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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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訓練の成果 前編

 本格的に決闘に挑む日もそう遠くない。

 バウアーさんのスケジュール管理はそつがなく、イベント中にランクを上げる期間を十分に残して訓練を完了しそうだ。

 予定では今日を含めて残り二日、それで訓練が完了する。

 大詰めということで、今夜も各員止まり木のホームの庭で気合が入った訓練を行っている。


「おわっ!?」


 ――頬を掠めんばかりの矢に思わず声が出る。

 セレーネさんのように百発百中とはいかないが、精度は日増しに上昇中。

 俺は『支援者の杖』を遠くに立つサイネリアちゃんに向かって勢い良く突き出した。


「――!!」


 慌ててその場から飛び退くが、杖からは何も発せられてはいない。

 フェイントだと気付き、サイネリアちゃんが一瞬だけ悔しそうな表情を見せる。

 続けての射撃にはステップを混ぜて回避、回避、フェイントで多少詰めたがまだ飛びかかるには早い。

 距離をキープして円運動で走りながら機を窺う。

 微妙な距離感を嫌い、サイネリアちゃんが後退しながら矢をつがえたところで――。


「二度も同じ手はっ!」


 先程と寸分違わぬモーションを心掛けたフェイントは、サイネリアちゃんが看破する。

『シャイニング』は即着弾なので度胸がいる行動だが、その優秀さが俺にとっては好都合。

 こちらの動きが止まったところに撃ち込まれるのは、安定度の高い胴体を狙った矢だ。

 軌道予測、後は勘!


「……!」


 回転して躱したため、矢の行方を見る余裕はなかった。

 が、当たった感触はなかったので即座に次の行動に移る。

 光を放つ杖をギリギリまで見えない位置でキープし……。

 三度、同じモーションでサイネリアちゃんに向かって杖を向ける!


「!?」


 しつこいフェイントが功を奏したのか、サイネリアちゃんの反応に遅れが生じる。

 俺はそこで思い切って飛び込み、自分が出せる最速で杖を振った。

 サイネリアちゃんが体勢を整え、次矢を構えるのが見えたがもうチャンスはない。

 結果……。


「あだっ!?」

「きゃっ!」


 ほとんど同時に互いの攻撃がヒット。

 と、そこでカンカンカーン、とパストラルさんお手製のゴングが終了を宣告。

 二人でパストラルさん、それから一緒に見ていたトビの顔を窺う。


「えーと……引き分け、でいいですよね? トビさん」

「拙者の目にもそう映ったでござるよ。いやー、それにしても訓練初期に比べて練度が……」


 それを聞くや否や、俺たちは審判役の二人に礼を言ってから反省会に移る。


「命中精度を気にしているのは分かるけど、もうちょっと手数を出せないかな? サイネリアちゃん。君はセレーネさんと違って連射型ラピッドタイプなんだし」

「そうですよね……ハインド先輩は最後の飛び込みの時、もう一つフェイントを入れられたら私はお手上げでした」

「あー、やっぱ直んねえな……前に出ると頭が回らなくなるの。サイネリアちゃん、そろそろ俺よりも動きの速い相手と訓練したほうがいい段階かもね。ごめんよ、運動能力が足りなくて」

「そういうハインド先輩こそ、私の攻撃は既にほとんど読めるのでは……私こそ申し訳ないです。簡単に読めないくらい多様な攻撃ができればいいのですが」


 俺たちの会話を聞いてパストラルさん、それからトビは呆れとも感心ともつかない表情をしている。

 何かおかしいか?


「――まあ、ハインド殿の人読み能力は仕方ないでござるよ。拙者も闘技大会であの通りでござったし」

「でも、二人とも凄くレベルアップしたと思うんです。横で見ていた私が口を挟む必要がないくらい、互いの欠点を指摘し合っていましたし」


 そんな言葉を受けて、俺たちは相好を崩した。

 そう言ってもらえると、うっすらと自信が湧いてくる。

 ついでに、互いに訓練相手として不足する部分も出てきたところなので……。


「では、ハインド先輩……」

「ああ。俺たちの訓練はこれで一区切りってことで。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした! ありがとうございました、ハインド先輩!」

「こちらこそ」


 握手と笑顔を交わして武器をしまう。

 サイネリアちゃんはエイミングが、俺はステップワークが以前よりも上達したはずだ。




 続けて、今度はトビが訓練の成果を見てほしいということで鎧人形ズの下へ。


「何か、見る度に増えていますよね? この訓練用甲冑……」

「ご覧の通り、トビの動きが良くなってきたもので」

「……目が追い付きません」


 追い付かないというか、実際に消えているのだから仕方ない。

 トビは『縮地』を使って鎧人形の前に現れては数度斬りつけ、また『縮地』を使って去って行く。

 現れるのは様々な角度、位置だが基本的には背後だ。

 密集していて無理な場合は側面、背後であっても他の鎧人形の視界内の場合は斜め後ろに変えたりと……。


「やるなぁ……さすがゲーマー。色んな他ゲーの経験らしきものが見え隠れするな」

「お二人の堅実な成長に比べると、その……」

「ハッキリ言っちゃっていいですよ、パストラルさん。変態的な進歩だと」

「――誰が変態でござるか!?」

「あ、聞こえていたのか? 褒め言葉だぞ」

「ユーミル殿みたいな褒めかた止めてくれる!? もっとこう、拙者が嬉しくなるような!」


 動きを止めて振り返るトビに、俺はパストラルさんと顔を見合わせた。

 トビが嬉しくなるような……ふむ。


「疾風! 迅雷!」

「迅速! 果断!」

「何かがおかしい!? あ、でもさっきのよりは全然いいかも!?」


 俺とパストラルさんの声援を受けてトビが移動を再開する。

 段々と気分が乗ってきたのか、鎧を斬りつける金属音が激しくなっていく。


「おー、すげえすげえ」

「はっはっはー! 今の拙者ならハインド殿にも勝てる! 勝負だぁ!」

「は?」


 そしてWT毎に『縮地』を重ねながらこちらに向かってくる。

 止まる気配がないので、俺は仕方なく杖を構え……。


「ふんっ!」


 小さなバックステップを入れてから、思いっ切り中空に向けてそれを振り切った。

 横っ面を捉える手応え、次いでベシャッと何かが目の前に崩れ落ちる音。


「な、何で……?」

「何でって、そりゃあ……いくら瞬間移動しても、出現地点を予測できるなら捉えるのは容易だと思わないか? 後はタイミングだけの話だ」

「た、確かに……がふっ……」


 地面に這いつくばったまま顔を上げていたトビが力尽きる。

 一連の様子を見ていたサイネリアちゃんが顔を引きつらせた。


「あの、普通は捉えられませんよね?」

「初見だとできて回避までじゃないかな? 俺のは、ほら。何度も言うようだけど読みだから。トビの癖は知っているし、縮地込みの動きを直前までたっぷりと見せてもらった上での迎撃だもの」

「ハインドさんに分析する時間を与えた時点で、トビさんの負けですよね……」


 余計なことをしたせいで綺麗に終了、とは行かなかったものの。

 トビの『縮地』に対する習熟度は大きく上がったようだ。

 後は今回の訓練の主役である、リコリスちゃんがどうなっているかだが……。

 俺はトビを助け起こしてから、明日の総仕上げの模擬戦へと考えを巡らせた。

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