装備作製部隊、出動
「……こんなもんですかね?」
「うん。下に車輪を付けて動かしやすくしたし、訓練が終わったら子どもたちにあげちゃってもいいかな」
「そうですね。武器も取り外し可能にしましたし」
普通なら「こいつ」を移動させるのに苦労するのだろうが、ここはゲームの中。
インベントリに入れてしまえば後は手ぶらでOKだ。
今夜、鍛冶場にいるのは三人。
「リィズ、そっちのは頼む」
「はい」
分担して三人で作った新しい訓練道具をしまう。
向かった先は止まり木の庭、丸太が複数置いてあるあの一画。
「よお、トビ。今夜は早いな?」
「い、今話しかけないで――足がぁっ!」
「う、埋まっちゃった……」
「見事に埋まりましたね……足が」
「ががががががが」
トビが直立姿勢のままスタンする。
地面からぬるっと出てきてちょっと気持ち悪かった。
ともあれ、声をかけるタイミングを間違えたことは反省しないと。
「すまん。お前のための新型案山子を持ってきたから許してくれ」
「マジでござるか!?」
作って持って来たのはそれだ。
スタンが解けたトビが目を輝かせる。
「……そういや、ここみたいなカスタマイズ系の訓練施設って案山子がオートで出ないよね? 操作パネルでガーッと床下からせり出してくるやつ」
「あったら丸太を並べてないって話だな。こうやって屋外とかも設定できる自由度はあるけど、同時に便利機能もオミットされるから」
「……あの、作り終えてから言うことではないですが。渡り鳥の地下で訓練すればいい話では?」
リィズの言葉にトビが言われてみれば! と納得したように頷く。
が、その表情はすぐに曇り……。
「拙者に一人で地下に籠れと!? 寂しい!」
「な? 言った通りの反応だろう」
「……そうですね」
だから手間をかけてこいつ――。
「じゃあ、まず一体出してみるか。トビ、下ろすのを手伝ってくれ。重いから気を付けてな」
「? 構わないでござるが……ぬおおっ!?」
鎧を装備した本格的な訓練用人形を作製した。
重みでトビが苦悶の表情を浮かべる。
ゆっくりと下ろすと、接地した車輪が僅かに軋みを上げた。
「何これ!? ここまで凄いの必要!?」
「まあ、聞け。まず、バウアーさんとお前がイメージが大事って話をしていただろう?」
俺は喋りながらインベントリから剣を取り出して鎧人形の手に装着させる。
これでより威圧感が増しただろう。
「確かにしていたでござるが……おおっ!? 剣まで!?」
「槍とか斧も用意したぞ。しかも性能が低めとはいえ、全部本物。どうだ?」
「上手くなってきたら、この人形が持っている武器のリーチまで考えながら縮地を……良さそうでござるな!」
会話を続けながらトビにジェスチャーで指示を出し、リィズやセレーネさんが持って来てくれたものも設置していく。
三体、四体、五体……。
「よし、次」
「は、ハインド殿、待たれよ。これ、何体あるのでござるか?」
「取り急ぎ十体ほど用意したぞ」
「じゅっ……!?」
「ちなみに、訓練所の効果で耐久度は無限になるから殴っても壊れない。余裕があったら攻撃も加えてみるといい」
「おおう……丸太から一転、随分と高級な訓練道具に……」
トビが焦った様子で視線を巡らせる。
妙に厚遇されていることに警戒心を抱いているようだ。
別に何もしないっつーの。
「ハインドさんが鍛冶の練習も兼ねて、と仰いまして。一部は――」
「うん。私が前に作った趣味装備で……ちょっと失敗したものとかも入っているけど」
リィズとセレーネさんの言葉を聞いてトビがようやく体の力を抜く。
フルスクラッチ――この訓練のためだけに最初から全て作ったものではないと聞いて安心したらしい。
「拙者の知らない武器があるのはそのせいでござるか……ある意味、博物館のような……」
トビの言葉に俺は並べた鎧人形たちを眺めた。
俺の作った鎧や武器は普通だが、セレーネさん作のものは用途やリーチの読めないものすらある。
こう見ると結構多様で、博物館っぽいと言えなくもない。
「あ、あとこの鎧人形だけど。セレーネさんが中に関節というか、骨組みを仕込んでくれたぞ。だからこうやって……」
「!?」
俺は最初に置いた剣を持たせた鎧の腕を動かして見せた。
やっぱり重いな……保持力は……おっ、さすがセレーネさん。
バッチリ想定通りの姿勢で固定された。
「剣を振り上げた体勢とかにしておけば、より雰囲気が出るんじゃねえかな」
言いながら次々と鎧人形を武器を構えた体勢に変えていく。
車輪、鎧の乗った台座、そしてセレーネさんの骨組み。
いい出来の訓練器具ができあがったと思う。
途中からリィズ、セレーネさんも手伝ってくれて鎧のポーズを一通り変えてみた。
それも、全てトビのほうに向けて。
「どうだ?」
「せ、拙者が先端恐怖症だったら気絶しそうな迫力にござる……」
実際、この人数に囲まれたらひとたまりもないだろう。
それこそ、縮地で抜けるくらいしか有効な手段が見当たらない。
トビが鎧人形が向き合う中心点から汗を拭いながら出てくる。
「三人して、短時間にどんだけ凝ったもん作ってんの……いや、超嬉しいけどさ」
「何か途中から楽しくなっちゃってな……ね? セレーネさん」
「うん、楽しかった。リィズちゃんの補助が上手だったから、作業の進みも速かったしね」
「そう言ってもらえると、お手伝いした甲斐があります」
リィズは何かにつけてサポートが上手だ。
力仕事以外なら大抵――っと、次の生産作業に移らなければ。
「それじゃ、トビ。俺たちはホームに戻る」
「あれ、もう戻るのでござるか? 忙しないでござるなぁ」
「リコリスちゃんの装備も作らないとだからな。こっちは時間かかりそうだし」
「ああ、そうでござったな。御三方、大変かたじけない! この御恩はスキル習熟、そしてパーティ戦での戦果をもってお返し致す!」
訓練が捗りそうだ、とトビは上機嫌で早速鎧人形を移動し始める。
車輪付きの台座は下部が重くしてあり、一人で押した際の安定感も十分だ。
「頑張ってね、トビ君」
「トビさんが前線で働いた分だけ、ハインドさんが傷付く可能性が減ります。頑張ってください」
「り、リィズ殿のそれは応援なような、違うような……」
「もし改善点とか要望、数を増やしたいとかそういうのがあったら言いに来てくれ。面倒だったらメールでもいいぞ」
「重ねて感謝致す! ではでは、気合を入れて……!」
あちらではリコリスちゃんも頑張っているし、装備もそれに見合ったものにしないとな。
俺たち三人は次の作業に向かうため、慌ただしく止まり木のホームを後にした。