回避地獄と補正検証
まずは宝珠の検証結果から。
結論から言うと、宝珠は現在のプレイヤーのカンストレベル――60までに対し、61以降の『試練を与えし者』が落とす宝珠は正比例ではなかった。
「微増……ですか? うーん」
「そう、微増。極端には上がらないけど、60までより薄っすらお得。ただし微増と言っても、長い目で見ると結構差が出るかも」
「となると、あれでござるな? 時間効率込みでどうか、といういつものパターン」
「そうなるな。細かい計算がいるから、その辺は後でリィズに頼んでみよう。昨日戦った感触だと、レベル61~63は悪くなさそうだったな。倒すのにそこまで時間がかからない」
『経験の宝珠』については『試練を与えし者』のレベルが高いほどいいということに。
ただし、トビが言ったようにどのレベル帯を狙うかは今後の検証次第。
そして次は――
「神獣の補正も考えないとですよね。常に入れておいたほうがいいかー? とか、あと、えーと……先輩?」
「途中で面倒になったでしょ? 最後まで言ってよ……」
考えることが多いので、無理もないが。
細かく言うとノクス入りの場合、ノクスとマーネ両方を入れた場合、マーネのみを入れた場合、それから入れた場合の三人ないし四人のプレイヤー側のバランス。
それからノクスとマーネの新スキルの性能がどうなのか、『真・試練を与えし者』を倒すべきかどうかなど、考慮すべき点は数多い。
どこから手を付けるかと言うと……。
「補正率はこの三人だけでも調べられるだろう。新スキルに関しては……」
「こればっかりは宝珠を必要量、集めないことには不可能でござるしなぁ」
「習得したスキルが有用だったら行くフィールドのランクを上げる、微妙だったらステイって感じですかね?」
「そうだね。覚えた段階でまた考えればいいことか」
整理すると、最初に神獣の能力補正率の検証。
次に『真・試練を与えし者』を一体倒してみること。
それらの情報が出揃ったら、どのフィールドで稼ぐのかを選定。
稼いでいる途中で二羽がスキルを覚えたら、場合によっては更に上のフィールドへ。
「……こんなもんかな?」
「うへぇ……先輩、細かーい……」
「過程はね? やっていることは以前と同じだから、初心に帰る形だけど」
「基本、人の情報に頼らない姿勢でござるな? 掲示板などはその確認と取りこぼしを拾ってくる場、という感じで」
「そうそう。じゃないと、結局トップグループから出遅れることになるし」
今回は既に遅れていると思うので、急がないときっと追いつけない。
その証拠に、模擬戦の戦績もここまで順調とは言い難い状態である。
「他のゲームがどうだか知らないけど、TBなら自分で確かめた方が絶対に早い。ってことで、今夜は結局三人みたいだから……」
「リコはお勉強、サイは家業の手伝いです」
「うん。こっちの女子三人も今夜は来られないって言ってた」
「では、いざフィールドへ! で、ござるな!」
三人と二羽で一路、『ミッテ荒野』へ。
補正率の検証とはいっても、能動的にそれが可能なのは攻撃力と魔力の二項目。
HP・防御・魔法抵抗の三つを回避能力の高い二羽で測るのは困難である。
「ってことで、頑張れ渡り鳥の回避盾」
「のぉぉぉぉぉ! 厳しめ、天使の攻撃厳しめ! どこが天使でござるかこの悪魔ぁぁぁ!」
トビが時間を稼ぐため、敵の攻撃を避けながらサボテンの間を駆け抜ける。
体よりも口の方が多く動いているようにも思えるが……。
「いやー、それでも完璧に躱す辺り俺とは全然違う……やってみて分かるお前の凄さ」
「感心してないで、ハインド殿! 早くノクスに攻撃させてぇぇぇ!」
「悪い悪い。ノクス、ウィンドカッター!」
風の刃が唸りを上げて『試練を与えし者』を両断する。
エフェクトが派手になっている時点で、魔力が増大しているのは明白だが……問題はその倍率。
目の前の天使はこれで十体目、レベル63の個体だ。
細かな計算は後回しだが、どうも『経験の宝珠』と同じような感触が。
若干だが、レベル60までより補正が優遇されている?
「これは真のほうも期待できそうだな。マーネのデータも十分だし……トビ、もうここからは普通に攻撃に回ってくれて大丈夫だ! データ取り終了! 俺たちも戦闘に参加する!」
「やっとでござるか!」
「先輩、マーネはどうします?」
「回復職が二人いるから、幻惑の歌でいいと思う。トビとの相性も良さげ」
「あいあい。マーネ、幻惑の歌ー」
マーネの不可思議な鳴き声が響き渡り、その場のパーティメンバー全員に残像エフェクトが発生する。
特に素早く動くトビは顕著で、天使が数瞬前の残像に向かって盛大に攻撃を外す。
「おおっ、かっけぇ! ……でもハインド殿、最初からこのスキルだけでも発動させておいてくれたら――」
「すまん、俺のミスのせいであまり時間がないんだ。マーネの物理攻撃も見ておきたくてな。お前なら避けきれると思っていたし……現にノーダメージだっただろう?」
「……全く仕方ないでござるなぁ、ハインド殿は! そういうことであれば、この後の戦いも拙者にお任せ!」
俺の言葉を聞くや、『分身の術』を発動させて畳みかけるトビ。
一撃のダメージは低いが、あれだけ手数が多いと関係ないな。
「……」
「何かな? シエスタちゃん」
「いえ、先輩本当に調子が戻ってきたなーって。人をのせるの上手いですよねぇ」
「そんなことないって。それよりシエスタちゃん、そろそろ昨夜あいつが出てきた討伐数と被るんだけど……」
「あー、そういえば。これで出てくれば――よっと。あー、いつ見ても眩しいなぁ、この光線……討伐数で出現ということで確定ですかね?」
「ほぼ間違いないだろうね。ノクス、アイスニードル!」
データ取りで複数のレベルの天使もどきを倒しながら進んでいたため、討伐数もそれなりに伸びている。
トビが回転切りを鮮やかに決め、『試練を与えし者』を倒したところで……。
四枚の羽を持つ新たな天使が空から舞い降りる。
「うわ、出た」
「条件確定……ですけど、ノクスとマーネの様子は――」
「めっちゃ光ってる!? めっちゃ光っているでござるよ、お二方!」
トビの声に二羽の様子を見ると、検証の必要がないほどの変化が表面に現れていた。
光っているというか、強敵に呼応するように金色のオーラが出ているんだが……。
ユーミルの『勇者のオーラ』ほどの派手さはないが、これは何とも。
「分かりやすっ!? どう見ても普通のより強い補正がかかっているじゃないか!」
「あー、なんか倒せちゃいそうな雰囲気ですね。やってみます?」
「あ、そ、そうだね。ここは冷静に、どの程度の補正かも見極めないと……」
オーラエフェクトに目を奪われている場合ではない。
そうしてそのまま『真・試練を与えし者』に挑んだ結果……。
「あれ、倒せませんね……っていうか、相手回復するし」
「結局火力不足か……この二羽だと新スキルが必要なのか。補正はノーマル敵の比じゃないのに」
「ウィンドカッターですらもう突風レベルでござったが……ハインド殿?」
「ああ。ひとまず撤退!」
倒せなかったので、俺たちは『ミッテ荒野』から撤退することにした。
最後の戦闘は悔いが残るが、データ取りという面では上首尾である。