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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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装備作製部隊、出動 その2

 三人で鍛冶場に戻ると、ドアが開いていた。

 ……あれ、おかしいな。


「ドア、閉めて出てきたよな?」

「そのはずですが……」

「二人とも、アイコン。アイコンが見えているよ」


 セレーネさんの言葉に通路の壁に目をやると……確かに、低い位置に二つのアイコンが出ている。

 リィズと視線を交わしてから、俺は中へと踏み込んだ。


「シエスタちゃん。鍛冶場の床に布団ってどうなの?」

「普通なら埃っぽかったり鉄粉? があったりでアウトでしょうねー。そこはほら、ゲームですから」

「そうまでして横になりたい気持ちが分からないのですが……ハインドさん」

「おう。よっと!」


 言いながら俺とリィズは布団を引っぺがし、シエスタちゃんとマーネを転がしていく。


「うあー」


 それから掛け布団をリィズが、敷布団を俺が畳んで枕を置いてシエスタちゃんを立たせる。

 そして彼女のアイテムポーチにそれを捻じ込み、片付け完了。


「な、ナイスコンビネーション……」


 その様子に目を丸くしていたセレーネさんが呟く。

 シエスタちゃんのペースに付き合っていると話が進まないからな……。

 改めて、眠そうな顔へと向き直る。


「で、シエスタちゃん。どうしたの? こんなところで」

「とりあえず先輩、ノクスを連れてきてくださいな。マーネと遊ばせてやりたいので」

「ああ。ちょっと待ってて」


 ノクスは前イベントの疲労が中々抜けなかったので、しばらく巣箱の中で静養させていた。

 そろそろ出して運動させてやりたいと思っていたので、シエスタちゃんの提案は渡りに船だ。

 俺は一度鍛冶場から出ると、談話室から連れてきたノクスを肩に乗せて移動。

 戻ってくると、ノクスを作業机の上に着地させた。


「これでいいかな?」

「はいはい、オッケーです。どうもです」


 二羽が近付いたところを見届けると、椅子に座って話し合いの開始だ。

 俺たちは特に何も言わず、シエスタちゃんから切り出すのを待った。


「……それでですね、先輩方。サイはリコの訓練を手伝っているじゃないですか?」

「遠距離攻撃への対応訓練ってことで、割と頻繫に出番があるね。空いている時は俺と訓練しているけど」

「はい。で、リコが頑張っているのに、私だけ何もしないのはどうかなあと思ったので……」

「……ので?」

「装備品作り、私も何かお手伝いできませんかね? 邪魔でしょうか?」

「……おお」


 そう来たか。

 何かしてあげるにしても訓練の手伝いよりはこっちのほうが、という思考なのだろうけど。

 シエスタちゃんの申し出に、俺はセレーネさんに視線をやった。

 鍛冶の責任者はあくまで彼女である。


「邪魔なんてことはないよ。鍛冶ってやることが一杯で……ハインド君と私だけじゃ手が回らないことも多いから」

「でも、デリケートっていうかメインの部分は一朝一夕で身に付きませんよね? 当たり前の話ですけど。雑用系だけです? 私がお手伝いできそうなのって」


 シエスタちゃんの質問にセレーネさんは言葉に詰まる。

 これは……ちょっと良くない流れか?


「う、うーん……」

「遠慮せずに言ってくださいなー。私が手伝うことで、リコの装備のクオリティが落ちたんじゃ意味ないんで。カモンカモーン」

「そ、その……」

「あー……駄目なら駄目で大丈夫ですからね? 別にそれで傷ついたりしないんで」


 言い難そうにしているセレーネさんの様子に、リィズが俺を見やる。

 シエスタちゃんも話の振り方を失敗したかな? といった様子でチラチラとこちらを見ている。

 ……ああ、分かっているよ。

 セレーネさんはハッキリ無理だと突き放せるようなタイプではない。

 ここは――


「よし、じゃあシエスタちゃん。こうしよう」

「はい? 何です?」

「みんなで一緒にリコリスちゃんのアクセを作ろう。その上で、余裕があったらセレーネさんの……雑用系でできる仕事を手伝う感じで。どう? アクセもこの場所で作ることになるだろうし、融通を利かせやすいはず」

「おー、それはいいかもですね。アクセ作りって、私にもできます?」

「もちろん精度が高いに越したことはないけど、作る品によっては武器・防具ほどの専門知識・技能は必要ない。それこそマフラーと一緒で、根気とやる気さえあればそれなりの――」

「――その話、私も乗ったぁ!」


 突如として響いた声に、しかし俺たちは誰も驚かなかった。

 だって、数十秒前のログイン通知に始まりカーソル移動・足音と動きが筒抜けなんだもんな。


「ユーミル先輩も参加ですか? リコの模擬戦に付き合ってあげなくていいんですか?」


 シエスタちゃんがユーミルにのんびりと問いかける。

 ユーミルは剣をテーブルに立てかけ、俺の隣の椅子へと座ってから答えた。


「後は総仕上げに一戦だけでいいそうだ。だから暇! 暇なのだ! 私もやる!」

「ドストレートで気持ち良い返答ですねー。あの、先輩?」

「ああ、いいぞ。セレーネさん、申し訳ないんですが彫金とかが必要な場合は……」

「うん。もちろん、私で良ければできる限り丁寧にやり方を教えるよ。みんなで一緒に作ろうね」


 セレーネさんが幾分ホッとした様子で俺の言葉に応じる。

 それから、声に出さずに「ありがとう、ハインド君」と口を動かした。

 いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます。


「じゃあ……とりあえずアクセの案を出してみるか。何かあるか?」


 俺の出した議題に真っ先に反応したのは、やはりユーミルである。


「リコリスは騎士っぽさにこだわりがあるようだからな。マントなどはどうだ? こう、良く鎧にくっ付いているような」

「マントか……悪くないけど、属性マントの都合もあるしな。あと、マント前提のデザインじゃないんだよな。これから作る予定の鎧って」

「むぅ、そうか……」


 属性マントは羽織るタイプの、ユーミルが言ったのは鎧の後ろに広がるタイプのものという違いはあるが。

 どちらも装備枠はアクセサリーに該当する。

 リコリスちゃんの新装備は装備重量を減らしながらの設計なので、マントが似合うようなものではない。

 どちらかというと、重量級の豪奢な鎧――例えばグラドの皇帝様が身に着けているような類の鎧のほうがマントは似合う。

 実際、彼は派手なマントを装備していたはずだ。


「アクセサリーの装備枠は増やしてほしいですよね。属性マントが必須な時は、折角ハインドさんにいただいた首飾りを外さなくてはいけませんから」

「それ、結構プレイヤーからの要望であるらしいですねー。ついでに、あんまり仰々しいマントだと着られている感も出ますしね、リコの場合。小さいから」

「無難なものでいうと指輪、首飾り、イヤリング……この辺りになるのかな?」

「指輪は見えなくなっちゃいますよね? 籠手ガントレットがあるんで」

「あ、そうだったね。うーん……」


 そうなると、挙がった中ではイヤリングが良いだろうか?

 俺たちはしばらくの間、頭を悩ませていたが……。


「……セレーネさん」

「うん?」

「リコリスちゃん用に試作した鎧がありましたよね? あれ、出してみませんか?」

「ああ、そっかそっか! あったほうがイメージしやすいよね。少し待ってて」


 セレーネさんが鍛冶場備え付けのアイテムボックスに小走りで向かう。

 その間に、シエスタちゃんが俺のほうを向いて小さく首を傾げた。


「もう試作品あるんですか?」

「あるよ、そりゃあ。装備作りは一発で完成品になることもあるけど、今回はリコリスちゃんの変化が急激だからさ。ちょいちょい微修正が必要になっているね、今のところ」

「はー、それはそれは。リコがご迷惑をおかけして」

「むっ、成長が迷惑ということはあるまい! なに、子供服を成長に合わせて買い替えるようなものだ!」

「言っていることは正しい気もしますが、どうして作ってもいないユーミルさんが偉そうなんですか?」


 いつも通りと言えばいつも通りの会話をしながら待っていると、セレーネさんがいくつかのパーツに分かれた鎧を持ってくる。

 ノクスとマーネがいる位置を確認してから作業机に置かれたそれに、俺とセレーネさん以外の三人が一斉に注目した。

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