神獣バトル選手権・予選 その4
「そういえば、降参すると評価点はどうなるのだ?」
「最後まで戦って大敗するよりはマシになるそうだ。降参は降参として、ある意味プレイヤーの判断が評価される形だな」
第一試合を終えた俺たちは、無事に礼拝所で座る席を確保することができた。
横並びになって互いに前に顔を出しては会話を交わす。
「勝った側は大勝と同じ扱いになるのでしたよね?」
ユーミルの質問に続いて確認してきたのは、サイネリアちゃんだ。
評価点は戦闘中、ゲージという形で常に表示されており、それを参照することでそのまま終了した場合にどうなるかを把握することができる。
大敗・大勝というのはそのゲージの中に表示されている下限・上限ラインのことを指している。
「そう。だから大差の場合、降参は両方に益がある」
「試合が短くなるから、こうして休む時間も長くなりますしねー」
椅子からずり落ちそうになりながらシエスタちゃんが呟く。
体勢的には半分寝ているようなものだ。
「ただ、自分の評価点を落としてでも相手に良い思いをさせたくないならその限りじゃないな」
「そういうプレイヤーもいるでござろうなぁ。最後まで諦めないスタンスの人が勘違いされそうでござるが」
「ああ。粘った結果、降参するよりも上の評価を得られる可能性は常にあるからな。だから、降参するかどうかは個々人の自由として……みんな、相談通りによろしく」
返事がバラバラに返り、メニュー画面を一斉に開く。
何をするかといえば、予選の試合中継を利用した情報収集だ。
この試合中継なのだが録画不可となっていて、後から見ることができない。
つまり待ち時間を利用して見ておくと有利になるよ、と言われているようなものである。
難しいのは、どの試合を見るかということになるが……。
「まだ最初の試合ですし、適当でいいですよねぇ?」
ズルズルと更に沈み込みながら、シエスタちゃんが問う。
「さすがに落ちるよ、シエスタちゃん……うん、広く浅くでいいよ。しっかり見てほしいのはトーナメント出場者がハッキリしてくる終盤戦だから」
「では、今の内に変わり種の神獣でも見ておくでござるか。おっ、こっちまだグループAの試合やってる」
俺も適当に中継されている試合を切り替えていく。
ガッツリ殴り合っている試合もあれば、遠距離で何かを飛ばし合っている試合、待ちと待ちで膠着している試合まで色々だ。
一対一や三対三にも興味があるが、それらは後からでも見られるトーナメントの録画公開までお預け。
二対二の試合に目を通す。
あ、これなんて面白いんじゃないか? 搦め手対パワー系。
「おおー、カバが落とし穴に嵌まってる! わはははは!」
横からユーミルが俺の手元を覗き込んでくる。
画面内では、落とし穴に落ちたカバがダメージを受けつつ穴の側面を破壊しながら復帰していくところだった。豪快。
「って、お前は自分ので見ろよ。なるべく色んな神獣を見ておいてくれると助か――」
「土系統の魔法かスキルでしょうか? 地面を走るタイプの神獣には効きそうですね」
「リィズもか……いや、いいんだけどさ。せめて別視点のカメラで見てくれよ。ほい、ほい」
視点変更しつつ複数表示させた画面を左右に向かって放り投げる。
TBのメニュー画面はこういうことが簡単な操作でできるので、使い勝手がいい。
キャッチするように触れると、その場で画面を静止させることが可能だ。
どこかに吹っ飛んだ場合は一定時間で画面が消失する。
「おっとと。自分からやっておいてなんだが、同じ試合を複数人で見るというのは意味があるのか? ハインド」
「そりゃ、あるだろうよ。同じ視点でも見落としがあったり着眼点が違ったり……別視点――相手視点だったりコンビの相方視点だったりでも、また違ってくるはず。これは細かく分析するならの話だけど」
「今はまだ、どの神獣がどんな戦い方をするかを大雑把に把握する程度でいいよね? 広く浅くで」
「ええ。とまあ、セレーネさんの言う通りなんで一人で一試合を俯瞰視点で見れば十分なんだが……この試合はもう終わりそうだし、このまま一緒に見てくれ。ユーミルはそのカバ、リィズはそっちのアナウサギを。俺は残りの二匹を見るから」
「うむ、承知した!」
そうして休憩も兼ねての情報収集を進めていく。
大半のデータは役に立たないかもしれないが、勝つ可能性を少しでも上げるためには大事だ。
他のプレイヤーの神獣の動かし方を参考にすることも忘れずに。
その後、予選は嵐のように過ぎて行き……。
「だはー……先輩、疲れで段々頭が回らなく……」
「残り一戦だから、もうちょっとだよ。とはいえ、十戦こなすのは中々に大変だ……」
ここまでの所要時間は大体一時間半といったところ。
主役のノクスとマーネはまだまだ元気だが、シエスタちゃんがすっかりグロッキーだ。
「戦績は八勝一敗……二敗になると突破が危うくなるな?」
ユーミルが腕を組んで難しい顔をする。
一敗は先程の試合、八連勝同士での戦いで惜敗してついたものだ。
「ああ。でも評価点は高いから、勝てば本戦に残れると思う」
イベントページ内にある予選ボーダーを確認してくれているリィズに視線を向けると、こちらの言葉に頷いてくれる。
それを受け、ユーミルが俺の肩を軽く叩いて気合を入れてくれる。
「そうか。では最終戦、しっかり勝ってくるのだぞ!」
「大丈夫です、ユーミル先輩! ハインド先輩とシーちゃんならきっとやってくれます! シーちゃんはフラフラですけど!」
「ほんと、リコの元気を分けてほしいよ……」
そうシエスタちゃんが呻くように言った直後、グループBのマッチング完了の知らせが。
対象者の俺たちの視界に制限時間が表示される。
「あ、もう字幕が。何か休憩、短くない?」
「段々と相手が強くなっているんだから当然でしょ? それに、さっきの試合は制限時間一杯だったもの」
「そうだった……よっこいしょ」
億劫そうに立ち上がるシエスタちゃんと共に、ぞろぞろとポータルに向かう。
今夜の内にもう何度も繰り返した動きだ。
その途上、シエスタちゃんが異変を察して振り返る。
「あれ、先輩。トビ先輩は行かないんですか?」
「あいつは俺たちの試合中に見られない試合を見ておいてくれるってさ。主に九連勝しているコンビを中心に」
「はー、なるほど。それはありがてーっすね」
俺たちが見ていることに気付いたトビが、手を上げて声援を送ってくる。
隣には途中で会ったスピーナさんが座っている。
彼は一対一にキリンの神獣で出場し、既に予選が終わったとのこと。
そのままポータルに進んだ俺たちは予選十戦目に挑み……。