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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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飴と鞭作戦 石窯作り

 リコリスちゃんがバウアーさんからの訓練を受ける中、俺はその場をそっと離れた。

 こちらはこちらでやることがある。

 庭の空いている、確かこの辺りで作っていいと言っていたが……。


「ハインドさん?」


 リィズがうろうろしている俺を見て、不思議そうな顔で近付いてくる。

 ここで良いかな……?

 俺は位置を決めると、アイテムポーチに手を入れつつリィズに向き直った。


「石窯を作るっていう話を少し前にしただろう? 棟梁さんに相談したら、手伝ってやるからここに作れって言うから」

「ああ、ピザ用の……でしたら、私もお手伝いしますよ」

「ありがとう。直に棟梁――ファベル爺さんも来るはずだから、今の内に材料を並べておこう」


 みんなはあちらの訓練を見るのに夢中だ。

 まだ人手も必要ないし、邪魔をするのも悪いので二人で材料を並べていく。

 最も場所を取っているのは、この――


「よーう、ハインド。耐火煉瓦は用意……できてるみたいだな。結構結構」

「ファベル爺。自力で作ろうかと思ったんですけど、結局取引掲示板で買いましたよ……適した粘土が近場で見つからなくてですね」


『耐火煉瓦』はランクの低い炉を自分で作製する時や陶芸用の窯に用いるらしく、少ないながらも取引掲示板で出回っていた。

 俺はイベントマネーに物を言わせ、同じ生産者の出品していた煉瓦を全て買い占めた。

 マイナー故に作製者が凝り性だったのか、質は高めの値段に見合う上等なものとなっている。

 数はギリギリだが、ファベル爺に教えてもらいながらであればきっと大丈夫だろう。

 そんな経緯を伝えると、ファベル爺は顎に手をやりつつ俺の顔を覗き込んだ。


「ふーむ。まず自分でやろうとするのは大したもんだが、その内パンクしやしないか? 楽できるところは楽したほうがいいと思うぞ。ジジイからの忠告」

「お分かりになりますか、ファベルさん。そうなんですよね、ハインドさんって……」

「だから嬢ちゃん、目が離せないって?」

「いえ、例えそうでなくとも目を離す気は一切ありませんが」

「ははは、お熱いこって」

「……」


 俺がいたたまれなくなっていると、救いは背後から物理的な衝撃と共に訪れた。

 屈んで目の前に積んでいた煉瓦を避け、慌てて地面へと手をつく。

 これくらいでは壊れないと思うが、念のためだ。


「危なっ!?」

「すまん、ハインド! 勢い余った!」

「ユーミルか……あっちはもういいのか?」


 ぶつかる直前の駆け足の音はこいつのだったか。

 子どもたちもその辺を走り回っているから、反応が遅れてしまった。

 ユーミルはリコリスちゃんたちのほうを一度振り返ってから頷いた。


「うむ。派手な打ち合いではなく、細かな指導に入ってしまったからな。煉瓦ということは、石窯を作るのだろう? 私も手伝う手伝う!」

「そんなにピザが楽しみなんですか……」

「む、リィズ! 私はそんなことは一言も――」

「いや、ユーミル。何だよ、その生地を丸く伸ばすような動き……」


 ユーミルが手を顔の横辺りでくるくると回している。

 無意識だったのか、自分の手を止めてハッとした顔で目を丸くした。


「ぬおっ、いつの間に!?」

「大体お前、そんな芸当できないだろう? 難しいんだぞ、アレ」

「もちろんできないぞ! 当たり前だろう!」

「威張んな」


 ファベル爺さんがカラカラと笑う。

 そろそろ作り始めたいんだが……リコリスちゃんの今日の訓練が終わるまでには、窯を完成させるようにしたいところ。




 しばらくするとセレーネさんも石窯作りに加わってくれた。

 鍛冶に限らず工作系が得意な彼女のおかげで、作業の速度が格段に上昇する。


「うん、セレーネ嬢ちゃんは筋が良い。仕事が速くてその上、丁寧だ。俺の息子もこんくらいだったらなぁ……」

「あ、ありがとうございます。鍛冶もいいけど、こういうのも割と楽しいかも……」


 あっという間に下部の形ができあがり、今は炉床ろしょうを作っている段階だ。

 ここにピザを乗せて焼くのだが……一発で平行にできそうだな。

 炉床がガタガタだと焼きムラができたり表面だけ焦げたりするそうだ。


「棟梁の息子さんも大工なのか? ――あ、つい口が滑った、とかだったら無理には聞かんぞ?」


 材料や道具を差し出す係となっているユーミルが、ファベル爺に質問を投げる。

 その質問に対し、ファベル爺はむしろ聞いてほしいとばかりに即座に答えた。


「まあ、なんつうか……厳しくし過ぎてな? 今は全然別の仕事に就いてる。俺も若かったっていうか、堪え性がなくてな。口喧しい上にお前には任せられねえってなもんで、直ぐに自分でやっちまって――ハインド、ズレてるぞ。角度を変えてこっちから見てみろ」

「あ……本当だ。その話、今のファベル爺からは想像つきませんが」

「簡単に手を貸さずに見守ってくれていますよね」

「反省の成果ってやつだな。息子は俺のせいで大工としては腐っちまったが……代わりに孫がな」

「大工なのか?」


 ファベル爺がほっこりした顔で頷く。

 息子さんも大工の道に挫折したからといって、「今は」特にファベル爺を恨んだり責めたりしていないそうで……。


「ジジイの内輪話に付き合ってくれてありがとうよ。さ、炉床ができたらいよいよ――」

「アーチ型の天井だな!? 完成の時、近し!」

「綺麗にアーチに組むために、事前にこんな木枠を作っておいたぞ」


 話ながら粗方完成していた石窯の上部分に、俺はかまぼこのような形の木枠を置く。

 これに沿って煉瓦を組んで、木枠は最後に抜くか燃やすことになる。


「しかし、やはり乾燥やら何やらが高速で済むのはいいな。これならリコリスの訓練終わりに間に合いそうだ!」

「だな。一気に仕上げ――」

「おーい! ハインド殿ぉー! みんなぁー!」

「……トビも来たことだし、手伝ってもらって一気に仕上げよう」


 メールを見てくれたのであれば、足りない食材を持って来てくれているはずだ。

 時折リコリスちゃんの鎧や盾から聞こえる澄んだ金属音が響く中、俺たちはトビを加えて石窯作りの完成へと取りかかった。

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