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前衛の教え・トビ

 ええと、トビの教えは確かこんな……。

 あれはユーミル、リコリスちゃんとの訓練を行った翌日。


「拙者からは回避の極意……とまで大層なものではござらんが、コツなどを簡単に」

「頼む。接近戦に入った後の回避、そしてその後の離脱はノクスにとって重要事項だからな。ここの指示が不安定だと、全く能力を活かせない」

「鳥の神獣は一にも二にも回避、回避でござるからなぁ。ではハインド殿、案山子――いや、人形のほうが良いでござるな。準備を」


 トビの言葉を受けて、訓練所の操作パネルで木製人形を要請。

 床が開き、下部から人形がせり上がってくる。


「人形なんて出してどうするんだ?」

「まずはこの木の人形が……素手の敵プレイヤーだと仮定した場合に、前衛がどこに立つかを考え、実行してみてほしいのでござるよ」

「ああ、間合いの測り方から入るのか。遠距離攻撃は?」

「ないものとして」

「了解。じゃあ……この辺りか?」


 俺は相手の蹴りが届かない位置、そこから一歩後ろに立つ。

 そうか、だから案山子じゃなくて人形なのか。

 足のないタイプの案山子だからな、訓練所のものは。

 俺の立ち位置を確認したトビは、感心したような声を上げる。


「おお、さすがハインド殿。戦いに慣れた軽戦士なら、その位置で正解でござるな」

「その言い方だと、俺が立つ位置としては不正解ってことか?」


 ちなみにだが、トビならもう半歩前、ユーミルなら更に前というのが後ろから見ていた際の記憶にある。

 それを考慮してこの位置にしたのだが……。


「然り。そこは身軽な者が回避後にカウンターを打ち込めるギリギリの距離でござる故に。それが極まってくると、紙一重の距離で躱し始める――といった具合で。徐々に距離は近く、カウンターは鋭く!」

「なるほどな」

「ハインド殿であれば、もっと安全な距離で攻撃を回避するほうが無難でござろう。基本的に反撃するメリットが薄い上に、するとしたら遠距離魔法のシャイニングでござろうし」


 やはり下がり方が足りなかったらしい。

 軽戦士初心者の距離だったか……それでも実際にこの位置で戦うには、結構度胸がいるだろうな。

 空振りされたとしても、風切り音などがしっかりと聞こえそうな程度には相手との距離が近い。

 その後、相手の想定武器を剣や槍などに変えては位置を少しずつ下げていく。

 最終的には相手の装備の身軽さや足の速さなども条件に加味して――


「自分の職や能力、そして相手の条件によって適正距離は変わってくる訳だ……そもそも神官が前っていう事態は前衛型フォワードタイプ以外は避けたいところだが」

「まあ、それでも自分自身の体験をフィードバックするのは大事でござるから。何事も経験でござるよ」


 確かに、応用はできるはずなんだよな。

 鳥と人で違いはあれど。

 トビのここまでの話をまとめると、大事なことは相手のリーチと自分の反撃能力との兼ね合い――ということになるか。


「それじゃあ、ノクスの場合を考えると……通常攻撃はある程度速度を付ける必要があるよな?」

「そうでござるな。仮にノクスが近距離で相手の攻撃を躱した後の有効な反撃となると……」

「魔法か。それも詠唱の短いやつだな?」

「場合によってはカウンターのカウンターになるでござるが。ノクスは基本、空を飛んでいるので」

「自分から近付くのはペナルティ避けの時、相手の遠距離攻撃が厳しい時、MPを稼ぎたい時、相手に隙が多い時などなど……何にせよ、先制はされにくいわな」

「鳥同士や空を飛ぶもの同士の戦いになる時もあるでござるが、上を取れるというのは強いでござるよな。試合をコントロールしやすい」


 そこまで話したところで、俺とトビは言葉を切った。

 理屈っぽい話はここまでで良いだろう。


「……お前、ゲームのこととなると色々考えているよな。改めて感心した」

「そりゃあ、勉強なんかと違って興味のあることについてはね。楽しいんだよね、あれこれ考えるの!」

「口調、崩れてるぞ。結局、ユーミルみたいなのは少数派なんだよな……」

「あんな思考放棄しても強い超感覚派がゴロゴロいたら怖いでしょ……じゃない、怖いでござろう。では、そろそろ実践編に行くでござるか」


 その後二人で話し合い、最終的にノクスにカウンターで『ウィンドカッター』を撃たせようという結論に至った。

 練習・応用できる技術として、俺ができる似たような動きを考えた結果……。




「遠過ぎず、近過ぎずの距離で……来たっ!」


 羽を動かし、一気に跳躍して飛び込んでくる『試練を与えし者』。

 その光の剣を躱し、輝きを放つ杖を敵に向ける。


「当たれっ!」

「お、いいですね先輩。当たると動きが止まるから、私も狙いやすい」


『シャイニング』によるカウンター。

 ダメージは極小だが、短いヒットストップくらいは発生する。

 こいつらには顔がないので、目を狙うメリットも――というか、前衛初心者の俺に狙いを付ける余裕はない。

 今ので四度目の『シャイニング』……ようやく当たってくれた。

 シエスタちゃんが『ヘブンズレイ』で止まった敵を消滅させる。

 って、眩しい眩しい! 近いとこんな感じに見えるのか……。


「ハインドさん! 後ろです!」

「!!」


 まずい、気が緩んだ!

 もう一体の『試練を与えし者』が背後から迫る。

 やはりにわか前衛では限界がある。

 観念して衝撃に備えた直後――


「私のハインドさんに……触るなぁ!」


 リィズの『ダークネスボール』が敵を強制的に引きずり込む。

 セレーネさんが間髪入れずに『ストロングアロー』を放ち、もう一体の『試練を与えし者』が消滅する。


「すまん、助かった! リィズ!」

「今妹さん、私のって言いませんでした? セレーネ先輩」

「う、うん……全く照れも淀みもなく言い切ったね……」

「……何か? お二人とも」


 リィズがセレーネさんとシエスタちゃんに顔を向ける。

 それに対し、二人は揃ってブンブンと左右に首を振った。

 ノクスが俺の肩に着地し、マイペースに「ホー」と鳴く。

 ……とりあえず、次の戦いに備えてみんなのMPを回復させておくか。

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