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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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リコリスと訓練仲間の誕生

 リコリスちゃんが盾を構えてじりじりと前に出る。

 対するバウアーさんは容易に動かない。

 年齢を感じさせない軽やかなステップを規則的に踏んでいるが、あくまで待ちの体勢だ。

 しかし、攻めあぐねてリコリスちゃんが半歩下がった瞬間――。


「ふわっ!?」


 鋭い踏み込みからの刺突がリコリスちゃんの右肩へ。

 大きく体勢を崩して回転すると、その背をバウアーさんが優しく押す。

 するとリコリスちゃんがあっさりと膝をついた。

 ……完全に動きをコントロールされている。

 今日も今日とてリコリスちゃんは剣の訓練中だ。

 止まり木のメンバー以外でこの場に来ているのは、まだ俺とリコリスちゃんだけである。


「うう……勝てないのはともかく、後ろに下がっちゃったのが悔しいです……」

「いいえ、自分のペースでないと感じた時は下がる勇気も必要ですよ」

「え? でも……」


 バウアーさんの手を借りて立ち上がったリコリスちゃんが俺の顔を見た。

 彼女が誰の姿を脳裏に描きながらそう言ったのかは分かりやすい。


「リコリスちゃんはリコリスちゃん、ユーミルはユーミルだよ。確かに、あいつの強みは一瞬たりとも退くことのない苛烈な攻めにあるけど……」

「わしもいくつか動画を見させていただきましたぞ。あれは余人に容易に真似できるものではありますまい」

「バウアーさんがそこまで言うほどなんですか!? ユーミル先輩、凄い!」


 ユーミルへの賛辞に、リコリスちゃんはとても嬉しそうにしている。

 そしてバウアーさんの評価も半端じゃなく高いな。

 ここ数日で強さを肌で感じているからだろうか?

 俺は装備を解除するバウアーさんに視線を向けた。


「わざわざ見てくださったんですか? ありがとうございます」

「これも指導に必要なことですからな。それ以上に、公開されているユーミルさんの戦いぶりは楽しいものでしたが」

「はは、すみません。ドタバタしていて」

「それもありますが、あの戦いぶりは中々……直感的と申せばよいでしょうかな?」

「直感的……」


 これ、かなり気を遣った言い回しではないだろうか?

 悪く言えば「荒っぽい」ということだろうと推察できるが。


「あいつもバウアーさんに鍛えてもらったほうがいいですかね?」

「必要ないでしょうな。自己流でありながら刃筋は立っていますし……下手に型に嵌める方が危険でしょう。彼女の長所を殺す可能性すらあります」

「そうですか……色々あるんだな……」

「ユーミルさんよりも、わしの指導はハインドさんのほうが合うでしょうな。リコリスさんとご一緒に、いかかですかな?」

「――えっ?」


 バウアーさんからまさかの勧めが。


「ハインド先輩、一緒にやってくれるんですか!? 心強いです!」

「ちょ、ちょっと待ってリコリスちゃん!」


 まずは話を聞かせてもらわないことには、やるともやらないとも言えないじゃないか。

 バウアーさんが無意味な提案をしてくるとは思えないし。


「俺、後衛なんですけど……」

「後衛であっても、接近戦の心得があって損はしないとわしは思いますぞ」

「攻撃しようとするとテンパるんですが」

「ハインドさんはとても目が良い。ですから、そうですな……間合いの取り方を進化させ、元々素質がおありの回避能力――その底上げを行う訓練などをおすすめいたしますぞ。反撃までは求めますまい」

「おお……」


 回避の訓練……それはいいかもしれない。

 自力で攻撃を躱せるなら、前衛の負担も減るだろうし。


「それじゃあ……よろしくお願いします」


 バウアーさんが笑顔で頷き、リコリスちゃんが華やいだ表情になる。

 やると決めたのはいいが、具体的に何をするのだろう?

 バウアーさんは俺とリコリスちゃんを向かい合わせ、チョークらしきものを取り出して線を引いていく。

 そして俺たちを中心に円形の線を引き終えると、背中を伸ばして腰を軽くさすった。


「……?」

「何です? バウアーさん。この円は」

「ほっほ。折角生徒が増えたのですから、まずはお二人でできる訓練から。ルールは簡単……お二人にやっていただくのは、鬼ごっこです」

「「鬼ごっこぉ?」」

「ただし、相手を捕まえる鬼の役はリコリスさんで固定。逃げるのはハインドさんだけです」


 説明を聞き終え、俺は思ったことを素直にバウアーさんに質問した。


「あの、逃げる俺は回避の訓練になるでしょうけど。リコリスちゃんにはどんな意味が……?」

「リコリスさんには相手を追い込む感覚を覚えていただきます。それから飛び込むタイミング、飛び込んで捕まえきれなかった時のフォロー、それから――」

「一杯あります!?」

「本当、一杯あるな……」

「あるんですなー。それらを体で覚えていただいてから、改めて剣と盾を持ちましょう。それまで武器は必要ありません」


 バウアーさんがやれという本気の鬼ごっこは、予想以上に理に適っているらしい。

 剣と盾を取り上げられ、半人前度が上がったとしょんぼりしていたリコリスちゃんだったが……。

 やがて楽しそうな表情で顔を上げた。


「でも、鬼ごっこなんて何年ぶりでしょうか!? 何だかワクワクしてきました!」


 そう言って手を俺に向かってわきわきさせてくる。

 ……捕まえる、というか相手にタッチするだけだよね?

 うーん、何だか妙な事態になっているが。


「円の大きさ、制限時間などはわしがお二人の様子を見ながら変えて行きます。二回目以降で負けた方は、そうですな……現実で筋トレでもしてもらいましょうかな? 一回負けるごとに加算していく形で」

「えっ、ペナルティあるんですか?」

「ええ、緊張感を持って訓練していただくために。筋トレ内容もゲームに役立つものにします故、ご心配には及びませぬよ。お二人は真面目ですから、きちんとやってくれるでしょうし」


 俺とリコリスちゃんは顔を見合わせた。

 そりゃあ、嘘を吐いたら次に会う時に気まずくなるしな……筋トレのほうがずっとマシだ。

 リコリスちゃんもそう思っているのか、二、三度頷く。


「しかし、ゲームのための筋トレって……冷静に考えると凄い言葉だ。身体スキャンがあるVRならではというか」

「負けませんよ、ハインド先輩!」

「ああ。やるからには本気で相手をさせてもらうよ」

「ふふ……では、始めていただきましょうかな?」


 バウアーさんがすっと片手を天に掲げ――俺たちが軽く足を曲げて力を溜めると、手を振り下ろした。

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