神獣バトル選手権・決勝トーナメント その2
観客・出場者の区別なく、プレイヤーの波がポータルに吸い込まれていく。
トーナメント初戦は終盤と違い同時開催なので、観戦するプレイヤーは多数ある試合の中から一つを選ぶ形になるそうだ。
一試合ずつ順に行われるのはベスト16を決める試合からで、神様の実況・解説が追加されるとのこと。
俺たちも参加している二対二のトーナメントが開幕に、次が三対三、最後が一対一の順にイベントは進行される。
「ポータル内の観覧席って、どんな感じなんだ? 指揮エリアみたいな神殿っぽい空間?」
並んで進む途上、俺はトビに気になったことを訊いてみた。
自分たちの試合が終わった後で観戦すれば分かることだが、果たして試合後に観る気力・体力が残っているかどうか。
「建築様式はこの神殿や指揮エリアと似たようなもんでござるよ。公式サイトの紹介画像を見た限りだと、石段みたいな観覧席が複数。そして中継用の大画面が一番下の段のど真ん中にある感じで……ええと、上手く説明できないのでござるが。セレーネ殿は見たでござるか? 公式サイト」
トビが流した視線に、セレーネさんが僅かに顔を上げる。
「あ、うん、見たよ。円形劇場を半分で切ったような形だね。今回の観覧席は屋根があるんだけど、現実だと野外ステージなんかで多く使われているかな? ああいうのは」
「なるほど、ありがとうございます。じゃあ、多少不便でもそちらで見た方が迫力が増すってことか」
「歓声などがプラスされることで臨場感もあるでござろうし。ゆっくり見たい人には向かない形式でござるが、これはこれで」
スタンプラリーだけが人の集まっている要因ではないらしい。
新たな神様を見ることもできるそうだし、運営としてはなるべくゲーム内で試合を観戦して欲しいのだろう。
「しかし、戦いの神ってなぁどんなのだろうなぁ?」
「動物神とやらが終始ポーッとした感じのやつだったからね……アタシにゃ想像もつかないよ」
スピーナさんとルージュさんが戦いの神の姿を予想しながら呟く。
それに対し、ユーミルがみぞおちの辺りで腕を組んで小さく唸る。
「ううむ……日本やアジアの戦神で言うと、厳つい顔をした仏だったり神だったりの像が多いか? ハインドはどう思う?」
「顔は割とそうだな。名前は忘れたけど、猪に乗ったとある神様が戦神だった気がするぞ」
「む……このところ猪呼ばわりされることが多いせいか、それを聞いて妙な屈辱感があるのだが?」
「そうか? 別にいいと思うけどな。神様の眷属だぞ?」
そもそもユーミル、自分が猪呼ばわりされている自覚はあったんだな。
かといって、そう呼ばれないよう改める気は更々ないようだが。
「格好で言うと、大抵何かしらの武器を持っていたりするか。天秤なんて場合もあるけど」
「正邪を測る天秤ですか。剣とセットで持っていますね」
「よく知ってんなぁ、リィズ。女神様だっけ? 持っているのは。――ん? 俺がさっき挙げたのもそうだっけ?」
「しかしハインド殿。シルエットが予告されていたのでござるが、それを見た感じ男性っぽかったでござるよ? もちろん、普通に人型の神様で」
「そうなのか。人型の男性神でかつ、洋風なTBの雰囲気に合わせて考えてみると……」
戦いの神(仮)を試しに脳内でイメージしてみる。
険しい表情、戦いの神ということで優れた体躯、威厳を感じさせる容姿は、おそらく若者のそれがベースではないだろう。
黙り込む俺たちの中で、最初に口を開いたのはシエスタちゃんである。
「んー、となると無難に鎧を着こんだマッシヴなオジサンですかね? アルベルトさんみたいな」
「兄貴、まさかの戦いの神でござったか……さすが過ぎるぜ!」
「いや、あくまでもイメージだからな? イメージ」
とはいえ真っ先に思い浮かぶ理由としては、それだけ彼の立ち姿が武人然としているからだが。
シエスタちゃんの言葉に誰も異を唱えていない訳だし。
そんなことを話しながらポータル内に入り、指揮エリアへと移動した俺たちが見たものは……。
美獣コンテストでも登場した動物神アニマリアと、戦いの神と思しきもう一名の姿。
『こんばんは、来訪者のみなさま。今宵は愛しき神獣たちが力を競う祭りの場……私は戦いは不得手ですので、天界の友人にご助力をお願いしました。同輩にして戦いの神である――』
『ベルルム・デウスです。以後、お見知りおきを』
『ベームちゃんに来てもらいました。よろしくね』
男としてはやや長い金髪で細身の美形、伸びた背筋に綺麗なお辞儀。
言葉は折り目正しく、衣服は高貴な白を基調としたもので、動物神の着ているものの男性版といったところ。
手には武器も何も持っていない。
二柱の神の出現場所は指揮エリアの画面内、神獣同士が戦うバトルフィールドの平地ゾーン。
どうも戦闘開始地点あたりで話をしているようだ。
「完全に予想を外しちゃったな。普通に女子に人気が出そうなイケメンだ」
「ふーむ、細身でござるな……兄貴とは正反対」
「本人の戦闘力が気になるところだな。どうやって戦うんだろうか? それとも一切戦わないんだろうか」
その容姿からは、戦っている場面を想像するのが難しい。
ゲームの戦いの神なのだから、分かりやすく強い設定だとは思うのだが。
埒もない話に、ユーミルが小さく鼻を鳴らす。
「それを言ったら一部の強い現地人も魔王も、戦い方が判明していないやつは多いぞ?」
「あー、そうだな。顔見せだけしておいて、先々のコンテンツで出番がある形か」
「実力を知る機会はいつになるやら、ですね」
リィズが嘆息混じりに呟いた直後、スピーナさんが勢いよく前に出る。
「――待て待て、そんなことはないだろぉ! 我らが麗しき女王陛下は魔導士だと既に判明しているぜぇ!! しかも激強! 魔法行使中のスクショ見るか? 見ろよぉ!」
「うわっ、びっくりした!? 急に叫ぶな、スピーナ!」
「あ、これは女王様崇拝モードでござるな……久しぶりに見た」
「何だそれは!? 大体、私たちは見なくても女王が魔導士だと知っている!」
「隕石とか落としてたもんなぁ……」
「え、何だそれ知らねぇ!? く、詳しく教えてくれ、ハインド! 勇者ちゃん!」
「――残念、時間切れだよ。邪魔になるからこっちに来な、不死身の」
色々と話している内に、画面内では神様たちが挨拶を終えて準備をするように促している。
そういえば、スピーナさんは親女王派の急先鋒だったな……すっかり忘れていた。
ルージュさんがスピーナさんを掴んで下がらせる。
「ぬお、悪い……つい興奮しちまった。頑張れよ、二人と二匹!」
「はい。女王様の話の続きは、後でトビにでも聞いてください。シエスタちゃん、マーネ。出番だよ」
「へーい。そんじゃ、やりますかぁ」
目標の10位入賞には順位決定戦込みなら最低三勝、四勝でベスト8確定となる。
ノクスとマーネには、今夜も特製団子を食べさせて準備万端だ。
リコリスちゃんとサイネリアちゃんを中心に声援を送ってくれる中、俺はノクスを。
シエスタちゃんがマーネを目の前の画面に向けて差し出す。
境界が波打ち、二羽がバトルフィールドへと転送される。
まずは一勝……俺とシエスタちゃんは、相手の神獣の姿を見極めるべく画面に向けて目を凝らした。