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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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老騎士の慧眼 回避と命中

 バウアーさんの訓練指示は俺の目から見てとても適切なものばかりだった。

 何とバウアーさんは俺たち全員の過去の戦いも、見られるだけ見てくれたそうで……。

 リコリスちゃんに型を教える傍らで、俺たちもそれぞれの訓練を行うために動き出していた。


「サイネリアちゃん、準備はいい?」

「はい、いつでもどうぞ!」


 まず、俺とサイネリアちゃんはワンセット。

 彼女が射る矢を躱しながら近付いて行き、俺が先に攻撃を当てたらスタート地点を遠く。

 逆に彼女が俺に攻撃を当てたらスタート地点は近く。

 これをひたすら繰り返すというシンプルなもの。

 ただし物足りなかったり上手く結果が拮抗しない時は、矢避けの障害物を設置する、俺に重りを付けるなど工夫するようにとのこと。


「サイネリアさんは狙いをつける練習に。ハインドさんは引き続き回避能力の向上が見込めるでしょう」


 とのバウアーさんの弁。

 サイネリアちゃんはエイミングが甘いということで、バウアーさんの提示した訓練内容に納得した様子だった。

 彼女の矢の精度は普通よりも高いと思うのだが、比較対象がセレーネさんではそう思うのも無理はない。

 一方的に射られる可能性のある俺に気を遣ってはいたが、接近した後は俺も杖で殴りかかるのでおあいこである。

 さて、バウアーさんによると俺の回避能力はそれなりに上がっているはずとのことだが……。


「パストラルさん、お願いします」

「はい」


 合図をしてくれるのは途中で合流したパストラルさんだ。

 自分からやってくれると言い出したのだが、コインでも投げてくれるのだろうか?


「……それでは」

「「えっ」」


 パストラルさんがアイテムポーチから何かをにゅっと取り出す。

 木製の板の上に乗った、円盤状の金属の物体。

 それをパストラルさんがトンカチで――


「「ゴング!?」」

「始めっ!」


 カーン、と格闘技の試合開始などで聞き慣れた音が鳴る。

 何でそんなものを持っているんだ、と疑問に思ったが音に釣られて体は前へ。

 不思議な訴求力があるな、ゴングの音って!


「何それ、何それパストラル殿!? 拙者も鳴らしてみたい!」


 単独で他の訓練をしていたトビが近付いてくる気配。

 しかし俺にそちらを見る余裕は既にない。

 矢が唸りを上げて顔の近くを通過していく。

 見てから避けるのは不可だ。

 サイネリアちゃんの視線、体の向いている方向、弓の方向などから軌道を予測して避ける。

 距離が詰まるほど、回避に要する能力は増大していき……。


「あでっ!?」

「あ、当たった……? あ、大丈夫ですか!? ハインド先輩!」


 微量のダメージを受けた俺を心配し、サイネリアちゃんが駆け寄ってくる。

 少し遠くから「そこまで!」というパストラルさんの声。

 ちょっと動きが直線的過ぎたか……平地だと丸見えだな。

 当たった脇腹をさすりながら立ち上がる。


「大丈夫だよ。途中から胴体狙いに切り替えたよね?」

「はい。思ったよりもハインド先輩が速くて……セレーネさんが、対人戦の理想はヘッドショットだけど、当たらないよりは胴を狙って当てた方がって」

「そっか。TBにはヒットストップもあるしね」


 胴に当ててから素早く矢をつがえ、次矢で頭部を狙う。

 そんなやり方も十分にありだろう。

 サイネリアちゃんにそう告げると、同意するように二度頷いた。

 同意を得られたところで、俺は一つ訓練の改善案を言ってみることに。


「サイネリアちゃんさえ良ければ、胴なり他の部位に当てた時は二射目で頭部を狙ってみてよ。練習になるんじゃないかな?」

「え……ですが」

「改善案はどんどん練り込んで行けって、バウアーさんも言っていたしね。それにヘッドショットっていっても痛覚的にはハリセンではたかれる程度だし、問題ないよ。これもゲームならではってことで」


 闘技大会の予選で何度か食らったが、頭付近はデリケートなため特に痛覚設定は当たったことが分かる程度まで引き下げられている。

 止まり木のホームの庭――この一画は訓練所として設定されているため、HPも即座に回復する。

 屋外だが、渡り鳥の地下にある訓練所と同じ扱いだ。

 リコリスちゃんやユーミルが最初に心配していたが、そもそも安全エリア内での戦闘は全て模擬戦に限られているので戦闘不能になったりすることは起こり得ない。

 サイネリアちゃんが少し考えた後、おずおずと口を開いた。


「あの……ありがとうございます。では、私からもハインド先輩に一ついいでしょうか?」

「うん、どうぞ」

「接近する際に、使用制限なさっているシャイニングを是非。遠距離攻撃も混ぜてくださったほうがよろしいかと」

「あ、やっぱり分かっちゃうか」

「はい。もちろん、シャイニング抜きで接近できればよりフットワークの練習になりますし、それができた方が相手にとって脅威だとは思います。でも、その……言い難いのですが、私がセレーネ先輩のように一発で綺麗にヘッドショットを決められないのと同様、ハインド先輩も――」

「俺もシャイニングなしで近付けるような速度、能力はないもんね。欲張りすぎだって、分かってた。ユーミルやトビ、それと今の進歩しつつあるリコリスちゃんのようにはいかないもんな……」


 身の丈に合った訓練、これもバウアーさんが口にしていた言葉だ。

 特に、短期的に成果を出したい場合は重要だと。

 黙って俺たちの会話を聞いていたパストラルさんが、初めてそこで何かを言いたそうにしている。


「パストラルさん? どうかしました?」

「何か……知恵深き者同士の語らい、という感じでした。互いを気遣いつつも話が発展的で」

「相変わらずの言い回しっすね……」

「えっ?」

「無意識かよ、凄いな。……あの、そんな大層なもんじゃないですよ?」

「そ、そうですよ。私なんてハインド先輩に比べたらまだまだ」

「いやいや、俺なんて浅薄なもんだって。サイネリアちゃんにもパストラルさんにも、そんな風に言ってもらう資格ないよ」

「いえいえ、お二人ともご謙遜を。終盤の訓練がどうなっているのか今から楽しみで――」


 パストラルさんが話している途中で、カーン! という音が周囲に鳴り響く。

 そちらに目をやると、トビが楽しそうに訓練をサボってゴングを何度も打ち鳴らしていた。

 俺は二人と共にトビに近付いていく。


「――おい」

「はっ!?」

「一人で大変なのは分かるけど、何やってんだよ……」

「いや、その……つい、でござるな……」


 トビの前には重りの付いた丸太がいくつか置かれている。

 そうだな……。


「トビ。しばらくの間、俺らが見て直せそうなところは指摘するから。俺たちの前で訓練をやって見せてくれないか?」

「お、それは良いでござるな! やる気が出る!」

「丸太の移動もするから。サイネリアちゃん、いいかな?」

「はい、もちろんです」

「パストラルさんも、すみませんが見てやってください」

「私にできることでしたら」


 ということで、一戦終えた俺たちはトビの訓練を見ることに。

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