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トーナメントのその後とソファ

 神獣バトル選手権、決勝トーナメントの翌日。

 俺が渡り鳥のメンバーと一緒にヒナ鳥たちのギルドホームを訪れると、マーネを背中に乗せたシエスタちゃんが床にうつ伏せに寝ていた。

 リィズが近付き、屈んでそれを観察する。


「………………」

「シエスタさん? シエスタさん? ……ぴくりとも動きませんね。サイネリアさん、これはいつから?」

「あ、その……三十分ほど前にログインしてから、ずっとです」


 身内の恥と感じているのか、サイネリアちゃんが溜め息交じりに答えてくれる。

 ずっとか……これじゃあ何のためにログインしたのか分からないな。

 俺たちがひとまず椅子に座ると、不意にシエスタちゃんがむくりと上体だけを起こした。


「あ、起きた。おはようシエスタちゃ――」

「せんぱい……そふぁぁぁぁぁ……そふぁぁぁぁぁ……」

「怖い怖い怖い!?」


 そのままずりずりと這いずるようにしてにじり寄ってくる。

 俺は頭を手の平で押さえ、お昼寝ゾンビの前進を止めた。

 そんなシエスタちゃんをよそに、サイネリアちゃんとリコリスちゃんはお茶を用意してみんなに注いでくれた。


「おっ、ありがとう……シエスタちゃん、君そんなんで大丈夫なの? まだ昨日の疲れが残っているんじゃ?」

「今日は見ての通り省エネモードなんで平気です。だらだらしつつもみんなと遊びたい、そんな心構え」

「メリハリが皆無だな!?」


 常に「全力で行動」か「全力で休む」か、どちらかしかしないユーミルが叫んだ。


「ま、まあ、昨日の頑張りを思えば強くは言えんが」


 しかしすぐに考えを改めたのか、湯飲みを持って昨夜の戦いを思い返すような目をした。

 俺はセレーネさんに手伝ってもらい、一緒にシエスタちゃんを起こして椅子に座らせる。


「よいしょ……っと。うん、私も四回戦の試合は見ていてドキドキしたよ」

「次で負けちゃいましたけどね……いや、シエスタちゃん離して? 何でがっちりホールドしてんの?」

「カバに水浸しにされたのが痛かったでござるな。あれでノクスとマーネの二羽とも、飛行速度が大きく落ちたでござるから」


 準々決勝、俺たちが負けたのは予選で見かけたカバとワニのコンビ。

 アナウサギの落とし穴に嵌まっていたあのカバだ。

 シエスタちゃんとの激しい攻防の末、ようやく手を振りほどいた俺は元の席に戻る。


「それはそうなんだが、ワニ共々突進やら噛みつきも凄いパワーだったからな……仮に一切濡らされなかったとしても、勝てたかどうか」

「結局そいつらがそのまま優勝したしな!」


 やや悔しさを含んだ口調で言い放ち、ユーミルが腕を組む。

 最終的に僅差にまで持ち込んだが、一番はトビが言ったように序盤で羽を濡らされたことが最後まで響いた。

 他にも水場ゾーンに連れていかれたり、デスロールをしながら飛んできたワニの体当たりを躱し切れなかったりと、色々あったが。


「和風ギルドの朔・キュウコンビは惜しかったですね。やはり水棲生物二体が相手では、狐火がメインの九尾は分が悪かったです」

「そうだね。キツネさん、今ごろ悔しがっているだろうな……」

「昨夜の内にメールが来ていましたよ。セレーネさんも見ます? 俺にというよりも、渡り鳥・ヒナ鳥全員に宛てた内容でしたし」

「あ、そうなんだ。それじゃあ、読ませてもらおうかな」


 決勝にはそのままカバとワニが勝ち上がり、和風ギルドの九尾狐と九官鳥が対戦。

 結果はリィズが口にした通りだった。

 そしてセレーネさんが今見ているメールだが、こちらの試合を見ていたことや自分たちの決勝のこと、初対戦が実現しそうでしなかったことを悔しがるユキモリさんの様子にまた何かのイベントで協力しようといった内容が大ボリュームで書き込んである。

 後で全員が目を通してから、きちんと返信することにしよう。一人一言ずつ添えるのもいいな。

 そこまで話したところで、シエスタちゃんが大きな欠伸をこぼす。


「まー、確かに優勝コンビだし強かったんですけど。準々決勝で負けた最大の原因は、私の反応の遅れですよね? もう完全にスタミナ切れな感じで」

「それを言うなら私“たち”でしょ? あの試合、俺の指示も大概だったしさ……見返してみたら、ノクスの位置取りが凄く微妙なんだよ。完全に緊張の糸が切れちゃってたな……」


 あの時はあの時で目一杯やったつもりではあったが、後から公式サイトで動画化されたものを確認したら酷かった。

 もし次の機会があるとしたら、頭が疲れていても使える戦術パターンをいくつか用意しておくといいだろう。特に序盤の対応は大事だ。

 序盤を悪くない状態で乗り切ればリズムに乗れるし、集中力が戻ってくるということもある。

 サイネリアちゃんが俺とシエスタちゃんを労うように、お茶菓子をそっと差し出しながら言う。


「返す返すも、四回戦の相手が強過ぎましたね。ですからあそこで精根が尽きてしまったのだとしても、仕方がないことだと私は思います」

「でもですね、ハインド先輩! 掲示板を見たらあの試合を二対二のベストバウト? に挙げている人が多かったです。だから元気出してください!」

「あ、そうなんだ。ありがとう、二人とも」


 リコリスちゃんが教えてくれた情報は、俺が全く知らなかったものだ。

 優勝はできなかったが、あの試合を最高だと褒めてくれた人がいたのなら……。

 イベント前よりもずっと大きくなったノクスを一撫ですると、目を細めて小さく鳴いた。

 それから俺はお茶を飲み干すと、気持ちを切り替えるように少し勢いをつけて椅子から立ち上がった。


「……それじゃ、俺はシエスタちゃんご要望のソファを作るとしようかな。ちゃんとベスト8には残ったんだし、約束を果たさないと」

「あ、私も手伝うよ。ハインド君」

「私もお供します」

「もちろん私も手伝うぞ!」

「では拙者も。しかし、ソファ作りでござるかぁ……絨毯やら何やらに続いて、更に談話室が充実するでござるな」

「あ、私たちもお手伝いします! いいよね? サイちゃん」

「うん。今回はシーにしてはかなり頑張っていたしね。シーはどうする? 部屋で寝て待ってる?」

「え、いや、あの……この空気で私だけ何もしないとは言えないじゃんか、サイのアホぅ……はぁ。でしたら先輩、私になるべく楽な作業を……」

「ははっ、了解。だったらシエスタちゃんには、図面引きでもやってもらおうかな」


 結局メンバー全員が手を上げてくれた。

 これなら今晩中にもできあがりそうだな、ソファ。

 俺はありがたく力を貸してもらうことにし、まずは農業区へと移動することにした。

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