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体育祭

 カウントはツースリー。

 勝ちはもう動かないだろうが、次で三振を取って次の試合に弾みをつけたい。

 川田君が俺のサインに頷き、ダイナミックなフォームで振りかぶる。

 外角高めの釣り玉に対し、相手の四番バッター坂井君が――


「げぇっ!?」


 思わず手が出た、といった様子で豪快に空振り。

 目の前で唸るバッドが非常に怖かったが、どうにかキャッチしてゲームセット。

 川田君が両手を突き上げ、俺へと駆け寄ってくる。




「やっぱ亘にキャッチャー頼んで正解だったわ! 次も頼むぜ!」


 体育祭の野球競技、その初戦。

 俺が所属するクラスはそれに勝利を収め、次戦へと駒を進めることとなった。


「うん、勝てて良かったよ。あ、ちゃんとアイシングしなよ?」

「おう! ……って、体育祭のお遊び野球でアイシングってお前。クールダウンはきっちりしとくよ」

「はいはい、しっかりね」


 一応持って来たんだけどな、氷のうはともかく冷却スプレーくらいは。

 言葉の割には全力投球だったので、次の試合が終わったらもう一度勧めてみるとするか。

 川田君は中学までは野球部、現陸上部のスポーツマンである。


「防具外すの、手伝――あ、あいつに頼むか。悪いけど先に行くぜ、亘。もう校庭に出ねえと」

「はいよ。忙しいね、川田君は。行ってらっしゃい」


 出場競技の多い人は大変だな。

 そんな川田君と入れ替わるように秀平が、一言交わしてから防具を外す俺に近付いて来る。


「わっち、キャッチボール終わったん?」

「ああ。しかし、どうしてキャッチャー用のプロテクターってこう付けるのが面倒なんだ……」

「このベルトがね。背中を向けてくれぃ」


 秀平が防具を外すのを手伝ってくれる。

 これは学校の備品だそうで、野球部ほどの使用頻度ではないため古い割には傷が少ない。


「でも、付けずに怪我なんてしたら理世ちゃんが怒るよ?」

「別に付けないとは言ってな――愛衣ちゃんみたいだ、今の会話の流れ」

「あ、本当だね。うつった?」

「かもな。家事まで面倒になったら大変だから、自重するとしよう」

「いやあ、どうだろう? 料理、洗濯、掃除中のわっちの顔を見る限りそれはないでしょ」

「そうか?」


 そういう時の自分の顔は見られないしな……。

 そんなものを気にしているようだと、精度が下がるし。


「それはそうと、愛衣ちゃんたちの体育祭も明日だったな。大丈夫かな……」

「TBのイベントもすぐだしね。バテバテだとバトルの指示に影響が出るんじゃ?」

「バトルだけじゃなく、美獣コンテストの準備もあるが……この際ゲームのことはいいよ。無事に体育祭を乗り切ってくれれば」

「そうだねぇ……あ、ちなみに愛衣ちゃんはどうだか分からないけど、俺の体調はいいぜ! 高原の空気もわっちの弁当も美味かった!」

「愛衣ちゃんもそうならいいんだがな」


 多少なりともピクニックの効果が出ていることを祈る。

 ……よし、やっと脱ぎ終わった。一式を重ねてしまってと。


「わっち、この後しばらく暇だよね?」

「ああ。俺は最低限の競技しか出ないからな」

「だったら、未祐っちの冷やか――応援でもしに行こうよ。混んでいると思うけど」

「混んでいるだろうなぁ……主に後輩女子軍団のせいで」


 倉庫の傍を離れ、体育館のほうへ二人で移動していく。

 確か未祐の今の競技は……。


「ふんぬっ!」

「「「キャー!!」」」

「バレーボールか……キャーって。黄色い声援のお手本みたいだな」

「TB内でやったビーチバレーを思い出すねぇ。未祐っちのスパイクは男でも取れるかどうか」

「どりゃあ!」

「「「未祐せんぱーい!!」」」

「「……」」


 体育館にあるコートの一つでは、未祐が二連続でスパイクを決めていた。

 本職のバレー部ならともかく、ちょっと練習した程度ではあれは上がらないだろう。

 他の観戦中の生徒の後ろから、やや背伸びしつつそれを覗き込む。


「そして相変わらずのかけ声だね、未祐っちは。どりゃあ! は、ともかくふんぬ! はさすがになくない? 女子としてさぁ。どうなの?」

「いいんじゃねえの? あのワイルドな感じが後輩連中にうけているらしいし……あいつがクールに見えるとしたら、それは黙ってじっとしている時だけだ。そしてそんな時間は一日の内の極々一瞬だけだ」

「くっははは、言えてる! しかしここは居心地が悪いね。もうちょい見たら移動――」

「お、亘! 亘ではないか! 私の活躍、そこでしっかりと見ていくが――ぶっ!?」

「ちょ、未祐!? 大丈夫!?」


 顔面レシーブとは器用な……当たったのは横っ面だから大丈夫だろう、多分。

 ちなみにだが、そんな失態にも関わらず後輩女子軍団の反応は特に変わらない。

 ああいうところも含めて好きなのだそうだ。


「……ま、もう試合終盤だし最後までいるよ。それに、今の状態で移動なんてしたら……」

「あー、ひんしゅく買いそうだね。わっち、未祐っちが呼んだせいで超見られているし」

「それに、もうそろそろ昼飯だろう? 今からあちこち移動しなくていいよ。それと、食べ終わったらTBの掲示板を見るから、いつものあれをやってくれよ。秀平」


 掲示板の閲覧については色々と悩んでいたが、最終的に秀平に訊くのが一番早いという結論に達した。

 特に今のように全体の情勢を知りたい時などは、多くのスレに普段から目を通している秀平が頼りになる。


「いつものって言うと、要点の抜き出しだね? いいよいいよ。その代わり俺に弁当の中身を一品寄越し給え!」

「了解。幸い未祐も怪我はなかったみたいだし、すぐに終わるだろう」

「わっちに気付いてからは気合が違うしね……バフ使った?」

「使ってねえよ。ってか、ゲーム外で使えてたまるか。あ……あー、すげえサーブ」


 そんな話をしている向こうでは、ローテーションでサーブに入った未祐がジャンプサーブを相手コートにぶちかまして試合終了。

 ちょうどいいので、未祐に食べる場所の相談でもしに行くとするか。

 確か今日は一緒に食べると言っていたはずだからな。

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