更なる改善点と新スキルに向けて
俺が失敗だらけながらも、どうにか前衛として最低限の役割を果たした翌日。
今日も俺たちは宝珠集めを続けることにしている。
メンバーはヒナ鳥三人にユーミル、そして俺。
トビは珍しいことに二日続けての休みとなっている。
集合場所はヒナ鳥のホームにある談話室、今は模擬戦のリプレイをみんなで見返していたところだ。
議題はやはり改善点探しで、今夜は特にシエスタちゃんを中心に確認中だ。
シエスタちゃんのマーネに対する指示は普段の動きの延長上のものなので、基本的には問題ない。
ないのだが……。
「マーネもそれなりに速いですから、囮くらいにはなれるようにしたいですね」
「えー。何かサイが言い出しちゃったよ……」
シエスタちゃんは面倒な意見にげんなりしているが、サイネリアちゃんの提案はもっともだ。
後ろで歌っているだけだと、ノクスが一対二になってしまうことが多いからな。
……やっぱりサイネリアちゃん、お茶の淹れ方が上手いな。
和菓子と相性が非常に良い。
「それと、マーネばかり狙われた時の対処がまずくないか? ペースを乱されて、そのまま負けた試合があっただろう?」
「あったな……」
神獣は必ず指示を出しているプレイヤーがいるので、ユーミルの言う通りどちらを狙うかは当然任意だ。
実質対人戦なのでヘイト稼ぎの要素は存在せず、モンスター戦以上に二羽の位置取りが重要となってくる。
「ノクスを敵とマーネの間に、マーネもそれを意識して、囲まれた時はノクスのいるほうに逃げていく……と、互いを意識した動きが大事になるな。片方だけじゃ駄目だ」
「ノクスとマーネ、ハインド先輩とシーちゃんの連携を深めればいいんですね!」
「お、リコ。いいこと言うねー」
流れに逆らえないと見たか、シエスタちゃんがリコリスちゃんの言葉に含みのある笑顔で頷く。
それに対しユーミルが片眉をぴくりと反応させた。
「……言っておくが、必要以上に仲良くする必要はないのだからな? シエスタよ」
「そう言われると、むしろ積極的に先輩にベタベタしたくなりますねー」
「シーちゃん、あまのじゃく!」
「むっ! では勝手にベタベタでも何でもすればよいではないか!」
「はい、そうします」
「シーちゃん、あまのじゃく!!」
「シエスタ貴様!」
年下にいいように弄ばれるユーミルの図。
俺は結論を求めて、三人のやり取りを困り顔で見ているサイネリアちゃんに視線を流した。
「やはり最終的には、模擬戦を重ねて経験を積んでいくしかないと思います」
「今挙がった改善点を意識しながら、ってことだね?」
「そうですね。他に何か、連携強化できそうな手段がないか考えてみますが」
「ありがとう、サイネリアちゃん。それじゃあ、リプレイ再生はこの辺にしてフィールドに出るぞ。みんな、準備してくれ」
騒いでいた三人が返事をしたところで、俺たちは止まり木をホームと農地を経由してからフィールドへ。
「こうして見ると、あれだ……育成系ゲームか何かに迷い込んだのかと錯覚しそうになるな!」
「ああ、確かに別ゲーム感あるよな。今は特にみんな、積極的にパーティに神獣を入れているから」
フィールド上には、イベント敵である『試練を与えし者』だけでなく通常のモンスターも出現する。
それらと神獣が戦っている姿を見てのユーミルの言葉には、俺も同感だ。
「段々と補助系の神獣の姿も増えてきましたよね? 先輩」
「遠目だと見え難いけど、小動物系が増えた気はするね。それと、あの辺の……」
「お魚さんが浮いてます……」
話には聞いていたが、浮遊する魚の姿は中々に奇妙だ。
何だあれ、カツオ? あっちは……貝、だろうか?
まだ対戦相手として戦ったことはない理由としては、おそらく幼生・幼体時の経験値の稼ぎ辛さにあるのだろう。
特に水場の少ないこの砂漠においては。
……。
「ま、まあそれよりも宝珠集めだ! 早くノクスとマーネに必殺技を覚えさせねば!」
「――はっ!? そ、そうだな」
ユーミルが前日に予想した通りの言葉を発しながら、呆然と魚の姿を追う俺たちの前で一度手を叩く。
今日はパーティバランスもいいので、とにかく効率重視でひたすら『試練を与えし者』と戦うことに。
「……それはいいんですけど。取り合い、激しくありません?」
「というか、いつもより近いよね。パーティ間の距離が」
「ああっ! 魔法攻撃に巻き込まれて――折角削ったのにぃ!」
「リコ、落ち着いて。周りの迷惑になるから……」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「ノードロップにはならないけど、与えたダメージの割合で宝珠が小さくなっちゃうのがな……あ、いえいえ! お気になさらず!」
近くで風属性魔法を放った魔導士が頭を下げてくる。
わざとでないのは分かっているので、この場合は仕方ない。
ユーミルがやや荒い息を長く吐いた。
「ハインド、もどかしくてイライラするのだが……どうにかならんか?」
「ダンジョンなしの大型フィールドでこれだ。快適に戦いたかったら移動するしかないだろうな」
「……それは、今よりも上の高レベルフィールドへ――ということか?」
「そうなる。しばらくレベルキャップが解放されていないから、人口の多い中間層が追い付いてしまったんだろうな。おそらく」
「ふむ……」
考えるように唸ったものの、ユーミルの口元には挑戦的な笑みが浮かんでいる。
答えは既に決まっているようだ。
「最近ぬるい戦いが続いていたからな。ここらで上のランクに挑戦するのもいいだろう! ……シエスタ、そんなに嫌そうな顔をするな!」
「あ、顔に出ていました?」
「バッチリな!」
「……それでも行ったほうがいいとは私も思いますんで、反対はしませんよー。先輩、どこのフィールドがいいですかね?」
「そうだな……」
シエスタちゃんの言葉に、俺はマップを開いてこれから向かうフィールドの検討を始めた。