ランクシステム・決闘ランク
決闘ランクはギルドランクとは違い、決闘の結果によって常に変動する。
スタートは全員Eランクからで、プレイヤーには開示されない内部レートで計算されるとのこと。
俺たちのプレイヤーネームの後ろにも、Eというグレーで表示されている。
左からレベル、プレイヤーネーム、決闘ランクの順番だ。
決闘は今まで通り双方の同意があれば、安全エリア以外であれば直接その場で行うことも出来るが……。
「では、まず私と勝負するか!? リコリス!」
ユーミルの提案に、リコリスちゃんが驚いて椅子から腰を浮かせる。
「ええっ!? む、無理ですよぅ! 私、一瞬で負けちゃいます!」
「やってみなければ分からんだろうが! どうだ!?」
「ふ、普通に決闘用ポータルを使いましょうよ! ねっ!」
戦闘神ベルルムが設置したとされる決闘用ポータルで、大陸全土のプレイヤーと何時でも戦うことが可能だ。
リコリスちゃんが言っているのは、それを使った同ランクでのランダム対戦のこと。
「ユーミル殿、決闘イベント優勝者だって自覚が薄いでござるなぁー……」
「う、うん。あれはタッグ戦だったけど、それでもアルベルトさんに勝ってるんだよね……ギルド戦では弦月さんとも互角だったみたいだし」
「そうでしょうか? ハインドさんの支援がなければただの猪ですよ、あんな人」
「ユーミルのことはさておき、リコリスちゃんだって初戦から身内相手じゃやり難いだろう。ここは素直に言う通りにしようぜ……サイネリアちゃん、シエスタちゃんを起こしてくれる?」
「はい」
ということで、俺たちはギルドホームから街に出た。
目的地は神殿……ではなく、新たに建設された小さな神殿。
「どうして神獣バトルに使った礼拝所ではないのでござろう? 場所を変えた意味って何かあるのでござろうか?」
頭の後ろで手を組み、ゆるりと歩くトビがそんなことを呟く。
街中のプレイヤーたちの何人かは、俺たちと同じ方角に向かって歩いている。
きっと目的地が同じなのだろう。
「推測ならできるけど、聞くか?」
「お願いするでござるよ。着くまでの話の種としてはちょうどいいでござるし」
ノクスが肩の上で小さく足を動かす。
周囲のプレイヤーたちも、神獣を出しっぱなしにしている姿が多いが……俺もTBをプレイ中は、この重みがないと何だか落ち着かないようになってしまった。
「そうだな。ええと、まず……ポータルを設置したのが前回は動物神アニマリア、今回は戦闘神ベルルムってところがミソだと思う」
「どういうことですか?」
先頭でユーミルと話していたはずのリコリスちゃんが、こちらを向いて興味を示している。
いつの間にかみんなも歩きながらこちらを見ていた。
「常設とイベントの差ってのもあるけど、個人的には設置場所に両者の性格の違いを感じられて面白い。ほら、勝負事って――」
「くそっ、全然勝てねぇー!」
「……」
「何であそこで詠唱なんだよ! 位置取り考えろよ!」
「うっせえ! お前の足止めがザルなせいだろ!?」
ポータル用のミニ神殿から出てきた何人かの悪態やら不機嫌そうな顔が目に入る。
勝ったと思しきプレイヤーたちは比較的静かだが、表情を見ればどうだったかは察せられるだろう。
「……勝負事って、穏やかに構えてばかりはいられないだろう? 現地人から見て、そんな俺たち来訪者がどう見えるかって話だよ。その辺り、戦闘の神だけあってベルルムのほうが理解が深いというか、配慮がされているというか。それに比べて動物神様はあの通り、ぽやっとした性格みたいだし」
「確かにそうですね。礼拝所の中から、ああいう殺気立った人たちが出てくるのはあまりよろしくないです」
リィズが俺の言葉に同意の声を上げる。
設置場所を決めているのは運営だと思うが、素直に世界観に浸りながら考えるとこうなる。
リコリスちゃんは納得したように周囲のプレイヤーを見た。
「つまり大きい方の神殿内は静かに、穏やかにってことですね!」
「神獣バトルの時も、何人か荒れている人はいましたね。現地人の方に迷惑がかかりますし、移設は正解だと思います」
「そういや、神獣バトルのポータルなくなったんですよね。今後イベントがある場合は、こっちに機能が統合されるのかな?」
「かもしれないね。もしかしたら、いずれ神獣バトルも常設になるんじゃないかな?」
決闘は今回のアップデートと同時にイベントがあるのだが、終了後もそのままポータルが残されると発表があった。
神獣バトルは前回のイベント終了と同時に機能凍結、再開時期は未定となっている。
そして俺たちは決闘用神殿に到着。
奥には神獣バトルと同じく、光を放つ魔法陣が設置されている。
「さて、リコリスちゃん。決闘参加は一人から五人までだけど、どれで行くの?」
「えっと……二対二……じゃないや、まずは一対一で行ってみます!」
「おっ、一騎打ちか! いいぞ、行け行け!」
「はいっ、行ってきます! 見守っていてください、ユーミル先輩! みなさん!」
武装してポータルに乗り込むリコリスちゃんと一緒に、俺たちも観戦するために魔法陣の上へ。
すると、神獣バトルに使われた平地ゾーンによく似た場所へ移動させられる。
指揮エリアではなく現地で、何度も見たがこの上に立つのは初めてだ。
決闘者と観客を分ける見えない壁が発生し、リコリスちゃんが緊張した様子で前へと出た。
相手はリコリスちゃんよりも背が高く、俺たちと同世代くらいに見える女性プレイヤーだ。
剣を持っていることから騎士、重戦士、軽戦士のどれかだと思うのだが……っと、名前とレベル、職アイコンが視界内に表示された。
どうやら軽戦士のようだ。
「ハインド先輩……リコの一対一って、正直なところどうなのでしょうか?」
「それは騎士の防御型っていう職業の話? それともリコリスちゃん本人の向き不向きの話?」
「両方です」
サイネリアちゃんが心配そうにソワソワしながら俺に質問してくる。
隣ではシエスタちゃんが眠そうに大あくびをした。
マーネがそれをたしなめるように、くちばしで柔らかそうなほっぺをつつく。
「いたっ、いたたっ!? ちゃ、ちゃんと見てるってば、マーネ……先輩、そこんとこどうなんです? 私も気になりまする」
「もう始まるから、リコリスちゃんの戦いを見ながら解説するよ」
リコリスちゃんが盾とショートソードを構えてゆっくりと前に出る。
相手の女性が同じくショートソードを、こちらはステップを踏みながら軽やかに。
カウントダウンが始まり、戦闘開始の合図が鳴らされた。