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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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各々のPT防衛術

 訓練室内で再集合したところで、俺は話を切り出した。

 お題はずばり「大きな盾を持たなくても味方を守れるどうか」である。

 リコリスちゃんがそれを聞いて、慌てた様子で質問してきた。


「ど、どういうことですか!? そんなことができるんですか!?」

「守るってのは何も、味方に飛んできた敵の攻撃を庇ったり防いだりすることだけじゃないと思うよ。大前提としてTBの戦闘は相手がモンスターの場合、ヘイト値ってものがあるじゃない」

「ええと……それが盾にどう繋がるんですか?」

「まあまあ、順序があるから焦らずに待っててよ。その辺りの話をトビ、詳しく頼む」

「おっ、拙者でござるか? そうでござるなぁ……」


 ヘイト値については回避盾であるトビが最も詳しい。

 こいつを見ていると、味方パーティを守るのに必ずしも防御力だけが重要ではないことが分かる。


「ヘイト引きはスキル任せとして、その後は位置取りでござるな。敵の注意を引きつつ、味方に危害が及び難い位置へ誘導。余裕があれば、味方が攻撃しやすいかどうかも考えつつ……。こうすることで、ハインド殿の言うように間接的に味方を守ることに繋がっているはずでござるよ。いかかでござるか?」

「な、なるほど……私、味方の前で盾を構えることしか考えていませんでした!」

「範囲スキルなどの場合、盾で防ぎ切れずに後逸ということもあるでござろうし」

「どれだけ盾を大きくしようと無理なものはあるよな。で、トビ。それって対人戦の場合はどうなる?」


 自分の出番ではないことを悟ったのか、ユーミルは一歩離れて剣を素振りしている。

 ユーミルにも話してほしいことがあるんだが……まあいい。今はこっちだ。


「プレイヤーにヘイト値はないでござるから、リアルヘイト……つまり、なるたけ敵の前で激しく動き回る。上手くこちらに注意を引けたなら、後の動きは同じでござるな。無視されるようなら、横なり後ろからきっつい攻撃をお見舞いしてやればいいのでござるよ」

「――凄い! 対人戦にもきちんと応用できる動きなんですね!」

「ふふふ、その通りでござるよ! 拙者が敵の攻撃を多く躱すほど、みんなが楽になるという寸法よぉ!」

「わあ……」


 リコリスちゃんの賛辞にトビは鼻高々だ。

 セレーネさんがペチペチと拍手を送り、ユーミルが素振りを止めてこちらを向く。


「うむ、こいつの鬱陶しさは天下一品だからな。モンスターだろうとプレイヤーだろうと、等しく目障りに感じることだろう!」

「ユーミル殿、それ褒め言葉のつもりなの!? 俺、泣くよ!?」

「泣くな、鬱陶しい!」

「泣くに泣けない!?」


 その切り返しを見るに、素振りをしながらちゃんと話を聞いていたのか。

 トビが唖然としたままだと話が進まないので、俺はフォローを入れることにした。


「言い方はアレだけど、囮役としては最高の褒め言葉なんじゃないか? 落ち込む必要はないだろ」

「あ、そっか」

「それで納得しちゃうんだ、トビ君……」

「トビですから。で、リコリスちゃん」

「はい?」

「後はもう一人、ユーミルが味方をどう守っているかの話も聞いてほしい。その上で、もう一度自分の戦い方を考えてみてほしいんだ。新しい武器・防具もそれに合わせるからさ」

「……はいっ!」


 トビの話を聞いた時点で目から鱗といった様子なので、いわばこれは駄目押しである。

 既にリコリスちゃんの中で思い描く戦闘スタイルに変化は訪れているだろうが、参考になるものは多いほど良い。

 俺がユーミルに目を向けると、当人は渋い顔をした。


「むう、私か? 上手く説明する自信はないぞ?」

「安心しろ、俺がやるから。違う! ってところがあったら話の途中で構わないから言ってくれ」

「そういうことなら……心して聞くがいいぞ! リコリス!」

「はい、ユーミル先輩!」

「説明できない癖に、やたらと偉そうでござるなぁ……」

「ま、まあまあ。ハインド君、どうぞ」


 セレーネさんが俺に話を促してくれる。

 ええと、そうだな……。


「ユーミルの味方の守り方は非常に単純明快だ。敵を倒す、数を減らす」

「おお、なるほど! 攻撃は最大の防御だからな!」

「ユーミル殿が感心してどうするのでござるか……ご自分の話でござるよ?」

「でも、本当にそうだよね。ユーミルさんが前に出て攻撃してくれると、トビ君とは違った意味で後衛に余裕が出るもの」

「ええ。敵をやってしまえば味方に危害は及びませんから。これに合わせて、例え倒せなかった場合でも――」


 半端なところで言葉を切った理由は、リコリスちゃんに強い理解の色が見えたからだ。

 俺は一つ頷くと、話を振ってみることにした。


「リコリスちゃん? 続きを言ってみてくれるかな」

「はい、ようやく私にも分かってきました! 倒せなくても攻撃を当てた際のノックバック、ヒットストップで敵の動きを邪魔できるんですね! 攻防一体、です!」

「そう、そういうこと。詠唱中にこちらに向かってくる対戦相手を吹っ飛ばすユーミルは、心底頼もしいよ。おかげでいつも俺は、落ち着いて後ろで構えられる」

「――! ――!」

「ハインド殿、褒め過ぎでユーミル殿が悶絶しているでござるよ?」

「ゆ、ユーミルさん! どこまで行くの!?」


 顔を覆って訓練所の床をゴロゴロと転がってから、ユーミルはパッと立ち上がった。

 赤い顔のままでリコリスちゃんの両肩に手を置く。


「ど、どうだ! 参考になったか!? リコリス!」

「はい、とても参考になりました! そっか、位置取りや攻めがみんなの助けに……防御型ガードタイプだからって、亀さんみたいに丸まっているだけじゃ……」


 リコリスちゃんの目が輝いているのはきっと、憧れのユーミルの戦闘スタイルを取り込む余地を感じ取ったからだろう。

 やがてリコリスちゃんは身の丈に合っていなかったカイトシールドを外し、訓練用の木製の小型盾を手にした。

 武器も木製のショートソードに合わせて変更。


「……ユーミル先輩、もう一度模擬戦をお願いできますか?」

「もちろんだ! 一戦と言わず、納得いくまで何度でも!」

「ありがとうございます!」


 ユーミルもリコリスちゃんに合わせ、自前の装備から長さの近い木製の剣を手に取った。

 それを見たセレーネさんが操作パネルに近付き、二人に静止の声を上げる。


「待って、二人とも。訓練用装備は重さや素材を自由に設定できるの。リコリスちゃん、ちょっとこっちに来てくれる?」

「あ、はい!」

「一戦ごとにサイズや重さを変えて、盾の好みを探ってみるから。できれば武器のほうも。あの、ハインド君――」

「了解です。記録係をやりますよ」


 俺はインベントリから洋紙を取り出した。

 セレーネさんが頷き、「お願いね」と口にしてから装備の設定に戻る。


「ハインド殿、拙者は? 何かできることってないのでござるか?」

「そうだな……ユーミルと一戦ごとに交代して、リコリスちゃんと戦ってみるか? 軽戦士との戦いもやっておいたほうがいいだろう。途中から二対二にしてもいいし」

「承知いたした!」

「私の武器を少し重くして、仮想重戦士もできなくはないな! 本職と全く同じにはできんが、多少それらしくはなるだろう!」

「良いアイディアだと思うよ、ユーミルさん。疑似重戦士なら、ハインド君にホーリーウォールを使ってもらうっていう手もあるかな?」

「て、手厚いバックアップ……何だか私、緊張してきました! と同時に、やる気が湧いてきました!」

「その意気だ、リコリス! 目指せ、新リコリス!」

「新リコリス、です!」


 ユーミルとリコリスちゃんが同時に剣を掲げ、気合を入れる。

 その夜は五人で訓練所に籠もり、目一杯リコリスちゃんの戦闘スタイル・装備模索に時間を費やした。

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