装備作製部隊、出動 その3
「おーう、格好いい……あれ、でも設計図よりもちょっとのっぺり?」
適当に手に取ってためつすがめつしながらシエスタちゃんが疑問をこぼす。
彼女の言うように、試作品は形こそ設計図通りだがパッと見で物足りない印象がある。
「そこは、ほら。飾りとか彫りとか簡略化してあるから」
「なるほどなるほど。で、これに合わせたアクセを考えればいいんですね?」
「そうなるね」
俺たちが話している間にユーミルが鎧を並べていく。
それを見ながら、顎に手を当てて一言。
「ふむ。誰かに着せてみたほうが良くないか?」
「あ、そうだな。作った人形は全部置いてきちゃったしな」
「人形……? ともかく、リコリスの背格好に近い――」
ユーミルがリィズを見る。
当然ながらこの鎧はアレンジ装備――なので、サイズ調整機能は存在しない。
それを受けて、俺たちもリィズに視線を集めた。
「……何ですか?」
「リィズ、貴様が適任だ。さあ、着るのだ!」
「は?」
「まぁ、妹さんですよね。この中でリコの体型に近いのは」
「は?」
「えっと……」
困り顔のセレーネさんが俺の後ろに回って弱々しく背を押した。
……俺が言えばいいんですか?
「すまん、リィズ。着てみてくれるか?」
「分かりました、ハインドさん」
「おい!? いくら何でも態度が露骨過ぎるだろう!?」
「まあまあ、ユーミル先輩。了承は得たんだし、さっさと着せちゃいましょーよ」
「ぐぬ……」
そうして女性陣がリィズに鎧を着せている間、俺は背を向けている。
ゲームとして正式に装備することは魔導士のリィズには不可なので、服の上に着せていくだけだが……。
マナー的にその場にいるのは何なので、部屋の外に出ようとしたところ引き止められてしまった。
すぐに済むので部屋の隅でいいとのことである。
故に、四人の会話だけは聞こえてくる。
「リィズちゃん、手を上げてくれる? ベルトを締めるから」
「はい。にしても、身長だけならシエスタさんでもいいはずなのですがね……」
「それは仕方ないですよ。私が装備しようとすると、あれやこれやがつっかえますから」
「だったら、その無駄な肉を引き潰しながら装備すればいいじゃありませんか。我慢して着けていればへこむかもしれませんし」
「いやいや、普通に苦しそうなんで勘弁」
「あの、二人とも? そ、そういう会話は今はちょっと……」
「そうだぞ、止めろ! ハインドが居心地悪そうにしているだろうが! 変な足踏みが面白くて放っておいたが!」
「――分かってたんならもっと早く止めてくれよ!?」
そりゃ変なステップも出るわ!
外に出たほうがいいんじゃないかと、気が気ではないっての!
……これは、外で待っていると突っ張るほうが正解だったかもしれない。俺の阿呆。
「叫びながらもこちらを見ない先輩は紳士だと思います。まあ、どっちみち脱いだりしている訳でもないんで、見たところで問題ないといえばないんですけど」
「はあ……で、終わった?」
「終わりました。どうぞ、ハインドさん」
振り返ると、帽子を外して動きやすそうな銀の軽鎧に身を包んだリィズの姿があった。
下に装備したままの魔導士の服がはみ出していたりと、甘いところもあるが……。
「おお……」
「どうですか?」
「端的に言うと、お姫様が兵士を鼓舞するために無理矢理鎧を着ている感じ。伝わり難いか?」
「あ、私と同じ感想……」
セレーネさんが一言こぼす。
うん、やっぱりそういう感想になるよな。
シエスタちゃんも「あー」と納得したように頷いた。
「着慣れていない感が凄いんだけど、似合わないこともないっていうか……それが却って良いというか……」
「もっと素直な感想をいただきたいです、ハインドさん。折角着たのですし」
「え、ええと……普段と違う凛々しさみたいなものが出ていて、魅力的だと思うぞ。リィズ」
「ハインド王子……」
リィズが夢見るような表情で呟いた言葉に、俺は面食らった。
予想だにしていない発言だ。
「や、やめろ!? 俺が王子って柄か!? 正気に戻れ、リィズ! 現実を見ろ!」
「わはははははは!」
「てめえ、ユーミル! 笑ってもいいけど、こっちを指差すな! 腹立つんだよ!」
「王子、なんか喉が渇いてきたんですけど。お茶とか持ってません?」
「王子、召使いみたいな扱いだね!? はい、お茶!」
半ばやけくそ気味な動きでシエスタちゃんにお茶の入った水筒を渡し、俺は事態が収束するまでじっと耐えた。
どうしてリィズの鎧姿の感想を言っただけで、こうも弄られなければならんのだ……。
鎧を装備している時といい、今夜の俺はどうもこういう役回りらしい。
それからおよそ五分後、ようやく落ち着いたところで改めてリィズの装備した鎧を確認。
軽量化しつつ可動域を広く確保したので、当然ながら防御力は以前よりも落ちる。
……そういった性能面は置いておくとして、今はどんなアクセサリーがこの系統の鎧に合うかだ。
「うーん……リコの容姿を考えると、イヤリングって感じでもないですよね? 背伸びしてる感ありありになりそうな」
「そうだね……リィズちゃんなら問題ないと思うけど」
「腰回りの飾りだったりは、ゲーム的に装飾品ではなく鎧に含まれますしね。そうなると……」
色々と考えた末、俺たちが出した結論は――。
「髪飾りだな、やはり! 他は鎧の都合でどうにも難しい!」
「となると派手なサークレットみたいなやつじゃなくて、凝ったデザインのヘアピンくらいが良い気がするんだよな。リコリスちゃん、普段から身に着けているし。シエスタちゃん、あれって――」
「あー、あれは現実でも着けているからってんで、最初のころに適当にNPCショップで買ったものなんで。気にしなくて大丈夫ですよ。新しいのを贈れば普通に装備してくれると思います」
特に思い入れのある品ということもないそうだ。
しかもショップ売りのグレードが低い装飾品。
「リィズはどう思う?」
「良いと思います。急にお洒落で着け慣れていないものを渡されるより、リコリスさんも受け取りやすいでしょうし」
「セレーネさんは?」
「うん、異議なしだよ。折角だから、みんなで性能が良い髪飾りに仕上げようね」
セレーネさんの言葉にみんなが一斉に頷く。
そんな訳で来たるリコリスちゃん新装備完成に合わせ、俺たちは新しい髪留めを作ることに決めたのだった。




