戦闘スタイルと適正装備
リコリスちゃんとユーミルが武器を手に対峙する。
俺たち三人は地下の訓練所でそれを見守っていた。
ガチガチに緊張したリコリスちゃんに対し、ユーミルが長剣の切っ先を向けて腰を落とす。
「行くぞ!」
「ま、待ってください! まだ――」
「駄目だ、待たん! ……と、言いたいところだが今回は特別だ。お前のタイミングで全力でぶつかって来い!」
「は、はいっ! ……行きます!」
ユーミルの目の前に駆け込んだリコリスちゃんが、ショートソードを真横に鋭く一閃する。
それをユーミルは長剣で綺麗に止めたかと思うと……直後、リコリスちゃんの数倍の勢いで剣が激しく振るわれる。
怒涛の攻撃に対し、リコリスちゃんは盾で防ぐのが精一杯だ。
勢いに押され、全く反撃の手が出ない。
「うーん、じりじりと下がって……間合いが遠いか? あ、やっと手を出した。でもやっぱ遠いな……」
「ショートソードが全く届いていないでござるな……おっ、シールドバッシュ当てた。要所要所に光る動きは見られるのでござるが、盾が重そうでござるな」
「防御の反応はとっても良いから、盾を小さくして機動力を確保したらどうかな?」
「でも、あれって本人の希望なんですよね。味方を守れない盾は嫌なんだそうで」
「軽戦士だと小型バックラーを用いているプレイヤーが多いのでござるが、他人を庇ったりには適さないでござるし。うーむ……」
今リコリスちゃんが装備している盾は中型のカイトシールド。
しかし、残念ながら重量的な問題もあって持て余し気味だ。
ユーミルとの模擬戦を見ながら、俺たちはリコリスちゃんの装備について検討中だ。
リコリスちゃんの目指す戦闘スタイルは今俺が言ったように「しっかり味方を守れる騎士」とのことだ。
「そういえば、レイドボスの時はもっと大きな盾を使っていなかったでござるか? タワーシールドのような」
「クイーン・ソル・アント戦だな。使っていたけど、あれはあの時だけだろう? パーティ戦やレイドボス戦では、自分でダメージを取る必要がないからな」
「防御力は相応に高いけれど、普段は重すぎて使えないよね」
いわんや、一対一では話にならない致命的な遅さとなる。
パーティ戦だけでなく、リコリスちゃんは少人数の決闘でもしっかりと勝てるようになりたいそうだ。
ああいったものはその場限りの特殊装備なので、基本となる装備を構築したい今回とはまた別の話だ。
ただし……
「それこそ、アルベルトさんみたいな体格ならタワーシールドでもぶん回せるんだろうけど」
「兄貴なら片手で振り回せそうでござるな」
「う、うん。本当にできそうだね……」
セレーネさんが微妙な笑みを浮かべながら同意する。
あの人、時々グレートソードを片手で振ってる時があるからな……どういう筋力だ。
「でも、私としてはやっぱり、あのカイトシールドの時点で重そうなのが気になっちゃうかな。頑張って軽量化はしたんだけど……」
「あれ以上軽くすると防御力に問題が出ますからね。いっそ武器をもっと小型にして、盾を大型のスパイクシールドに。そのまま盾で攻撃するってのはどうだろう? 武器は完全におまけ扱いになるけど、隙は大きく減るはず」
「スキルのシールドバッシュの威力が上がりそうでござるな。しかし、シールドカウンターはシールド受けしてからの武器攻撃で発動でござるよ? 盾で受けて盾で攻撃では、確か発動しなかったはずでござる」
「面白い案だと思うけど、トビ君の言うようにTBのシステムには合っていないかもね」
「余計にカウンターが難しくなりますか……まあ、この案はないですね。忘れてください」
視線を戦う二人に戻すと、未だに一方的にユーミルが攻撃を続けている。
これだけ攻撃を防げていることからも、リコリスちゃんの反射神経はかなりのもののはずだが。
あのショートソードがいけないのだろうか……? リーチが足りない?
「あの盾を維持するなら、今よりも武器を大きくするのはどうかな。槍――は趣味じゃないんだったな。リコリスちゃんの注文、結構難しいな……」
本人の希望との擦り合わせが非常に難しい。
任せろと言った手前、今更投げ出す気はないが。
剣と盾という組み合わせはリコリスちゃん的に譲れないものらしい。
「リーチの長い剣ならエストック――は両手用だから、クリシュマルドですかね? セレーネさん」
「! いいねそれ、ハインド君。作ってみたいかも!」
セレーネさんが急にうきうきした様子でリコリスちゃんに視線を向ける。
どんな大きさ・カスタマイズにすれば合うかを考えているらしい。
一方、トビは話についていけずに首を捻った。
「……それ、どういう武器でござったっけ? 何かのゲームで名前を見た記憶はあれど、お二人の武器談義にはついていけないでござるよ。クリシュマルド、クリシュマルド……形状が頭に浮かんでこない……」
「ざっくり言うと、突き用の片手長剣だと思ってもらえれば。しかしなぁ……」
「……? 良さそうに聞こえるのでござるが?」
「これもがっしりした体型の人にやってほしい戦法ではある。長剣を片手で持って、ブレないように刺突を繰り出す筋力が必要だから」
「ああ、なるほど……どちらにせよ、リコリス殿に重装歩兵はちと厳しいでござるよな」
「それに、基本的に重くなるほど一対一や少人数の決闘では不利だよね……」
俺たちが考え込んでいる間に、あちらでは強烈な爆発音と女の子の悲鳴が上がった。
三人で一斉に視線を戻すと、ユーミルの『バーストエッジ』でリコリスちゃんがカイトシールドごと吹っ飛ばされているところで……。
「……重装備もあれだけど、見ての通り中途半端なんだよな。今のカイトシールド」
「リコリスちゃん自身が選んだ職業と目指す戦闘スタイルは、きちんと合っているんだけどね。だからこそ、装備をもっと良い物にしてあげたいんだけど……」
「難しいでござるな。同じ盾役として、拙者も助けになりたいとは思うのでござるが」
俺たちはしっくりこないリコリスちゃんの動きに思わず唸った。
戦闘スタイル上、最も良いと思われるのは盾と武器を大型化する重装化だ。
しかしそれでは、リコリスちゃんの運動神経と動きの速さを活かせない。
「しっかりと味方を守れる騎士か……でもそれって、必ずしも大きな盾を持つ必要は……」
「……えっと、もしかして何か腹案があるの? ハインド君」
「はい、一応は。ですが、実行するかどうかはリコリスちゃんに内容を話してみてからですね」
セレーネさんの問いかけに、俺は考えを纏めて顔を上げた。
既に模擬戦闘は決着がついており、吹っ飛ばしたリコリスちゃんにユーミルが剣を突き付けたところだ。
残存HPも一目で勝者が分かる差となっている。
「おーい、二人とも。一旦切り上げてこっちに来てくれるか?」
俺の呼びかけに、戦闘を終えたばかりの二人は元気に戻ってきた。
――いやいや、負けたリコリスちゃんも元気なのかよ。
そんなユーミル相手だから負けて当然、みたいな顔はちょっとまずい気がする……。
これは是非とも「頑張ればもしかしたら勝てるかも?」と、多少思えるくらいにはしてあげたいところだ。