ランクシステム・ギルドランク
着衣が部屋着から神官服へと変わり、気が付けば石材が多用された硬質な部屋に立っている。
ここはギルドホームにあるマイルーム、要は自室だ。
そして自分の頭上……はよく見えないので、ステータス画面を開いて確認してみた。
「おっ」
「おおっ!? こ、これはっ!」
俺の声を掻き消すように、隣室から大声が聞こえてきた。
次いでドタバタした足音が響き、ドアが開かれる。
「ハインド、ハインド! ギルドランクSだぞ! S! Aより上の!」
「見たよ。正確には総合ギルドのランクSだな」
ユーミルの頭の上にはプレイヤーネーム、レベル、ギルド名。
ギルド名・渡り鳥の横には見慣れないSというマークが黄色で表示されている。
ユーミルの視線からして、俺の頭上にも同じように「ギルドランク」が出ているはずだ。
ランクはSからEまでで戦闘ギルドは赤色のマーク、生産ギルドは青色のマークで表示されるそうだ。
「過去のイベント成績を参照しているのですから、Sランクで何もおかしくありませんけどね。私たちは古参ギルドの部類ですし、上位も取っていますから」
今度はリィズが開かれたドアから姿を現す。
このギルドランクは過去のイベントを元に算出されているそうだ。
リィズの言葉を聞いたユーミルが顎に手を当てる。
「ややこしいが、過去イベ全ての成績を元に加点方式で算出だったな? 戦闘ギルドは戦闘関連の、生産ギルド生産系関連の。総合はその両方で、それぞれ別部門として上位から順にランク付け……で合っているか? ハインド」
それできちんと合っている。一緒に丁寧に公式サイトを読んだ甲斐があったな。
ユーミルの態度からも分かる通り、今回のお知らせ内容は人によっては理解を放棄しそうなややこしさだった。
そういえばサービス開始早期に決闘ランクを実装するという予告があったはずだが、それも今回までずれ込んでいる。
プレイ人口が運営の予想よりも多かったことで、調整が長くなっているという噂もあったが……真偽はさておき。
「ああ、だからリィズが言うように古参ほど有利らしい。今回のギルドの初期ランクは参考程度に考えた方が良さそうだ」
昔のイベントに参加していなかった新規ギルドが不利なので、あくまで仮のものといった印象だ。
公式サイトでは今後のギルドランクについても触れており……。
「次からはレイドの成績を元にギルドランクが決定されると書いてあったな。そのレイドもギルド・同盟で組織立って戦えた一回目の方式と、パーティが最大単位で個人戦重視だった二回目とがあるが――」
「今後は前者の組織戦重視のものを採用する意向のようですね。ギルドとしての力を測るなら、こちらが適しているので当然のことですが」
レイドは消費アイテムを使用可能なので、生産ギルドは自分たちの作製したアイテム及び装備品が使われた量でギルドポイントが加算。
戦闘ギルドは普通にレイドボスに対する戦闘での成果を。
総合ギルドはその両方を元にギルドポイントが加算され、最終結果でランクが決まるという流れらしい。
「ならば、レイドは今後定期的に開催されるということになるな?」
「だと思うぞ。となると、身近に大歓喜しそうな人間が約一名いる訳だが……」
「めっっっっっっちゃ嬉しい!! 魔王ちゃんに定期的に会える!? 会えるんだぁぁぁぁぁ! やっふぅぅぅぅぅぅぅ! ひょおおおおおお!」
談話室で待っていたトビにその話をしたところ、分身を出して喜びの舞いを始めた。
分身の無駄使いで二倍鬱陶しい……。
「気持ち悪っ!? 動き、気持ち悪っ!」
「形容し難いダンスですね……目が腐りそうです」
「こりゃあ戻ってくるまで時間かかりそうだな……二人とも、俺たちは今の内にやれることをやっておこう」
「うむ、賛成だ」
「そうですね」
トビをしばらく放置することにし、三人でアイテム整理などをして落ち着くのを待った。
やがて疲れたのか、分身を消して息を切らしながら椅子にへたり込んだ。
自分と全く同じ動きを分身にさせるのは難しいのだが、トビはそれを完璧にこなしていた。
ここでそんな絶技を披露したところで、何の意味もないのだが。
「……気は済んだか?」
「はぁ、はぁ……この踊りを魔王ちゃんに捧げる、でござるよ……ふふふ……」
「魔王も、そんなものを捧げられても困ると思うのだが……」
「同感です」
「それはそうと御三方」
「あ、普通に話題を切り替えるのか……いいけど。何だ?」
トビは呼吸を整えると、頭の上を指差して笑った。
どうやらギルドランクについての話題に戻したいらしい。
「Sランクということは上位1パーセントの証! 暫定ランクとはいえやはり拙者たち、トップギルドだったのでござるな! 誇っていい? ねえ、誇っていい?」
「と、言っているが。ギルマス?」
「うむ、誇っていいぞ! みんなも誇れ! ドヤッ!」
ユーミルが所謂……という以前に本人が自分の口で言っているが。
所謂ドヤ顔を作り、そのまま俺たちの前で動きを止めた。
「あ、では拙者も。どやぁ……」
トビが追従して同じ動きをする。
リィズは呆れた顔で俺のほうを見た。
「何ですかこれ……ハインドさん、私たちは別に――」
「じゃあ俺も、折角なんで。ドヤァ……」
「え? え? は、ハインドさんがやるなら私も……ド、ドヤァ……?」
リィズがぎこちない表情で動きを止めた。
四人でしばしドヤ顔を決めてキープする。
リィズだけちょっと口の端が引きつっているが、そのまま全員無言で時間だけが経過していく。
「……え、ええっと……な、何してるのかな? みんな……」
「あ、セレーネさん。こんばんは」
気が付くとセレーネさんが部屋の入口の前から中を覗き込んでいた。
異様な光景に入ってもいいのかな? といった風情でこちらを窺っている。
俺たちは口々に挨拶をし、彼女が入って来やすいように手招きをした。