決闘適性 騎士・防御型
俺はまず騎士の防御型の評価を話すことにした。
「一対一を見た回数なんて数えるほどだから、未知の部分もあるが……今までの対人戦イベントを振り返ると、強い職業の傾向が大体分かる。俺の私見が多分に混ざるんで、話半分に聞いてほしいんだけど」
「細けーことはいいんですよぅ。先輩の感覚は割と信用してますんで。それで?」
軽戦士の少女の突進をリコリスちゃんが盾で受け止める。
リコリスちゃんが反撃を繰り出す前に、少女は軽装を活かして即座に回り込む。
長いサイドテールが軌跡をなぞるように遅れてついていく。
……何だろう、いきなり強敵と当たってしまった感があるな。
大丈夫だろうか? リコリスちゃん。
「決闘の一対一で強いのは、当然ながら前衛職だ。それに加えてスキルの扱いやすさ、明確な長所なんかがある職がいわゆる“強い職業”だと言える。二人に思い出して欲しいんだけど、闘技大会ではどの職業が強かった?」
「猛威を奮った弓術士の連射型は後衛ですから、前衛でということでしたら……重戦士ですね。特に攻撃型が参加者も多く、その上かなり強かったです」
サイネリアちゃんが即座に答えてくれる。
その通りで、決勝トーナメントに残ったクラスを思い出すと、前衛で最も多かった職業は重戦士だ。
「重戦士の攻撃型はとにかく攻撃力、攻撃力と、全スキルが火力極振りといった職業だ。個人的にスキルを適当に撃っても強いってのは、凄く大事なことだと思う。バーサーカーエッジ発動からのフルチャージしたランペイジを当てれば勝ち、ってのは分かりやすいしね。外しても、高HPで耐えて二発目が飛んでくることが多かった訳で……俺も相手にするのが嫌だったのを、今でもはっきりと憶えているよ」
「シンプルなのは強いってことですねー。HPが多いと、MP稼ぎも楽ですし」
MPがない状態の素の殴り合いもトップクラスなので、あれだけ猛威を奮ったという訳だ。
苦し紛れに撃ったスキルで逆転、なんてことも可能にするだけのパワーがある。
「まあ軽戦士ならスキル抜きでも、通常攻撃一撃で砕け散る可能性もあるでござるがな!」
急にトビが目を見開いて会話に割り込んでくる。
その割に楽し気な口調なのは……ああ、そういうことか。
「一撃というと、アルベルトさんが盗賊エドワードを吹っ飛ばしたあの試合のことだな? あれは特殊ケース過ぎるだろう」
「セッちゃんの作ったメテオグレートソードを、高速で正確に振り抜けるアルベルトさんだからできたことですよね? いくら軽戦士が低耐久でも、普通は有り得ないことです」
「やっぱり兄貴は最高でござるな!」
「お前、それが言いたかっただけだろう?」
俺はリィズと共に嘆息した。
一方でセレーネさんとユーミルは、メテオグレートソードの名を聞いて「懐かしい」と二人で話をしている。
そしてリコリスちゃんの試合の方はというと……どうもサイドテールの少女にかなり苦戦している模様。
それを見ながら、シエスタちゃんが会話の軌道修正を図る。
「あと、騎士の均等型も強かったですね。アンチ重戦士っぽい側面もありましたが」
「あれはあれで、魔法剣の消費MPが低いって強みがあるから。ダメージを受けても消えないし、とりあえず出しておけば牽制にもなる。防御面も隙がないんで、TBの前衛で一番万能な職なんだよね」
「確かに騎士の均等型は、ハインド先輩の仰る通り安定感があって強いという印象でした。なるほど、どちらもそれぞれ強みがあって長所が分かりやすい……」
「――で、それを踏まえると、リコの職はどういう評価になるんです?」
サイネリアちゃんが唸り、シエスタちゃんが結論を求めてくる。
リコリスちゃんの職業、騎士の防御型は……。
「今挙げた二つの職と比べると、決闘で強さを引き出すのが難しい職業だ。より正確に言うと、ダメージを稼ぐのが非常に難しい」
「ダメージを、というと……」
「あー」
二人が理解した、といった様子の表情を見せる。
シエスタちゃんが言葉を続けた。
「つまり、ダメージソースがカウンタースキルばっかだから良くないってことですね? PTで壁役やってる内はいいけど、これは一対一……それも対人戦だもんなー」
「そう。大技のリベンジエッジは消費MPが高いんで、主導権を握るためには序盤からシールドカウンターを上手く決めて行かないといけない。一言で纏めると、一対一や少人数の決闘で活躍するには高いテクニックが必要な……上級者向けの職業ってことになるかな? 騎士の防御型って職業は」
「弓術士の前衛型、軽戦士の罠型程ではないよね?」
と、これはセレーネさんの発言だ。
その二つは一・五列目といった特殊な前衛ではあるが、よく掲示板で上級者向けとされる職業だ。
「そこまでではないはずです。ただ、同じくカウンター系のスキルを持つ武闘家・蹴撃型よりは明らかに難しいです。あっちはチャージ系のスキルも豊富ですから」
騎士の防御型の要となる『シールドカウンター』は、相手の攻撃を盾受けした直後から一定時間内に反撃を命中させなければならない。
反撃は自前の物理攻撃力に加えて相手の攻撃力を倍加させて返すので、当たりさえすれば消費MPの割に強い。
サイドテール少女の剣を、リコリスちゃんが光を帯びた盾で防ぐ。
光は剣へと移り、威力の上がった攻撃をショートソードで仕掛けるリコリスちゃんだったが……。
「リコ、踏み込みが浅いよ……」
「動きが直線的……スピードはそれなりに速いけど、あれなら私でも躱せそう……」
「あれっ、なんか応援じゃなくて駄目出しが聞こえる!? さ、サイちゃん!? シーちゃん!?」
「リコリス、集中しろ! 今の呟いた程度の声が聞き取れる時点で、色々と駄目だろう!」
「は、はいっ! すみませんユーミル先輩!」
「ぷっ……あ、ごめんなさい。もういいですか?」
相手の少女がリコリスちゃんの顔を見て笑った。
攻撃の手を緩めて待ってくれている辺り、余裕を感じる……。
MPも余らせ、どんな動きにも対応できるといった様子だ。
「もちろんです! 行きますよ!」
気合を入れ直し、リコリスちゃんが自ら前へと進み出る。
……カウンター主体なのに、自分から無防備に向かっている時点でもうすでに厳しい。
結果、サイドテールの少女から激しい反撃を受けたリコリスちゃんは……。
「あたたたたっ!? な、何です今の!」
「リコリスちゃん、落ち着いて! ダメージはそれほどでもないよ!」
「リコ、しっかり! よく見て!」
「多少のダメージは無視するのも手だよー。割り切っていこー」
「え、えと……わわっ!」
『ダブルスラッシュ』、『トリプルスラッシュ』といった軽戦士・攻撃型の低コストスキルで斬り刻まれた。
どちらも一度の攻撃で複数のダメージが発生するスキルだ。
多段ヒットによる動揺からか、それともヒットストップによる制限からか。
俺たちの言葉もあまり効果はなく、急速に動きは鈍り、リコリスちゃんは挽回できずにノックアウト。
終盤MPは溜まっていたが、あれだけHPが減ってからでは『リベンジエッジ』も今一つ効果を発揮できない。
更には慌てているせいか、デバフ付きのスキルである『大喝』の存在も忘れてしまっている。
そんなリコリスちゃんに対し、相手は大型スキルを使わずにそのまま完勝。
「も、もうだめ……」
リコリスちゃんが勢い良くばったりと倒れ、俺たち共々元の小神殿へと戻された。