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美獣コンテスト鑑賞会 その2

『くしゅん! くしゅん!』

「あの女神様、目が真っ赤ではござらんか?」


 トビの声に画面を注視すると、確かに目が充血している。

 くしゃみをする度に、彼女の白い衣装から大小様々な毛が周囲に飛ぶ。


「本当だ。神様なんだから、まさかアレルギーってことはないだろうし。そもそも神様って実体あるのか?」

「しかし、現に何らかのダメージを受けているようだが」

『申し訳ございません。私、アレルギーが……』

「「「普通にアレルギーだった!?」」」


 動物の神なのに!?

 あまりに意味の分からない発言に、俺たちがただただ困惑していると……。

 ようやく口元を覆っていた手をどけたことで、女神様の全貌が明らかに。


「う、うむ。珍妙な言動はともかく、おっとり系の美人だな!」


 ユーミルの感想は端的だが、全体の印象については俺も同感である。

 淡い金色の長い髪、優しい双眸と先程の口調を合わせればまさしく、といったところ。


「動物神といっても、体の一部が動物だったりはしないのですね」

「いやいや、リィズ殿。神話によってはそういう神様もいるでござろうが、こういったゲームの神様でそれは中々にチャレンジャー……というかハイリスク」

「そうだな。もっとダークな雰囲気のゲームなら、そういう神様も出そうだけど」

「本当、ゲームによって色々だものね。TBでは親しみやすさ重視……なのかな? 魔王ちゃんといい、人に近い姿なのは」


 セレーネさんの言葉に、ヒナ鳥三人げ「へー」と感心したような声を出す。

 それに対し、セレーネさんは自信なさげに縮こまった。


「す、推測だからね? ゲームの開発者さんたちがどう考えているか、正確なところは分からないよ?」

「仮に推測が外れていたとしても、誰も責めませんよセレーネさん。俺も同意見ですし。ほらほら、ポテトを食べて自信を付けてください」

「あ、ありがとうハインド君」


 俺の言葉に素直に従い、セレーネさんがもぐもぐとポテトを口に含む。

 そのやり取りを見ていたシエスタちゃんがテーブルの上に置いたクッションから身を起こす。


「ポテトで自信って……先輩、滅茶苦茶言いますね?」

「そうでもないよ。食事を摂ると元気が出るじゃない? 胃腸の調子が悪かったりしなければ」

「まあ、そうですね。VRでも美味しいものは美味しいですし」

「元気が出たら、不思議と自信も後から付いてくるもんだよ。例えその自信に根拠があろうとなかろうと」

「どうしてそこで私を見るのだ? ハインド」

「何となく」

「はぁ、なるほどー」

「シエスタも、どうして私を見て納得する!?」


 セレーネさんがくすりと笑ってくれたところで、画面内から女神様の咳払いが聞こえてきた。

 ようやく審査が始まるようだ。


『こほん。まずは、審査の注意事項を発表いたします。審査には、私が女神的パワーで感じ取った皆様の感性を使用させていただきます』

「女神的パワー?」

「急に胡散臭さが増してきたな……」

『ですので、ある程度皆様にご納得いただける結果を導き出すことが可能となっております――が』

「……」

『最終的には私の女神的感性――私自身の趣味で優劣を判定する場合がございます。何卒ご了承くださいませ』

「ハインド、翻訳!」

「え、分からなかったか? そうだな……」


 使っている言葉は独特だったが、女神様が言わんとしていることはおそらくこうだ。

 女神的パワーは、サーバー側で集めたデータを使用するということ。

 皆様の感性、というのはおそらくVRギアの脳波感知を利用してプレイヤーの大多数に当てはまる統計で審査するという話。

 最後の女神的感性というのは、そのまま。


「僅差や同率で判定が難しい場合、女神様のAIの趣味が入るよ――って話だろう? もしくは女神様が特別気に入った神獣がいたりしたら、順位が極端に変動するのかもしれないけれど」


 その辺りは完全に女神様の匙加減だろうから。

 ユーミルは俺の説明と女神様の注意事項を照らし合わせているのか、少し考えてから頷いた。


「今までの審査だと、最後の“AIの趣味”だけで決まっていた感じだな?」


 今までというと……パトラ女王のアイテムコンテスト、ルスト王家の料理コンテスト、グラド帝国主催の馬審査、魔王ちゃんの涼感料理コンテストの四つになるか。


「そうだな。今回はそれにプレイヤーの総意が加わる――って話だろう。それが今ログインしているプレイヤーの脳波なのか、過去のデータも含めたものかは分からないけど。リィズはどう思う?」

「イン時間によって年齢・性別には差が出ますから、過去のデータも含めたものだと考える方が妥当でしょう」

「うん、私もリィズちゃんの意見に賛成だよ。ただし、神獣に対して可愛いとか格好いいとか思っただけのデータじゃ不足だろうから……似ているモンスターや無害な動物MOBを見てどう感じたか、なんてデータも使われていそうだね」

「全神獣を見たプレイヤーは存在しないはずでござるからなぁ……」

「集合知、ならぬ集合感性的な? まあ、審査を平等にするために導入したシステムだろうな。今後、他のコンテストで使われる可能性は低いと思うが」


 神的パワーで感じ取る、という表現を使っていたので天界限定の仕様だと思われる。

 細かいことは後から公式サイトで発表されるだろう、きっと。


『はい、それではまず可愛い神獣ちゃんの10位から発表いたします。天使ちゃんたち、ドラムロールをお願いね?』


 女神様の呼びかけに応じ、小さな太鼓を叩く天使と、シンバルを持った天使が普通に横合いから歩いてきた。

 シルエットがそっくりな『試練を与えし者』と違い、ちゃんと顔も姿もはっきりとしている。

 ドラムロールが鳴らされている間、女神様が楽しそうな表情で神殿内に集まった神獣を眺めて回る――徒歩で。


「凄い! 神様らしさゼロです!」

「普通にペットショップか動物園を見て回るお姉さんみたいな動きだね……」

「あー……しかし大変な数だねこれは。先輩、ノクスかマーネの姿は見えました?」


 ヒナ鳥たちが女神様の所作にツッコミを入れ、最後にシエスタちゃんが俺に質問を投げてくる。

 見たところ、この空間には部門を問わずに神獣が集められているようだが……。


「いや、今のところは……セレーネさんはどうです?」

「さっき毛玉が散った時にいたような気もしたけど……ごめん、分からないよ」

「セッちゃんが分からないのでは仕方ないな! 折角だから、他の神獣をじっくりと見ようではないか!」

「うん、女神様の移動に合わせて色んなのが見えるしな」

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