美獣コンテスト鑑賞会 その3
キューティ部門は、現実でも人気のある動物が元になっている神獣たちで埋め尽くされていた。
パンダ、犬に猫、ハムスターにペンギン、ウサギなどなど。
動物園の人気動物やペットとして人気が高いものが多数登場。
この辺りの神獣は元の姿からそれほど離れていないのが特徴でもある。
と、リィズがそこで袖を引きつつ俺の名を呼ぶ。
「ハインドさん、マーネはこの部門でしたよね?」
「まあ、成長しても少し大きくて飛べるひよこみたいな見た目だし……ビューティー部門よりはこっちかなと」
ヒナ鳥三人と相談して決めた結果だ。
マーネの体色は美しいがカナリアは分類的に小鳥なので、どちらかというと可愛いという思いが勝る。
「ここまで鳥さんが一人もいないのがそこはかとなく不安です……」
「一人じゃなくて一羽ね、リコ」
「何かプレイヤーの統計、足を引っ張っていません? 私たち的――というか、マーネ的には」
確かに、シエスタちゃんの言う通り無難というかつまらないというか。
5位までは一般的に人気のある動物の中で、最も可愛い個体が選ばれているような気配がある。
しかし、それならそれで……。
「鳥類の中なら文鳥とかインコ、オウムや九官鳥なんて駄目かな? ペットとしては人気があるし、可愛いと思うんだけど」
「あー、言われてみれば。文鳥以外の三種なんかは、喋る言葉によっては入る可能性もありますねぇ」
審査は見た目以外に、仕草やプレイヤーの教えた芸なども加味される。
もちろん部門に合った――この場合は可愛さがプラスされるものでなければならないが、その辺りの評価は女神様の胸三寸といったところ。
シエスタちゃんの言葉を受けて、リィズが視線を上に持って行く。
「先程の犬もそうでしたね。あの死んだふりが女神様のツボに入ったようで」
「笑いながら可愛いの連呼だったね。銃で撃つジェスチャーじゃなくて、剣で斬る動きに反応するよう躾けた辺りにこだわりを感じるよ」
「セッちゃんらしい着眼点だな! しかし、あれは私も見ていてちょっとやってみたくなった!」
ユーミルが剣を振るような動きをその場でしてみせる。
この世界には銃が存在しないため、そのように飼い主のプレイヤーが教えたのだと思われる。
もちろん俺たちも、事前にノクスとマーネに芸を一つずつ教えてあるが……さて、審査にどう影響するか。
画面の中では、相変わらず女神様が自由気ままに動物たちを見て回っている。
本当にちゃんと審査してくれているのか不安になる絵面だ。
『――あっ。天使ちゃんズ、ドラムロール開始よ』
「あっ、って何でござるか!? 偶々目に留まったから選んだ、みたいな!?」
「い、いや、ああ見えてきっと神様的パワーで全体を見通しているんだろう。大丈夫大丈夫、うん」
「……ハインド殿、そんな自分に言い聞かせるような。あ、女神様が何かを抱え上げたでござるよ!」
抱え上げたということは、それなりに小さい神獣のはず。
ドラムロールの最後に、もう一人の天使がシンバルを鳴らす。
女王様の手の中に、マーネの姿を期待した俺たちが見たものは……。
「おう、九官鳥……」
「先輩の予想、ズバリ的中ですねー……」
当たってもあまり嬉しくない。
マーネは入賞できなかったのだろうか?
鳥でも行けることは分かったが、同時に残り枠があと三つになってしまった。
九官鳥を手乗りさせた女神様が小首を傾げる。
『あらあら? 来訪者の皆様、あまりご納得されておられないご様子。ですが、百聞は一見に……いえ、一聴に如かずということで。朔ちゃん、私とお喋りしましょう?』
『オウ! オレサマ、サイコー! オレサマ、カワイイ! ギルマス、アマトウ! シチナンハック、シチナンハック! ヤメロ、キツネ!』
『ね? 意味不明で可愛いでしょう?』
「意味不明で可愛いって何だ……?」
『きっと色々な人に可愛がられているのねぇ……うんうん。だから意味の繋がりのないヘンテコなお喋りになるのね。ということで、4位は九官鳥の朔ちゃんでーす』
「……これ、絶対和風ギルドの九官鳥だよな? なぁ?」
まだプレイヤーの名は表示されていないが、引っかかる部分が多過ぎる。
特に最後、あの人の名前が出ちゃっているし……。
「確かに色々と符号するところがあるでござるな……朔という単語は確か、新月のことでござったか?」
「そうそう。九官鳥が黒いから、新月になぞらえて名付けたんだろう。それに、甘党のギルマスって多分ミツヨシさんのことだろう?」
「うむ、ミッチーはそうだったな。となると、持ち主は……」
「ユキモリ殿でござるか。後半二つの言葉を聞く限り」
親しいギルドからの入賞に、俺たちが複雑な表情をしていると……。
女神様の動きが今度は早目に停止する。
それにリィズが目を細めた。
「……今度はどうでしょうか? 今の九官鳥などは、プレイヤーの総意よりも女神様の裁量の下で順位が決まったように見えましたが」
「そうだとしたら、マーネにもチャンスがあるってことだな」
「女神様はどんな芸ができるのか、見ただけで分かるっぽいですからねー……おっ」
再び屈んで何かを抱え上げる女神様の姿に、期待が高まる。
果たして、その手の中には輝くような金色の毛が……。
『はいっ、3位はカナリアのマーネちゃんです。こんなに小さくて可愛いけど、立派な大人の鳥なんですよ――あ、この子は今ご覧になっている皆様にもご納得いただけたようですね。事前の認知度は少し低かったようですが』
「フフフ、勝ったな。ということで先輩、ソファをよろしくー」
「待った。ソファはバトルのご褒美だからね?」
「ちぇー……でも、入賞ですよ? マーネ。祝ってください」
「うん、3位入賞おめでとう!」
俺は素直にそう返した。
女神様の手の上で、艶々とした毛並みのマーネが小さく尾を振る。
そしてリコリスちゃんとサイネリアちゃんが、シエスタちゃんの腕を左右から取った。
「おめでとう、シーちゃん!」
「おめでとう、シー。やったわね」
「何でそこで私? リコとサイの神獣でもあるんだからね?」
「え、あ、そっか! ええと……おめでとう、シーちゃん!」
「さっきと同じじゃん……ま、いっか。ありがとー」
何だかんだで、ちゃんとマーネの世話を欠かさずやっていたシエスタちゃんは嬉しそうだ。
渡り鳥のメンバーからも祝いの言葉がかけられ、画面内ではマーネの一芸が披露されている。
『高級サボテンのブラシをこんな風に使うなんて、とっても素敵ですね? 輝くような金が更に引き立って……ふふっ。ですが、この子は歌声も素敵なんですよ? 皆様にも聞いていただきましょう』
「あ、出ましたね。私が先輩と一緒にマーネに教えた歌」
マーネの涼やかな声が、柔らかく響き渡る。
それはスッと耳に馴染み、入賞直後の興奮をどこかに連れ去っていく。
やがて瞼が淡い熱を帯び……。
『ぐー……』
「見ろ、女神が真っ先に寝ているぞ!?」
ユーミルの大声に、遠ざかりかけた意識が急速に呼び戻される。
「私よりも早く寝入るとは……やりますね、女神様」
「何で対抗心出してんの? しかしこれは、何度聞いても危険な子守唄だ……俺も危うく意識を持って行かれそうになった」
「効果が早く出たのは、あちらの方が距離が近かったからでしょうか? これはスキルではないのですよね?」
「そう思うのも無理はないけど、違うぞ。シエスタちゃんが考えたメロディを繰り返しマーネに聞かせて……で、いざ歌わせてみたらこうなった訳だ」
「何とも不可解な習得過程でござるな……」
俺がリィズとトビから視線を戻すと、画面の中では女神様がドラムロール担当の天使にバチで頬を突かれていた。
ぱちりと目を覚まし、頭を振って立ち上がる。
『うぅーん……このまま毛玉に埋もれて眠りたい……え、駄目? ……ということで、3位のカナリア・マーネちゃんでし――はっくしゅん!』
「眠って起きてくしゃみをして、忙しい女神様だね……」
「……本当、そうですよね。威厳のなさは魔王ちゃん並。で、残すはトップ2か」
もうマーネの結果は出たが、1位と2位にどんな神獣が出てくるのか気になる。
まだ出ていない幻獣系か、はたまた予想外の神獣が登場するのか。