効率プレイとヒナ鳥の粘り
「それで、どうしたら効率がいいのかを追求したらこうなった」
「こうなってしまったか……」
ユーミルの表情は今一つ、といったところ。
となれば、次に出る言葉も比較的予想は容易である。
「はっきり言わせてもらうなら、私好みではない!」
「だろうな。四枚羽が出る度に撤退だからな」
翌日、全員が揃ったヒナ鳥側の談話室。
そこで俺は新たに設定した宝珠稼ぎについてみんなに話していた。
やり方は今言った通り、『ミッテ荒野』ないし同等の敵が存在するフィールドで『試練を与えし者』を討伐。
『真・試練を与えし者』が登場した時点でフィールド外へ。
そしてフィールドに入り直して、また最初からの繰り返し。
これが現時点での最適解だと思われる。
「倒したい! たーおーしーたーいー!」
「そうは言うがな。プレイヤーの力だけで倒せる設定にはなっていないぞ、あれは」
「むぅ……」
「ノクスとマーネの成長次第だな。神獣必須になるように調整されているみたいだから……逆に言うとだな、ユーミル。二羽の成長によってはもう一段階上のフィールドで勝負できるかもしれないぞ」
「本当か?」
昨日の内にもう一つ上のレベル、65付近のフィールドを三人と二羽で視察してある。
レベル差のせいで戦いはかなりきつかったが、神獣の攻撃はやはりダメージが通りやすかった。
「それだけ上に行くほど、神獣の補正が増大していく訳だ。四枚羽は特に顕著だしな」
「そうか……なら、張り切って稼がないとな!」
「いくら補正があっても、ベースになる能力が弱いと駄目だからな。ってことで……」
「ここに大量の経験の宝珠があります」
「!? いやいや、ハインド殿! 一瞬で集めてきたかのような言い方はやめて!? みんな頑張ったよ!?」
「冗談だ、冗談。なかなかにハードだったな……みんな、お疲れ様」
談話室のテーブルの上には、所狭しと積まれた『経験の宝珠』が。
今の俺たちは消費アイテムはスカスカ、装備はボロボロ、そして満腹度も危険ライン。
「稼ぎ方を変えて二日経っていますしねー……面子も今日は、昨日と違って五人だし。リコもサイも妙にやる気出しちゃってさ。どしたん?」
「だって、シーちゃんの晴れの舞台がかかっているんだよ!? やる気くらいいくらでも出すよ!」
「フフフ、シー。競馬の時は散々私をからかってくれたよね? 駄目だからね、シーだけ目立たずひっそりと予選落ちなんて……」
「さ、サイちゃん?」
明るい笑顔のリコリスちゃんとは対照的に、サイネリアちゃんが暗い笑みを漏らす。
初めて見る表情だな……。
「あー……いつも通りのリコはともかく、サイの理由は酷くない? 同じ思いを味わえー、的なさぁ」
「冗談だよ、冗談」
「先輩の真似? 半分は本気な癖に……」
「二人とも、先輩たちが困ってるよ! ハインド先輩、話を進めちゃってください!」
「あ、うん。そしたら前と同じように経験の宝珠を等分配して……」
ノクスには俺が。
マーネにはシエスタちゃんがそれぞれ『経験の宝珠』を一気に使用。
すると、二羽の光が輝き……。
「新スキル!? 新スキルでござるか!? それともまさかのランクアップ!? 成体!? 成体!?」
騒がしいトビの声と共に光が収まると、そこには……。
なんと、宝珠使用前と変わらない姿のノクスとマーネが。
ランクアップではなさそうだな……メニュー画面を開いて、ノクスのスキルを確認していく。
「どうでござるか!?」
「残念、ただのレベルアップだ」
「先輩、マーネもスキル増えてません……」
「ぐあぁぁぁぁ!」
「「あぁー……」」
「「はぁー……」」
全員で溜息を吐く。
ステータスはちゃんとアップしているんだがなぁ……。
ノクスとマーネが慰めるように指をくちばしで弱く突いてくる。
うん、ありがとう……お前たちのせいではないよ。
「ま、そう上手くは行かないよな。神獣が習得するスキルって、そう多くはなさそうだし」
「そうですねー……ではハインド先輩、もう一度です!」
「もう一度って、リコリスちゃん。宝珠はもうないんだけど……」
「そうではありません! もう一度フィールドに行きましょう!」
「え……マジ? リコ」
シエスタちゃんが呆然とした様子で問い返す。
俺も今夜は解散の雰囲気かと思っていたのだが、リコリスちゃんは元気に拳を突き上げた。
「マジだよ、シーちゃん! 私は本気! 今夜中にマーネとノクスにスキルをプレゼントします!」
「うん、そうだね。私もリコに賛成。このまま中途半端で終わるのは嫌かなって。もちろん、先輩方の都合もあるけれど」
「ええー、サイまで……どうします? 先輩、トビ先輩」
向けられた視線に、俺とトビは顔を見合わせる。
後輩たちが頑張ると言っているのだ、俺たちに断る理由はないな。
時間もまだ宵の口。
頷き合い、肯定の返事を――
「すまない、遅くなった!」
「どうしてまたユーミルさんと行動が被るんですか……セッちゃんはともかくとして」
「ま、まあまあリィズちゃん。あ、みんなこんばんは。もしかして、もう帰るところだった?」
返事をした直後にユーミル、リィズ、セレーネさんが談話室に入ってくる。
シエスタちゃんが「交代メンバーが!」と嬉しそうに三人を出迎えた。
「いえ、今もう一度行こうかって話をしていたところです。ええと……じゃあ、料理と回復アイテムを準備したら再出発しようか?」
「はい、八人で行きましょう!」
リコリスちゃんの気持ちの良い返事を合図に、俺たちは再びフィールドに出る準備を始めた。




