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空を往く者たちの戦い 前編

 開始直後、俺たちは酷く出鼻を挫かれた。

 相手は前の試合でフェニックスを前面に押し出し、攻撃を受け止めながら敵を圧倒していたと聞いたのだが……。

 そんなフェニックスよりも先に、初手から八咫烏が激しくマーネを追い立てる。


「ぬおー……明らかにマーネより速い。躱すので一杯一杯」

「それどころか、直進スピードはノクスよりも速そうだ。予選で戦った隼と変わらないんじゃないか? あれだけデカい癖に、とんでもない飛行能力してるな」

「先輩、どうしましょう? このままだと被弾するのも時間の問題ですよ?」

「……とりあえず、ノクス! マーネの近くでガードを!」


 ひとまずノクスでマーネのフォローをさせるが、遅れて動き出したフェニックスも挟撃しようと迫ってくる。

 くそっ、ここまで戦い方を変えてくるとは思っていなかった!

 戦術を変えてくるにしても、フェニックスの耐久を活かす戦い方に変わりはないだろうと思っていたのだが……。

 見た感じ八咫烏は近接型か? マーネに対しての体当たり攻撃に、割り込んだノクスが大きくよろめいた。

 か弱いマーネに当たらなくて良かったが、ノクスとてそこまで長く耐えられないだろう。

 今の内に何か打開策を考えないと。

 ノクスのMPをちらりと確認、続けてミニマップで現在地を見る。


「……シエスタちゃん、マーネを森林ゾーンに向かってゆっくりと後退させて。合わせてノクスも下がらせるから、離れ過ぎて孤立しないように」

「森林ゾーンってことは、木立を盾にするんですか? 確かに向こうの二羽よりこっちのほうが小柄ですから、有効かもしれませんねぇ」

「ああ。隙を見てノクスにウィンドカッターを撃たせるから、それを合図に一気に背を向けて逃げ去ろう」

「分かりました。それまでは、無理のない範囲で牽制だけしますね。MP足りないし、MPチャージの隙もなさそうなんで」


 俺は致命傷を受けないように気を付けながら、ノクスに細かな指示を与えていく。

 不利は明らかだが、完全に防戦に回れば付け込まれる。

 時折ノクスに鉤爪を立てさせて適度に攻撃の意志を示しながら、平地ゾーンを移動していく。

 八咫烏よりも遅いフェニックスに対しては、マーネが眼前に飛びかかって牽制してくれる。

 反撃に、フェニックスの体から炎が噴き出して羽を炙ってきた。

 ノクス、マーネともに小ダメージを受けて更に後方へ。


「きっつい……フェニックス、MPの自然回復量が多いのか? 序盤だってのにどんどん炎が飛んでくる」

『戦況はオルトゥスちゃん、カエルムちゃんコンビが押せ押せですね。ベームちゃんはどう思われますか?』


 不意に動物神アニマリアのおっとりとした声が耳に届いてくる。

 マーネに指示を出したところで、それを聞いたシエスタちゃんが俺の服を軽く引っ張った。


「先輩、先輩。神様にまであんなこと言われちゃってますけど?」

「それは仕方ないよ。こっちの立ち上がりが悪いと見て攻め込んだ相手が見事だったし、俺たちは俺たちで読みを誤ったから」

『ノクス、マーネコンビもよく凌いでいますよ。特にカナリアのマーネは混戦が不得手ですから、ここは耐え所でしょう』


 戦闘神ベルルムがそう解説を入れる。

 競技者双方にも聞こえる実況・解説ということで、森林ゾーンに誘導していることには触れない配慮がなされている。

 彼の言う通りマーネは混戦・接近戦が苦手なので、今にして思えば最初は一目散に距離を開けるのが正解だったのだろう。

 戦闘開始直後にマーネに少しでもMPチャージをさせておけば、歌スキルを使えたのでここまで押し込まれることもなかった。


「確かにマーネに混戦は辛いですねー……例えるなら、先輩に前衛やってもらっているようなもんだし」

「そうなんだよね……今のマーネの苦しさがよく分かるだけに、早く何とかしてやりたい」


 心許ない飛行速度、攻撃力、防御力でマーネが必死に飛び回る。

 マーネを何度も庇ったノクスもHPを大きく減らし、戦況が劣勢な中………ようやく森林ゾーンが間近に迫る。

 ダメージを負ったことでノクスのMPは十分、仮に何発か外してしまってもお釣りが出る量だ。

 そろそろ一時撤退の切っかけを――そう俺が考えた矢先、それを読み取ったかのように八咫烏が不穏な動きを見せる。

 大きく羽を広げたかと思うと、真っ黒な体の輪郭が白く輝いた。

 威圧するような鳴き声と共に放たれたのは……。


「レーザーか!? ノクス、急停止だ! ストップ!」

「ぬおおおお!? 危ないノクスゥゥゥッ!?」

「うるさいですよユーミルさん」


 相手が持っているであろうMPからして、そこまで高威力のスキルではなかったのだろう。

 数本の直進する光の矢が急減速したノクスの羽を掠め、HPを僅かに減らして空に消えていった。


「何ですか、あれ……私が使う光魔法によく似ていますが」

「八咫烏は導きの神、もしくは太陽の化身って言われているそうだ。だから、イメージに近い光属性か火属性の技を使うとは思っていたけど……牽制向きの速射スキルか。属性はシエスタちゃんの言う通りだと思う」

「あんなに真っ黒なのに、光属性ですか……何にしても本格的にまずいですよ、先輩。向こうはどう見ても畳み掛けにきてるっぽいです」

「短期決着狙いか。でも、こっちはこっちで目標地点到着だ――やるよ」

「!」


 戦いを続ける四羽の下には、既に木々が生い茂る森林ゾーンが広がっている。

 空中で何度も交錯する四羽の鳥に目を凝らし、位置取りとタイミングをよく計算して――


「ここだ! ノクス、ウィンドカッター!」

『ホー!』


 一瞬の詠唱を挟んで風が荒れ狂い、刃が飛ぶ。

 狙いは二羽の内、より速度の高い八咫烏。

 魔法を受けて三本足の大烏の黒い羽が千切れ、ひらひらと宙を舞う。

 それを確認したかしないかの内に、俺とシエスタちゃんはノクスとマーネに全力で飛び去るよう指示を出した。

 背を向けて木立の中に飛び込んだ直後、炎が木を焼き尽くした。

 しかしノクス、マーネにダメージはない。


「あぶねぇぇぇ……」

「「「はあぁぁぁ……」」」


 木立を縫うようにして、二羽が幻獣たちから距離を取っていく。

 完全に撒いたところで俺が大きく息を吐くと、真横と後ろからも大きく息を吐く音が聞こえてきた。

 マーネのHPは三割、ノクスのHPは一割しか残っていない。

 どうにか凌ぎ切った……。


「ふいー、小休止……先輩、まずは癒しの歌で回復しちゃいましょう。MPもちょうど溜まりましたし」

「ああ、そうしよう」


 何をするにもまずはHPだ。

『癒しの歌』に瞬発力はないが、代わりに総回復量は高い。

 じわじわとではあるが、スキルを中断されなければ一度の使用で楽々全快まで持っていける。

 マーネが美しい声音を響かせる中、俺とシエスタちゃんは急いで作戦の立て直しを図る。


「撤退直前に攻撃を当てたから、しばらくペナルティは大丈夫。見つかったらまた移動して、マーネにMPをフルチャージさせてからいつも通り幻惑の歌で――」

「先輩。今戦っているこの相手って、正直どう思います?」

「ん?」


 シエスタちゃんがいつも通りの眠そうな顔でこちらを見ている。

 だが、俺にはそんな彼女の表情に普段とは違う色があるような気がした。

 俺から一旦視線を外し、マーネに目をやる彼女を見てそれは確信に変わった。

 それについては触れずに、ひとまず質問に答える。


「……そうだなぁ。常に先手を持って行かれ、今の戦況も決して良いとは言えない。俺たちに合わせて戦法を変えてきたところを見るに、油断なんて一切ないんだろうし間違いなく強敵だ。できればもっと先で当たりたかった相手……俺はそう思っているよ」

「そーですか。何て言ったらいいのか……今から私らしくないことを言うかもしれないんで、笑わずに聞いてほしいんですけど」

「何かな?」


 どうやら自分から話してくれるらしい。

 言い淀むシエスタちゃんの様子を、ヒナ鳥の二人が驚いたように見ている。

 シエスタちゃんは視線を右に左に彷徨わせてから、照れくさそうに頬を掻く。


「その、ですね……ここに来て急に、マーネの凄さをみんなに見せやりたいっていう欲が出てですね……自分でも不思議なんですけど」

「親心っ! それは親心だなシエスタ!? 素晴らしいことではないか! お前がマーネにそういう気持ちを持ったとして、誰が笑うもぎゅぉっ!?」

「あなたは少し黙っていなさい。空気を読みなさい。シエスタさん、続きをどうぞ」


 リィズが騒がしいユーミルの口元を押さえつける。

 幸い、移動しながら回復を続けるノクスとマーネはまだ敵に見つかっていない。

 まだ話を続ける余裕はある。


「あー……はい。なもんで、新スキルを使わずに負けちゃうのが急に怖くなりまして。使うんならここじゃね? と、私としては思っちゃった訳ですよ。本当は決勝戦でお披露目できればいいんでしょうけど、なんか相手があからさまに強いし。えーと……先輩? どうでしょう?」

「……なるほどね。よく分かったよ」


 普段は要領が良い癖に、そういうところは不器用なんだな。

 だがそれだけに、マーネに対する想いが誠実に伝わってくる。

 凄さをみんなに見せてやりたいか……それは俺だって同じ想いだ。

 ノクスの強さを、格好いいところを他のプレイヤーたちに見せつけてやりたい。

 俺は迷わず、新スキルを組み込んだ作戦を早急に練り直すことにした。




 最初に木立に逃げ込んでからしばらく後。

 あちらは逃げるノクスとマーネを見つけては見失っていたが、こちらから相手を見つけるのは実に容易である。

 体が常に燃え盛っているフェニックスは、遠目からでも非常に目立つ。

 フェニックスほど見つけ易くはない八咫烏も、黒い体ではあるがサイズが大きめだ。

 発見されては隠れ、マーネのMPをチャージさせつつ体勢を整えた俺たちは、遂に自分たちから姿を現すよう二羽に指示を下した。

 万全の状態で木立から飛び出したノクスの体には、攻撃的な赤いエフェクトが纏わりついており……。

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