リコリスと新装備設計図
大量の洋紙を挟んで俺とセレーネさん、リィズは検討を重ねていた。
前日聞いたリコリスちゃんの希望と、模擬戦のデータを取り込んで図案を作り上げていく。
洋紙には盾・武器の図面、図面、図面……。
この二つが決まったら、合わせて鎧のバランスも見直さなければならないだろう。
手持ち装備だけ変えてはい終わり、という訳にもいかな――
「おお、これは……見ろ、リコリス!」
「こんなに沢山……」
鍛冶場が俄かに騒がしくなる。
セレーネさんと二人、顔を上げるとユーミルとヒナ鳥三人の姿があった。
ユーミルが床に落ちてしまった書きかけの
「来たか……セレーネさん、ここまでにしておきますか」
「うん、そうだね。この中から選んでもらえれば」
「リィズも、その辺りで」
「はい」
「む、何だ何だ? まさか、もう装備の設計図ができたのか?」
「まだ完成案じゃないけどな。リコリスちゃん」
「あ、はいっ!」
俺は机に散乱していた図面を纏めると、途中経過にあたるものを全て別に。
まずは盾から、ある程度中身を詰めたものをリコリスちゃんに渡す。
「どうぞ」
「ありがとうございます! わあ……」
「逆三角形型のカイトシールドなのは譲れないってことで、カイトシールドのまま小型化。盾の丸みを活かした防御も、完璧ではないにせよできていたからそのように。だから厳密には、派生型のヒーターシールドが一番近い分類――で、合ってます? セレーネさん」
「うん、ばっちり」
「凄い、全部格好いいです! 目移りしちゃいます!」
「おー。一日インしなかっただけで、めっちゃ話進んでますねー」
リコリスちゃんの手元の図案をシエスタちゃんがのんびりと覗き込む。
食い入るように洋紙に目を落とすリコリスちゃんに、サイネリアちゃんが思わずといった様子で苦笑する。
「リコったら、今日一日学校でずっとそわそわしていたんですよ。新しい装備が楽しみで仕方ないみたいで」
「うん! うん!」
頷きながらも次々と洋紙をめくる。
設計図が複数あるのは、微妙に形やサイズが違っているためだ。
「ところで、どうしてリコリスはこの系統の盾が良いのだ?」
「騎士っぽいからです!」
「え……それだけ? それだけなの、リコ?」
「うむ、確かに! 騎士っぽい!」
「ええ……先輩、二人の会話についていけないんですが……」
「あー……」
カイトシールド自体、元は馬上で使う大型の盾なので騎士らしいという意味では間違っていない。
シエスタちゃんが呆れているのは、昨夜色々な盾を試した上でそんな選定理由に落ち着いているからだろう。
しかし「魔女っぽいから」という理由でリィズに三角帽子を作った俺には何とも言えない。
――あ、そうそう。リィズといえば……。
「表面の装飾に関しては、リィズが担当してくれたんだけど。どう? リコリスちゃん」
「何だか、格好良いだけでなく気品を感じます! リィズ先輩、ハイセンス!」
「妹さん、こういうの得意ですよね。パフェの盛り付けもやってたし」
「そんなことを言って、あなたもこれくらいできるでしょう? その気がないだけで」
リコリスちゃんの直球な褒め言葉の照れ隠しなのか、リィズはシエスタちゃんにそう切り返した。
返事をするように頭上のマーネがピィ、と鳴く。
続けてリコリスちゃんも大いに頷いた。
「そうなんですよ! 服選びとかも、気が向いた時しか付き合ってくれないんですよ! シーちゃん、せめて盾を選ぶの手伝って!」
「……まあ、それくらいなら」
「サイちゃんも、お願い!」
「はいはい」
そんな三人を微笑ましく見守りつつも、セレーネさんが俺に先を促すような視線を送ってくる。
盾はゆっくり選んでもらうとして、後は武器の設計図を見せておかないとな。
「で、武器はある程度こちらに任せてくれるってことで……この一枚にほぼ決まりの予定。確認してくれる?」
「はい! ええと、これは……」
「片刃……サーベルでしょうか?」
「サイネリアちゃん、正解。こちらについてはセレーネさん、説明をお願いします」
「うん。今までリコリスちゃんはショートソードだったけれど、今まで以上の機動性を確保しつつリーチの不足を補うには、これ一択だろうって話になったの。レイピアほどではないけど、細身の刀身で仕上げられるしね」
刺突が得意なようならレイピアという線もあったのだが、リコリスちゃんは斬撃のほうが上手だ。
サーベルならば、今までの幅広のショートソードよりもずっと合っているはず。
サーベルと聞いて、ユーミルがリコリスちゃん並にわくわくした表情でこちらを見る。
「盾にサーベル……良いではないか! いよいよ騎士らしくなってきたな!」
「かなり近世の騎士に近い装備になりますよね? セレーネ先輩」
「盾も軽くなるし、そうだね。結果的に、時代通りに進んだ形になったって言えなくもないのかな?」
それもこれも、リコリスちゃんが大きな盾を持ち替える決意をしたからこそである。
シエスタちゃんが感慨深げに腕を組んで二度頷く。
「今までちょっと芋っぽい装備だったリコも、遂にスタイリッシュになっちゃうのかぁ。寂しいような、別にそうでもないような」
「芋……!? シーちゃん、そんな風に思ってたの!? 酷い!」
「大きな盾を持ってバタバタ走り回ってたもんね、リコ……」
「サイちゃんまで……こ、こほん! ところでですね、ハインド先輩!」
「うん?」
「装備を変えたからって、簡単に動きが良くなるほど甘くないと思うんですけど……新しい戦闘スタイル、どうやって練習したらいいんでしょう?」
「それはもう考えてある。リィズ、例のやつを」
「はい」
俺の言葉を受けて、リィズが次々と装備をリコリスちゃんに渡していく。
リコリスちゃんは目を白黒させながらそれを受け取り……。
「な、何ですかこれ? 設計図の装備……とは、違いますよね?」
「間に合わせのサーベルとヒーターシールド。鎧は今までのものを使ってね」
「ええと……あ、分かりました! 決闘ですね! 実戦あるのみですね!?」
「残念、ハズレ」
「あれ?」
「分かったぞ! 昨夜のように、私と模擬戦だな!?」
「それも悪くないけど、ハズレ。今日は別の人にリコリスちゃんの指導を頼んである。みんな、とりあえずホームから出るぞ」
先に来ていたセレーネさんとりィズには既に詳細を話してある。
三人で後から来た疑問顔の四人を促し、俺たちはギルドホームの外へと向かった。