そうでござるな……」

「上手にカウンターを混ぜてきますね。バウアーさんの薫陶の賜物でしょうか?」

「いえいえ、そんな大層なものでは。彼女がひたむきに訓練したからこそ、ですな」


 バウアーさんがリィズにそう答えながら微笑む。

 そんな会話を続ける中で戦いはヒートアップして行く。

 ユーミルが自己バフ『アサルトステップ』と『捨て身』を、リコリスちゃんはデバフ効果が切れた『大喝』を再使用。

 体力はどちらも残り僅かとなっているが……。


「あ、何か嫌な予感」

「へ? 何がでござるか?」

「トビ、今から縮地で中に――無理か。戦闘フィールドの外から中に入れたら不具合だよな」

「あの、ハインド殿。先程から何を言いたいのかさっぱりなのでござるが」

「どうにも二人とも、熱くなっているだろう? だから――」

「たあああああっ!!」

「はあああああっ!!」


 ユーミルとリコリスちゃんが、激しく上下していた両肩の動きを同時に止める。

 俺が慌てて二人の動きに目を凝らした時には、もう互いの距離は一瞬で潰されていた。

 ユーミルの全力の剣を、歯を食いしばって盾で受けながらリコリスちゃんがサーベルを一閃。

 会心のカウンターがユーミルに当たるかと思われた直後――ロングソードから魔力が迸る。


「――っ!!」


 そして、それを必死に走りながら見ていた俺の体に衝撃が走った。

 慌てて駆け寄ってきたトビに視線をやってから腕の中を見ると、そこには目を回したリコリスちゃんの姿が。


「だから、こう……ユーミルが勝った場合、リコリスちゃんが吹っ飛んでくることもあるかなって。間に合って良かった。壁に叩きつけられると結構痛いから、避けられるなら避けたほうがいいだろ?」

「なるほど、そういうことでござったか……ちなみに、リコリス殿が勝った場合は?」

「リコリスちゃんの主力は斬撃カウンターのようだったから、ユーミルが負けたとしてもその場に崩れ落ちると思ってな。こっち方向に走った訳だ」

「何だ。私が勝つと信じていたから、そちらだけフォローしたのではないのか……」


 顔を上げると、ロングソードを鞘にしまうユーミルがやや不満そうな顔をしていた。


「俺は審判役だからな。どっちが勝つか、何てことは考えないようにしたつもりだ」

「そうは言ってもだな……」

「……まあ、お前はリコリスちゃんの憧れの先輩だからな。しっかり勝つだろうとは思っていたよ、審判役と関係ないところでは」


 俺のその言葉を聞いて、ユーミルはようやく納得したように頷いてから笑顔をこぼした。

 それに苦笑しながらトビが肩を竦める。

 ……何だよ、言いたいことがあるなら言えよ。


「うぅーん、やっぱり素敵な信頼関係ですよね……負けて悔いなし、です! あ、でもやっぱりちょっと悔しい! 複雑です!」

「!」


 不意に耳に届いた声のほうに視線を向けると、起き上がったリコリスちゃんが百面相で目を輝かせたり悔しがったりしていた。

 心配して駆け寄ってきたヒナ鳥の二人、リィズとセレーネさん、それからリコリスちゃんの師匠であるバウアーさんが集まってきたところでギャラリーの止まり木メンバーから拍手が起こる。

 それを受け、照れて恐縮するリコリスちゃんの訓練は……。

 成果披露となる模擬戦でユーミルに負けはしたものの、誰の目から見ても大成功のようだった。

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