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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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老騎士の慧眼 スキル習熟

 丸太の間隔はトビの希望でおよそ一メートル。

 それらが四つ、正方形の角になるようワンセット並べてある。


「これだけ広ければ、楽勝でござるな!」

「楽勝ねぇ……」

「あまり言いたくないのですが、このパターンは……」

「聞こえない! 聞こえないったら聞こえない、でござるよ! いざ!」


 トビが行おうとしているのはスキル『縮地』の訓練だ。

『分身の術』と同様に扱いが難しいスキルで、通常なら逃げる際に大雑把な目標を見定めて使うのが一般的。

 何故なら……。


「あばばばばば!?」

「やっぱり……」


 丸太と被る位置に移動してしまったトビは、真横に強制的にずらされてスタン。

 これは実際の戦闘……対戦相手やモンスターと少しでも被る位置に移動してしまった際も同じなので、攻撃に使うのは非常にリスキーだ。

 いかんせん、並のスキルで受けるスタン状態よりもずっと異常時間が長い。


「おーい、大丈夫か?」


 俺たちは丸太の横に倒れたトビの下へ移動した。

 トビはまだスタンしている……あ、動いた。

 大体四、五秒くらいか? 何にせよ、戦闘中だったら致命的な隙だ。


「ちょいと狭すぎたでござる……」

「いきなりこれは無理だって。もっと幅を広げようぜ?」

「しかし、攻撃に移ることを考えるとこれ以上精度が低いと物足りんでござろう?」

「何で段階を踏まないんだよ。ただでさえ四角形の中にっていうルールがあるんだから――」

「あのー……」


 そこでパストラルさんが小さく手を挙げた。

 何か気になることがあるらしい。


「丸太を一本にして、その真横に移動じゃ駄目なんですか? ……いえ、後でおじいちゃんに訊けばいいといえばその通りなんですけど」

「ああ、それは……」

「対人戦、特にチーム戦の際は敵集団の中央に縮地でデンと登場! 攪乱して直ぐに掻き消える……それが理想とバウアー殿に拙者が具申した次第でござるよ。結果、こうなったと」

「補足すると、敵集団の内側に入る能力があるなら内も外も大丈夫だろうってバウアーさんが。本当はパストラルさんが言うように、丸太一本を立ててその近くに移動してもらう……そういう訓練を先にやらせるつもりだったそうだよ」


 それからピンポイントで内側に移動する訓練に移るつもりだったらしい。

 しかし、本人の意志があるならとあっさり折れた。


「拙者の場合、逃げ道を設定しておくと良くないでござるからなー」

「夏休みの宿題とかな」


 トビが俺の言葉を受けてぎこちない動きになる。


「ゆ、故に、最初から逃げ道のない丸太に囲まれた――すなわち敵に囲まれた内側に入る練習ということで、このように。簡単に退路を確保できる位置への転移は、一本の丸太の傍だったりはその後ということで」

「順序を入れ替えた訳ですか。先に楽なほうをやると、そちらが癖になりそうってことですよね?」

「左様にござる。ビビりな面がめっちゃ出るのでござるよ。四本の丸太の外側に縮地しても、脅威にはならないでござるから」


 トビの言葉に対し、俺たちはそれぞれ同意するように頷いた。

 みんな少なからず共感の念を覚えたらしい。


「ちょっと分かる。不安だったり困難なことって、思い切って飛び込んでしまうと却って度胸が据わるもんだよな。ユーミルに言ったら不思議そうな顔をされるだろうが」

「違いないでござるな」

「強心臓ですよね。ユーミル先輩のそういうところ、とても凄いと思います」

「まったり生産ギルドな私たちからすると、みなさんも十分凄いんですけどね」


 パストラルさんがそんな言葉でのんびりと締めた。

 さて、トビの訓練に戻るとするか。


「最終的には連続転移――縮地のWT毎にあちこち跳び回る訓練をするんだから、ペース上げていこうぜ」

「そうでござるな!」


 ということで、間隔を広げて一遍が二メートルの四角形に。

 三人で下部に重りの付いた丸太を移動させてやる。


「うごごごごごご!?」

「失敗か……次、三メートル。さすがにこれなら行けるだろ」


 同じように間隔を広げ、トビのスキル発動を見守る。

 が……。


「もべべべべべべ!?」

「おい!?」


 もうかなり広いぞ!?

 トビは奥側の丸太に手が重なったようで、転移する瞬間に横にずらされてスタン。

 その後も数回トライしたが、丸太にぶつからなくても位置が大きくズレたり地面に足が埋まったりと上手く行かない。

 このままでは埒が明かないので、一旦やめて対策会議の時間だ。


「何もない空間を目標にするのは難しいでござるな……」

「地面に埋まるとか、もう丸太の間隔関係ないもんな。お前は分身をあれだけ動かせるんだから、普通の人よりはこういうのは得意だと思うんだが。さすが、縮地は習得しない人すらいる難スキルだな……」

「使いこなせれば超格好いいと思うのでござるが……WTも短いし……」

「ハインド先輩。物体の距離感を測ったりするのって、何と呼ぶのでしたっけ? ええと……空間……」

「空間認識能力ですね」

「即答!? ぱ、パストラルさん?」


 サイネリアちゃんの言葉に食い気味でパストラルさんが答えた。

 どこから得た知識だろうか……? と思っていると、彼女は自分からそれを明かしてくれた。


「あ、いえ……私が読んでいる作品で良く出てくる単語なので……」

「「「……」」」


 それ、きっと能力バトル物とか宇宙で戦う系の作品なんだろうな……。

 ともかく、空間認識能力――その中でも三次元にある物体の位置や距離などを正確に把握する能力、それが『縮地』には必要になる訳だ。

 俺はパストラルさんに視線を向けた。


「右脳でしたっけ? 深く関わっているのは」

「そのはずです。感覚器官を十分に働かせることが大事だそうです」

「そういう意味ではトビ先輩、得意そうなんですけどね」

「そうかな? トビ、VR以外のゲームで目を酷使し過ぎなんじゃないか?」

「あー、言われてみれば。耳も、ヘッドホンの連続使用があるので……」

「駄目じゃん」


 その辺りは今後、適度な休憩を挟むことで改善を狙うということで。

 本当、VRゲームは現実の健康状態が大事だな……。


「で、パストラルさん。どうやったら空間認識能力を鍛えられるのかご存知ですか?」

「すみません。鍛え方までは……」

「――何かお悩みですかな?」


 気が付くと、バウアーさんがしゃがんで小さな円を作って話していた俺たちの傍に立っていた。

 彼の後方では、リコリスちゃんが真剣な様子で素振りをしている。


「おじいちゃん!」

「あ、バウアーさん。実はですね――」


 非常に良いタイミングで来てくれた。

 バウアーさんも鍛え方を知らない場合、ログアウト後に調べなければならないが……。

 果たして、事情を聞き終えたバウアーさんはトビに向き直った。


「方法は色々ありますが。トビさん、何かご希望は?」

「現実でできるものは現実で。ゲーム内では、ゲーム内でしかできないものを優先したいでござるな」


 頷き、老騎士は事もなげに答える。

 ほとんどノータイムでの回答だ。


「では、初めはいっそのこと丸太の枠の中に目印を置いてしまいましょう。中央に」

「いいのでござるか!?」

「ただし、成功すれば置いた何かしらの目印と座標が重なる訳ですから。スタンしてしまいますが……」

「ま、まあ、今のままではどの道……」


 ちなみにスタンは現実での金縛り――声を出せるバージョンのそれに近い状態だそうだ。

 俺もスタン状態になったことはあるが、現実で金縛りにあったことがないので比較することはできない。

 両方を体験した人の感想である。


「精度が上がってきたら、目印を取り……しかし、何もないその空間に目印があると思いながら跳躍できれば成功ですな。ないものをある、と思い込むのは大変ですが。トビさんには合っているやり方かとワシは思います」

「なるほどなるほど。つまりイメージ力が大事と! ではバウアー殿、現実の訓練は……」

「目を閉じてティッシュを取る。目を閉じてリモコンを取る。目を閉じて部屋のドアまで歩いてみる……こういった積み重ねで空間認識能力は手軽に鍛えることができますよ。お試しくだされ」

「おおー……確かにお手軽でござるな。かたじけない! ログアウトしたら早速取り入れてみるでござるよ!」


 トビがやる気を見せる。

 その後も空間認識能力の鍛え方について教わるトビから少し離れ、俺はパストラルさんに小声で話しかけた。

 サイネリアちゃんもそれに一緒についてくる。


「……パストラルさん。バウアーさんのほうがよっぽど知恵者じゃないですか? あの人の口からよく分からない、何て言葉を未だに聞いたことがないんですが」

「そうでしょうか? 年齢相応ですよ?」


 否定するようなことを言っているが、彼女の表情は緩み気味だ。

 サイネリアちゃんも俺の言葉に同意するように頷く。


「ゲームに対応できている辺り、それこそ年齢不相応な柔軟さもありますしね……もっと自慢していいんじゃないでしょうか? パストラルさんは」

「サイネリアさん……えと、その……はい」


 何だかんだで身内を褒められて嬉しいのか、パストラルさんが照れたように笑う。

 それから何十という試行錯誤を経て、トビが目印の石の上で初スタンを達成。

 ……順調だが、立てた四本の丸太は人に見立てたものなので、もうちょっと工夫してやるといい結果に繋がるかもしれないな。

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