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美獣コンテスト鑑賞会

 談話室の椅子にボンと大きなクッションが置かれている。

 その上にシエスタちゃんが腰かけ、位置調整。

 少し唸って考えたかと思うと、また位置調整。


「……せんぱーい。ソファとか作れませんかね? 今」

「今!? そんなにすぐ作れる訳ないでしょ!?」


 あんまりな無茶振りに思わず全力で答えてしまった。

 今日はTBの新イベント初日……今夜は美獣コンテストと補助技能コンテストが開催される予定だ。

 俺たちはヒナ鳥のホームにある談話室に集まり、みんなで審査の様子を見ることにしていた。

 俺の言葉を受けたシエスタちゃんが小さく頷きを返す。


「ですよね。でも欲しいなー、ソファ。前から欲しいと思っていたんですよね。審査系って“見るイベント”じゃないですか、出すもの出した後は。なので使う機会はそれなりにあるかなーと」

「それはそうだけど……だったら、バトル選手権でいい成績を収めたら作る感じでどうかな?」

「おー、それは嬉しいですねー。俄然やる気が出てきます」


 木材でフレームを組んで、革を張っていけばいいんだよな?

 これまでの生産関係の経験上、作れないことはないと思われる。

 それを聞きつけたユーミルが、会話に入りつつ横から俺の肩に手を置く。


「ほう、ご褒美ということか。具体的には何位以上だ?」

「えー……ユーミル先輩、そう固いこと言わずに。頑張ったで賞でよくないですか?」

「それだとお前は頑張らないで賞」


 ユーミルの即答に、シエスタちゃんは黙って小さく舌を出した。

 どうやら図星だったらしい。

 個人的には、最低でも決勝トーナメントには残りたいところだ。


「ユーミル先輩にまでシーちゃんの性格が完全把握されてる……ある意味凄い」

「まぁ、何だかんだでバトル本番はちゃんとやってくれるでしょ。リコリスちゃん、こっちのフライドポテトをテーブルに並べてくれる?」

「あ、はい! 何だか本当に鑑賞会みたいですね」


 テーブルの上にはポテト、甘味としてデーツが添えられている。

 そして飲み物は……。


「飲み物は取引掲示板で買ったサイダーだもんなぁ……ゲームらしさゼロだ」

「リアルでこの時間に食べたらヤバイ系統の食べ物たちでござるな。後はピザとか?」

「ん、それは俺も思った。ただ、やるんなら農業区に石窯を組むかな」

「「「石窯ピザ!!」」」

「いや、今日は無理だからな? イベントが終わってからの話」


 思った以上の反応が返ってきて、少し驚いた。

 農業区で生産した小麦粉、トマト、牛乳から作ったチーズもあるし……おお、材料のほとんどが自前で揃うな。

 しかし今から作るのは時間的にも難しい。


「む、鍛冶の炉を使えばできるのではないか?」

「あれは料理用じゃないんだが……セレーネさんも何か言ってやってください」

「う、うん。ちょっと無理があるよ、ユーミルさん」

「そうか……残念だ」


 調理場にパン用の窯はあるのだが、ピザ用ならピザ用で蓄熱材を抜いたものを屋外に組んでみたい。

 そんな話をしていたところで、視界内にイベント開始を知らせる字幕が流れる。


「先輩、モニター出してくださいな」

「あ、もう完全に寛ぎモードに……」


 どこから出したのか、クッションを三つも使ってシエスタちゃんが不動の構えを取っている。

 モニターはいつものように、誰か一人が拡大すればみんなで見ることが可能だ。


「全く……ハインド先輩、私がやります」

「ありがとう、サイネリアちゃん」


 サイネリアちゃんがメニュー画面を呼び出し、イベントの中継に繋いで壁際に置いてくる。

 俺も席に座り、中継開始を待つ。

 すると、画面に変化が訪れ……。




『はぁー、何て素晴らしい空間……みんなもう返したくない……天界に住まわせたい……』

「えっ……」


 カラフルな毛玉の中から声が聞こえてくる。

 どうやらこれは、神獣たちの塊のようなのだが……。

 リィズが溜め息を吐く。


「また放送事故を垂れ流すスタイルですか? そういうのは魔王ちゃんだけで間に合っているのですが」

『毛玉の中からこんばんは、来訪者の皆様。動物神アニマリア・デウスと申します』

「いや、どうもこのまま進むっぽいぞ……」

「神様の姿、全く見えないのでござるが……」


 場所は神殿によく似た場所のようだが、全容は掴めない。

 しかし画面中央に神様を捉えているのか、毛玉の中央が声に合わせてもこもこと動く。


『突然ですが皆様、私が好むのは何も毛がフサフサな動物に限りません。毛がなければそれはそれで……鱗や皮の感触も素敵ですし、ゴーレムや植物の精など本来動かざるものが命を宿した姿まで、全て愛しています。ただ、今の気分が温かな毛に埋もれたいというそれだけのこと……』

「それだけと言われてもな……」


 毛に蒸されるのはさすがにやり過ぎではないだろうか?

 それとも、可愛がっている内に集まってきてしまったのだろうか?

 どちらにしても、おかしな光景であることには違いないが。


「ええと……柔らかい声ですけど、女性の神様――女神様でしょうか?」

「ど、どうかな? 姿が見えないことには……」


 サイネリアちゃんもセレーネさんも困惑気味だ。

 やがて毛玉の中心から光が放たれ、集まっていた毛のある神獣たちが順番に離れていく。

 中から現れたのはやはり女性のシルエットで……。


『っくしゅん!』


 立ち上がるなり、プレイヤーたちが注目する中でくしゃみをした。

 あの、神様?

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