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神獣バトル選手権・決勝トーナメント その4

『あ、こちらも試合終了したのですね』


 突如、動物神アニマリアが戦闘開始地点に現れる。

 戦闘神ベルルムも一緒だ。


『勝者、ノクスちゃんとマーネちゃん! えーと……ここね。丸、っと』


 そして台帳のようなものを取り出し、どうやらペンで印を付けている様子。

 あれに対戦表が書かれているのだろうか? 相変わらず神様らしさはあまり感じられない。


『ベームちゃん、今の戦いについて一言どうぞ!』

『両者、見事なコンビネーションでした。特に序盤の腹の探り合い、間の取り合い。知恵を絞って戦う姿勢に、大変好感を覚えました』


 淀みなく戦闘神ベルルムが答えた。

 勝者にも敗者にも不快に聞こえないよう、配慮された総括に思える。

 それを分かっているのかいないのか、のほほんとした笑顔で動物神が続けた。


『はい、ありがとうございまーす。勝ち上がった子たちは次も頑張ってね! 負けちゃった子たちは一杯悔しがって練習して、また頑張りましょう!』

「小学校か幼稚園の先生みたいな発言でござるな……」

「ああ……運動会の時とか、あんな感じだよな」


 俺とトビがそんな感想を述べ合っていると、その言葉を最後に二柱の神の姿がその場から掻き消える。

 ノクスとマーネがバトルフィールドから俺たちの元へ送り返され……。

 今度は俺たちも、指揮エリアから元の礼拝所へと移動させられた。


「ふー……これでまず一つか」

「お疲れさまでござった。さすが本戦、強敵でござったが……ヤマタノオロチとかオオガマじゃなくて、助かったでござるな」

「そんなのもいますか……いや、そりゃそうか。面倒ですねー」


 ぞろぞろと移動しながら、俺たちは今の戦いについての話を交わす。

 似たようなタイミングでポータルから出てきた人たちの何人かは、ノクスとマーネの試合を見てくれていたのだろうか?

 同時スタートの試合がある以上、全員がそうでないことは確かだが。

 椅子を確保し、並んで座っていく。


「まあ、ヤマタノオロチは(ミニ)でござるが」

「おう、俺もオロチは知ってるぜぇ。幻獣系は良くも悪くも目立つからなぁ。掲示板なんかでも情報が出易い」


 スピーナさんがエリザを撫でながらトビに応じる。

 アイテムポーチに手を入れているところを見ると、餌やりでもするのだろうか?

 ヤマタノオロチに関しては、俺も少し情報を持っている。


「弱点属性がないんですよね、確か。代わりに物理攻撃に弱いとか」

「斬撃系が特に効くらしーな。ま、伝説になぞらえて酒を飲ませる訳にもいかないしな」


 ということで試合でヤマタノオロチ当たった場合、ノクスの『一閃』が効くかもしれない。

 そんな当たるかどうかも分からない神獣の情報を再確認したところで……。

 俺の視線の先、スピーナさんがアイテムポーチから餌とは思えない妙なものを取り出した。


「す、スピーナさん? それって……」

「ああ、これ? エリザの餌よ、餌。サボテン食うんだ、こいつ。しかも大好物でなぁ」


 彼が手に取って差し出した根のないサボテンを、エリザがもっしゃもっしゃと咀嚼する。


「サボテンだと!? 何でそんな刺々したものを……」

「あれ、知らねえの勇者ちゃん? キリンって、元々高木に生えてる棘のある葉っぱとか食うんだぜ? サボテンだって楽勝よぉ」

「そ、そうなのか? しかしだな……」

「サボテンの名を冠するギルドの神獣が、サボテンを食べるって……」


 形容し難いその光景に、俺だけでなくみんなが微妙な表情へと変わる。

 スピーナさんはそれを見て噴き出した。


「――っはは! あー、それそれ。ハインドと同じことをお試しモードで言ったやつがいてな。悪ノリで決まったようなもんだぁ、ぶっちゃけ」

「……スピーナ殿。それよりも手、齧られているでござるが」

「うおっ!?」

「アンタまで食われてどうするんだい……そんなことよりハインド、シエスタ。予選と違って次の試合はすぐだよ? 早く準備しておいたほうがいいんじゃないかい?」


 ルージュさんの言葉に、俺とシエスタちゃんは顔を見合わせてから頷いた。

 そういえばそうだった。

 餌は例の団子を食べさせてやったばかりなので、ブラッシングしてリラックスさせることに。

 光ると戦闘中に目立ってしまうので、使うのは『銀サボテンのブラシ』でなく通常の植物性のブラシだが。




 続くトーナメント二回戦、俺たちの相手は二足歩行の猫――ケット・シーと角のある狛犬の犬猫幻獣コンビ。

 前衛の狛犬に、多彩な攻撃魔法・状態異常技を持つケット・シーに苦戦したものの、『癒しの歌』を中心とした耐久戦で判定勝ち。

 狛犬の対空能力の低さ、ケット・シーの火力不足に救われた形である。

 続く三回戦はガチガチのドラゴンコンビ。

 アクアドラゴンとウィンドドラゴンのコンビで、こちらは一撃戦闘不能に怯えながらも『幻惑の歌』とノクスのヒット&アウェイを徹底した動きで辛勝。

 ドラゴン系の神獣はスピードが低めなので、いかに集中力を切らさないかが重要となる。

 ここまで来るとステータスに頼り切ったプレイヤーはおらず、一瞬も気を抜けない戦いが続いたが……。


「どうにかスキルは温存できているな……途中、何度解禁させようとしたか分からんが」


 空を素早く飛べるという二羽の最大の利点を活かし、未だに新スキルを使わずに突破することができた。

 ピンチになったら解禁すると決めてはあるが、当然ながらお披露目は遅いほど良い。

 これでベスト16、次を勝てばベスト8である。


「集中して画面を見ているせいか、ちょっと目が痛い気がしますねー……」

「そりゃいかん。リコリスちゃん、サイネリアちゃん。シエスタちゃんの肩の筋肉でも伸ばしてやって」

「はーい」

「はい」


 シエスタちゃんが目元を解すように指で押さえている。

 ノクスの被弾が少ないのは、シエスタちゃんがマーネを適切な位置に移動させてくれているからだ。

 近付き過ぎると優先して狙われるので、スキル中の速度低下も相まってこれが中々に難しい。

 正直、ここまでの成果は俺よりも彼女の働きによるところが大きいだろう。

 効果があるのか不明だが、リコリスちゃんとサイネリアちゃんがシエスタちゃんの手を取って肩周りの筋肉を伸ばす。


「湿布で効いたような気がするなら、これもきっと効くはず! 行くよサイちゃん!」

「オッケー、リコ。動かないでね、シー」

「よっしゃー。こいやー」

「とりゃあああ!」

「むえぇぇぇぇ……あ゛ぁぁぁぁぁ……」


 二人からのストレッチを受けて、変な声を出して呻くシエスタちゃん。

 ――と、ぼんやり見ていたら次の試合もあっという間に始まってしまうな。

 ちょっと今の内に相談しておくか。


「そろそろスキルを解禁しないとまずいと思うんだが……みんなは見ていてどう思った?」

「こちらとしては、異常に難易度の高い縛りプレイを見ている気分でござるよ。どうにも肩に力が入る」

「うん、ハラハラするよね。正直、もうギリギリのラインまで来ているとは思うけど……」

「私もセッちゃんと同意見です。ですが見ているだけの私たちよりも、実際に指示を出しているお二人の判断を優先するほうが正しいと思いま――なんて顔をしているのですか? ユーミルさんは」


 リィズの視線を追ってユーミルを見ると、言葉通りスッキリしない表情をしていた。

 長い付き合いなので、どこに引っかかりを覚えているのか何となく想像がつくが。


「む……いや、私としては新スキルの使用を我慢している状況がどうにもな。モノがあるのが分かっているだけに、余計にやきもきするのだ。切り札・隠し玉はバトルの浪漫ではあるが、今回は見守ることしかできない立場だしな」

「やっぱりか。そうは言っても、折角ここまで使わずに来たんだ。軽々に使っちまう訳にもいかんだろう」

「うむ、それは重々承知している。引き換えに、隠した分だけ効果は出るのだな?」

「多分な。現に試合を見たプレイヤーから情報を得ているのか、幻惑の歌なんかは徐々に対策を取られ始めている。それだけに、想定外になるであろう初見のスキルはよく効くはず」


 先程のドラゴンコンビなどは特に、範囲攻撃を多めに使ってくるなどの工夫が見られた。

 フレンドやギルドメンバーに他の試合の偵察を依頼したり、次戦までの僅かな時間にログアウトして情報を集めていたのだろう。

 俺たちもそれは例外ではなく……。


「――おう、見てきたぜ。お前さんたちの次の試合の相手」


 自ら偵察を申し出てくれたスピーナさんとルージュさんが、手を上げてこちらに合流してきた。

 何やら表情が硬いが、どうしたのだろう?


「ありがとうございます。どちらが勝ちました?」

「……次の相手はちぃとヤバいかもしれないね。勝ったのは鳥の幻獣コンビだよ」

「フェニックスと八咫烏ヤタガラスだ。しかもそのコンビ、ほとんどフェニックス一羽だけで勝っちまってなぁ。八咫烏のほうは、最低限の通常攻撃のみ。負けたほうはギリギリまで粘ったんだが、フェニックスを最後まで打ち崩せなくてな」


 スピーナさんたちが告げた言葉に、俺たちは目を丸くした。

 道理で長めの試合だった俺たちよりも帰りが遅い訳だ。


「レアだからね、フェニックスと比べて八咫烏は。あんたらと同じく、あまりスキルを見せたくないからそういう戦い方をしたんだろうけど……フェニックスの戦いぶりだけでも聞いておくかい?」

「是非お願いします」

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