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神獣バトル選手権・予選 その3

 予選・第一戦の相手はペンギンとダチョウのコンビ。

 確かペンギンが水属性で遠距離攻撃可、ダチョウが物理アタッカーだったと記憶している。

 スタートは平地ゾーンで、位置はランダム。

 故に開幕から逃げる場合は、素早く自分の得意ゾーンの方向を見極める必要がある。


「先輩、どう見ますか?」


 指揮エリアで真横に立つシエスタちゃんが、モニターを見たまま訊いてくる。

 大きさから見てどちらも成体、サイズは現実のものと大体同じ。

 ペンギンは体色が青く、ダチョウはスキル後に変化するタイプか、見た目まで現実のものと変わらない。


「おそらく成体で、立ち姿を見る限りコンディションも良好――」


 ちらりと後ろを振り返ると、メンバーの何人かが同意するように頷いてくれる。

 だよな、やっぱり成体だよな。


「ダチョウが前衛、ペンギンが後ろから援護と予想されるね。水系のスキルで羽を濡らされないように注意が必要ってところかな」

「了解でーす。じゃあMPが溜まり次第、幻惑の歌で援護します。例の切り札は――」

「できるだけ温存。可能なら本戦トーナメントまで誰にも見せたくない」


 早口で確認していると、あっという間にカウントダウンが開始される。

『3,2、1……』

 自分自身が敵と向かい合うのとはまた違った緊張感だ。

『BATTLE START!』

 表示される大文字と共に効果音が鳴らされ、神獣への指示が解禁。


「ノクス、無理に当てなくてもいい! スピードで脅かしてやれ!」


 先手必勝、まずはノクスをダチョウに向けてけしかけていく。

 音もなく急降下し、頭部を掠めてからの旋回。

 一拍遅れてダチョウが首を巡らせるが、ノクスは既に手の――もとい、くちばしの届かない距離に。

 マーネはその後ろで悠々とMPチャージ中である。

 相手の有利な水場には行かせない。

 ダチョウを釘付けにし、平地ゾーンで早期決着を狙う!


「敵の間に入り込め! マーネに行くようなら、そのまま後ろから小突き回してやれ!」

「マーネも、届きそうで届かない距離で相手を誘ってねー。離れ過ぎない、無視されない」


 それを受けての相手の動きは……。

 よちよち歩きならぬよちよち走りで水場に走ろうとしていたペンギンが踵を返す。


「か、可愛い! 可愛いぞ、ハインド!」

「やめろ、戦意が削がれる! 考えないようにしていたのに、わざわざ言うなよ!」


 ノクスの速度を見たダチョウは、マーネ狙いに切り替えて移動を開始。

 事前の指示通り、ノクスがダチョウの背中から攻撃を加え始める。


「面白いようにハインド殿の術中に……」

「予想通りに動いてくれるということは、相手もそれなりに考えているということになりますが」

「適当に暴れさせてくるほうが、怖い場合があるからね……ノクスとマーネにとっては、こういう相手のほうがくみしやすいはずだよ」


 その通り、警戒すべきはダチョウの暴れのみといったところ。

 ダチョウがマーネ狙いを諦め、ノクスをペンギンと共に挟み込む。

 切り替えが早いな……カウンターも跳躍も狙えるような体勢で足に力を溜めている。

 ここまでの戦いでは、この相手は模擬戦もそれなりにこなした中堅上位~強豪下位プレイヤーといった印象。

 初戦の相手としては間違いなく運が悪い部類だろう。

 ペンギンがスキル発動の予備動作のようなものを行い――


「不味いな。一旦離脱させて……」

「いえいえ先輩、そのまま行きましょう。マーネ、幻惑の歌」


 不思議な音色が響き渡り、ノクスの姿がブレた。

 ペンギンからのアクアブレスを躱し、足をばねのようにしてハイジャンプしてくるダチョウの攻撃を掻い潜る。

 少し掠ったが……形勢が一変した。


「ノクス、攻撃重視に切り替え! ただし動きは止めるな!」


 敵の攻撃が全て空を切り、ノクスが通常攻撃で一方的にダメージを与え続ける。

 マーネはペナルティの発生しないギリギリの距離で歌による支援を続行。

 成体へと成長したノクスの通常攻撃は決して軽くない。

 こちらは見せても問題ない、消費の軽い新スキル『一閃』による翼での攻撃も良いダメージだ。

 HPが見る見る内に減少していく。


「さ、サンドバッグ……」


 リコリスちゃんが若干引いた様子でそう呟く。

 このまま圧勝できそうにも見えるが、事はそう簡単ではない。


「……先輩。相手、MP溜めてます?」

「みたいだね。大技を狙っているのか……ウィンドカッターとアイスニードルで相手の計算をずらしてはみるけど。ノクス、一旦離脱!」


 露骨な防御態勢に入った敵を見て、ノクスに距離を取らせる。

 何もさせずに倒し切るのが理想だが……戦闘前に話したように、新スキルはまだ使いたくない。

 模擬戦と違い、誰が見ているのか分からないのだ。


「うーん、スキルを使ってもHPが微妙に残りそうですね。妹さん、どう思います?」

「相手の魔法抵抗を正確に測れない以上、おそらく――としか言えませんが。残る公算が高いかと」

「この戦いではまだ魔法スキルを撃っていないからな……」


 極端に魔法抵抗が高くない限り、通常攻撃及び『一閃』よりはダメージが出るはずだ。

 ペンギンがここまでノクスの物理攻撃に耐えているところを見るに、魔法抵抗特化ということはないだろう。

 しかし、このまま待ち続けると『幻惑の歌』の効果が切れてしまうし、ダチョウはMPの自然増加で、後衛型らしきペンギンはMPチャージで準備が完了してしまう。

 ここは……。


「柔らかそうなペンギン狙いでウィンドカッター。で、倒せれば御の字、駄目なら幻惑の歌任せで相手の大技を躱す。無策と大して変わらんが、これしかないか」

「最初から新スキルを使っておけばよかった、なんてならないといいですね? そして次戦以降も温存したまま連敗、みたいな」

「それは勘弁願いたいな……トーナメントに出るつもり満々でそうしているんだし、格好悪いにも程がある」

「そんじゃ、制限付きでもできることはやっておきますか。マーネで視線を誘導しますね?」

「歌いながらだと速度が落ちるから、十分に気を付けてね。ノクスも、頼むぞ!」


 温存中のスキルはどちらも一昨日にギリギリで取得したスキルだ。

 やり込みの足りないプレイヤーのフクロウやカナリアなら、まだ未習得の可能性が高い。

 だからこそ、ここは習得の早かったスキルのみで切り抜けたい。

 マーネが相手の前を飛んで横切り、僅かにそれを目で追ったところでノクスを前に。


「ノクス、ウィンドカッター! 目標、ペンギンのどてっ腹!」


 効果終了直前の『幻惑の歌』が響く中、ノクスがペンギンに向けて風の刃を繰り出す。

 HPが大きく削れたが、やはり倒すには至らず。

 ウィンドカッターでへこんだペンギンのお腹が大きく膨れ上がる。


「離脱!」


 直後、鉄砲水のように口から凄まじい勢いで水が発射される。

 近場にあった岩を両断しながら、空に飛び上がるノクスを追っていく。


「怖っ! 水圧カッターか!?」

「先輩、ダチョウも来てますよー。前、前」

「うおっ!?」


 後ろからは水圧カッター。

 前からはダチョウの蹴り。

 不意に、ユーミルの教えが思い出される。

 相手が絶対有利な状況、勝利を確信した瞬間こそ、怯まず前へ――!


「――ノクス、ダチョウに向かって突っ込め!」


 咄嗟の指示だったが、これが功を奏した。

 空中でダチョウの足が激しく輝き、両翼を羽ばたかせてサマーソルトキックのように鮮やかに縦に回転する。

 ノクスがすれ違うように突進し、目標を見失った水圧カッターがダチョウの手前で途切れた。

 飛べない鳥コンビによる、降りてこいと言わんばかりの激しい対空攻撃だったが――


「ノクス、とどめ!」


 落下の勢いそのままに、ペンギンに向かってノクスが降下、『一閃』。

 ペンギンは時代劇の斬られ役のように手を上げてクルリと回転してから、地面へと倒れた。

 一羽残された前衛のダチョウだったが、残りHPを考えてか相手プレイヤーが降参を選択。

 ノクス・マーネの予選第一試合は、結果的に圧勝のまま幕を閉じた。

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