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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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本気の鬼ごっこ

 段々と息が上がってきた。

 VRといえど、無限に走れる訳ではないというのは今更な話だが。

 リコリスちゃんが弾丸のように真っ直ぐ突っ込んでくる。

 俺はそれに対し、右に一歩踏み出してから……


「あれっ!?」


 左に大きく踏み込み。

 あえなくリコリスちゃんは引っかかり、触れようとした手が空を切る。

 俺はライン際からの脱出に成功し、少し距離を取った。

 下がり過ぎると今のように、逃げるスペースが限られてしまう。

 ただでさえここまで勝ち越しているせいで、円が小さくなっているのだ。


「わー」

「待てー!」

「あ、こら! すみません、お二人とも!」

「「……」」


 そして止まり木のホームの庭を利用している都合で、こうして時々子どもたちが横切っていく。

 今回もパストラルさんが回収に――すっかりギルドのお姉さんといった役回りだ。

 俺たちは追いかけ合っているだけなので遊んでいるように見えるのか、子どもたちは気にせずバンバン横切ったり追いかけっこに混ざろうとしたりしてくる。


「あの、バウアーさん?」

「こういう時はどうしたら……?」

「決闘ならまだしもPKなどと戦う際、集団戦などは様々な要因が関係してきます。これも訓練の内だと思って下され。上手く利用するのが吉、ですな」


 話しながらバウアーさんが目の前に開きっぱなしにしているメニュー画面に視線をやる。

 リコリスちゃんが我に返り、慌てて俺へと駆け寄る。

 しかし無情にも、バウアーさんが二度手を叩く。


「終了、ですな」

「あー! また触れませんでした……うぅ……」

「では、反省会を」


 バウアーさんは一度か二度、鬼ごっこを終える度に反省会をやるよう促してくる。

 相手の動きを見ていて気が付いたこと、自分の動きで駄目だった点などをとにかく思い付いたままに挙げていくという形式だ。

 リコリスちゃんが最終的にカウンターを決められるようにするためには、まず攻め手の思考を知ることが大事……とのこと。


「リコリスちゃん、フェイントに弱いよね。もうちょっと粘れない?」

「でもでも、ハインド先輩の息が切れていたので行けると思ったんですよ! 駄目でしたけど!」

「あー、もっと時間が長ければ頭に酸素が回らなくなっていたかも……タフだよね、リコリスちゃんは。疲れてきてもあまり速度が落ちないし」

「ありがとうございます。でもハインド先輩、動きが多彩で見極めが大変なんですよ……視線だけのフェイントだったり、速度の緩急だったり。難しいです……」


 俺たちが話をしている間、バウアーさんはニコニコと見守っているだけだ。

 ただ、技術的な指導をお願いした場合はきちんと答えてくれる。

 例えば……。


「バウアーさん。相手のフェイントに対応しやすい距離ってどの辺りですか?」

「無手の場合、剣を持っている場合で当然変わりますな。遠ければ遠いだけ、フェイントは効きにくくなりますが……追う側はある程度プレッシャーをかけられる位置にいなければ意味がありません。論ずるよりも――」


 バウアーさんの俺の向かいに立つ。

 察したリコリスちゃんが一歩下がる。

 バウアーさんが俺の目をじっと見ながら距離を詰め……。


「……っ」


 俺が三つフェイントを入れてからバウアーさんの横を抜こうとしたところ、柔らかく肩を叩かれる。

 そんなあっさりと……トビ辺りならもうちょっと上手くやるんだろうか?

 バウアーさんが頭を掻く俺と、口を開けて固まるリコリスちゃんを見て微笑む。


「対応可能な距離は人それぞれです。わしなどは、ハインドさんがもう少し引き付けてから速度に任せれば……老いたこの身では追いつけますまい」

「「いやいやいやいや」」


 俺たちは同時に手を横に振ってツッコミを入れた。

 バウアーさんの全盛期を知らないので老いに関しては何とも言えないが、全然動きは遅くないですよ……?


「ともかくですな。一言でこの距離、というものはありません。故にそれを体で覚えてもらう……そのための鬼ごっこということですな」

「なるほど……でも、それだと俺以外の相手ともやったほうがいいのでは?」

「ハインドさんの伸びしろを考えますと、あまりその必要を感じませんな。既に最初よりも良い動きになっていますので」

「……そう、なんですか?」

「リコリスさんもですよ」

「本当ですか!? 嬉しいです!」


 互いに高め合っていけば十分だとバウアーさんは笑う。

 そして再び全力を賭した鬼ごっこが開始される。

 追って追われてを繰り返す中、疲労もあってかリコリスちゃんは段々とおかしなノリになり……。


「はははー、待て待てー。ハインドせんぱーい」

「その台詞を言うなら男女逆じゃない? あー……つ、つかまえてごらーん?」

「よーし、捕まえちゃいますよー……ふんぬぁーっ!!」

「うわっ!?」


 緩い動きから一転、リコリスちゃんが低い姿勢から強烈なタックルを繰り出してくる。

 それはさながらラグビーのタックルのようだった。

 俺が横っ飛びで辛うじて躱すと、勢い余ったリコリスちゃんは――


「へぶぅ!?」


 ヘッドスライディングのような状態で地面を滑る。

 静止したところで体の周りから小さな土煙が上がった。痛そう。

 彼女はしばらくそのまま動かなかったが、やがて何やら叫びながら体を起こした。


「ゆ……ユーミル先輩のように、何度でもぉぉぉ!」

「が、頑張れー。捕まってあげる気はないけど」

「……。はははー、待て待てー」

「まだそのノリで行くの!?」


 彼女なりに緩急をつける練習のつもりなのだろう、きっと。

 気の抜ける台詞が付属することでこちらの油断も誘える……ような気がするし。


「来たぞー! ……む? これは何をやっているのだ?」


 リコリスちゃんが再び俺を追い出してすぐに、ユーミルが到着。

 ユーミルは少しの間、黙って俺たちの訓練を見ていたが……。


「私もハインドを捕まえる!」

「は!?」

「ほほ、どうぞどうぞ。ハインドさん、戦いに不確定要素は付き物……ですぞ」

「はい!?」

「――そこだぁーっ!」

「ぐほっ!?」


 ユーミルがリコリスちゃんと同じような……しかし数段鋭い体当たりを、俺の腰辺りに直撃させる。

 反応できず諸共に転がり、素早く上体を起こしたユーミルにしっかりとホールドされる。


「ハインド、ゲットぉ!」

「凄い! 凄いです、一撃!」

「そうだろうそうだろう!」


 倒れた体勢のまま、ユーミルが楽しそうにリコリスちゃんと話している。

 俺はこれまでの疲れもあり、絶妙な位置で背中を抑えつけるように置かれたユーミルの手をどかすことができない。


「ご、護身術の教えをこんなところで実践するなよ……動けん」

「わっはっは! ……ところで、ゲットした後は持ち帰ってもいいのか? バウじい」

「それはちと困りますなぁ……まだ今夜の訓練が残っておりますので」

「そうか……残念だ」


 冗談なのか本気なのか分からない会話を、俺はぐったりとしたまま聞いたのだった。

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