体育祭の終了
秀平が教えてくれたスレの範囲で、最も参考になったのが「幻獣系」の弱点についてだ。
神獣は各個に得意属性と苦手属性が設定されており、一対一の場合特に相性が出易い。
弱点部位も設定されており、それに関してはプレイヤー・モンスターとも共通の仕様となっている。
「――フェニックスって、倒しても再生したりしないよな?」
「どうなんだろうね? 徐々にHPを回復するスキルとか、一度だけ即座に復活できるスキルとかはあるかもしんないけど……無限ってことはないでしょ?」
「前者はマーネにもできるやつだな! しっ――じゃない、何だっけ? 亘」
「癒しの歌な。完璧に当てるのは難しいだろうけど、いくらでも事前に推測はできるな。幻獣系」
「役に立った?」
「ああ、かなりな」
その手の本――幻獣や神話についてなど、時間を見つけて目を通しておくとして……。
それ以外の神獣の弱点についても、少し話をしておくか。
「弱点が分かりやすいやつってのは、他にもいるよな。伝承とか神話が関係ない神獣でもさ」
「体から火を吹いていたり、表面が土で覆われていたりだな? その二つは水と風が弱点だから、ノクスのお得意様だ!」
「そうそう、そういうこと。ただ、その手のやつは例外なく尖った性能してるから怖いと言えば怖い」
大事なのは相手の得意分野で戦わないこと。
間合いだったり攻め込むタイミングだったりが重要だ。
遠・中・近どれが得意なのか、遅攻タイプなのか速攻タイプなのかをよく見なければならない。
「ノクスはどちらかというと万能系だよね? 器用だけどマイルドなタイプ」
「鳥系の中では回避も速度もそこそこな分、魔法が使える感じだから……まさにそうだな」
苦手な相手が少ないが、弱点を突きつつ丁寧に戦わせないと優位に立てない。
簡単な負けパターンを想定すると、物理近接型と正面から殴り合った場合……まず勝てない。
遠距離魔法型に付き合って遠間で撃ち合った場合……これも無理。
「しかし、マーネが新スキルの力を発揮すれば楽しいことになるではないか」
「発揮できればな。うーん……そうなると、もう模擬戦はやらないほうがいいかもな」
「隠し玉だからねぇ。性能がバレると対策されそうなスキルだし、人目に触れる機会は減らすべきだろうね」
「そしたら、イベント前にやることがほぼ決まってくるな」
美獣コンテストの対策をしつつ、直前まで経験値稼ぎ。
幻獣の知識を得つつ模擬戦はなし、といった結論が出たところで時計を確認。
「あ、あと五分で再開か。未祐、午後の競技は?」
「む? バスケと、個人の陸上競技が三つと、後は団体の……」
「分かった分かった、沢山な。怪我しないように気を付けろよ?」
「うむ、気を付けながら全力で動いてくる! ごちそうさま!」
「未祐っちにそんな器用な真似――もういねえ!?」
「俺らも行こうぜ。ちょっとしたらまた野球の時間だ」
持ち込んだ時に比べ遥かに軽くなった弁当箱を二つ抱えると、俺は秀平と一旦教室に戻った。
高校二日間、中学では一日を使っての体育祭が終わった当日の夜。
ヒナ鳥の談話室には、ピクリとも動かないシエスタちゃんの姿が……。
「リコリス殿、サイネリア殿。これ生きてんの?」
「た、たぶん……」
「ログインしてきただけでも奇跡ですから。ハインド先輩のおかげかと」
「俺の?」
「そうですね……去年の体育祭後のシーちゃんは、完全回復までに一週間かかりましたから」
「去年は私たちが左右から支えて帰ったんですけど、今日はどうにか自力で歩けていましたので」
「……」
それは何とも……トビと顔を見合わせ、どう答えるべきかしばし悩む。
しかし、去年より改善が見られるのはいいことだ。
まだまだ成長期なのだから、今後は――
「先輩……」
「――! ど、どうしたシエスタちゃん?」
「インしてから初めて喋ったな!?」
「あ、甘いものを……激烈に甘いものを……魔王ちゃんに出したパフェみたいな……」
「……分かった。リィズ、手伝ってくれるか?」
「はい、もちろん構いませんが……シエスタさん? パフェを食べたらきちんと動けるようになるんですか?」
「――」
シエスタちゃんは言葉もなく、首を上下に動かして返事をする。
VR内では結局のところ、メンタル的な部分しかケアできない。
実際の体は横になっているので、それだけである程度回復するだろうが。
しかしそんな状態でログインしてきたということは、シエスタちゃんのイベントに対するやる気が持続している証拠で……。
疲れているなら帰ったら? とはとても言えない。
ここは望み通りにしてあげようじゃないか。
それと……。
「セレーネさん、シエスタちゃんが食べ終わったら湿布でも貼ってあげてください。効いた様な気分にはなるらしいんで」
「あ、そうだね。任せてよ」
「よっし、じゃあ気合入れて――他に食べたい人いる? パフェ」
「食べる!」
「はい! はい! 私も食べたいです!」
「わ、私もお願いしていいでしょうか……?」
念のため訊いてみると、女子のほぼ全員の手が――
「あ、拙者も食べたい」
「お前もかよ。あー……なら全員分作るか」
ということで、今夜は八人分のパフェの作製から始めることになった。