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前衛の教え・ユーミル&リコリス

『試練を与えし者』を前に、俺はまずユーミルの教えを思い出すことにした。

 ちなみにあいつが今夜インしていないのは、生徒会選挙の準備があるからだそうだ。

 書類作成をする必要があるらしく、難しい顔をして何かを書き込んでいた。何故か俺の部屋で。

 ……思考が脇に逸れた。

 確かユーミルの教えは、こんな感じだったはず。




 あれは組み合わせが決まった翌日のこと。

 ホームの訓練所で、ユーミルが練習用の木製剣を手にこちらを見る。


「ハインドはノクスを飛び込ませるタイミング――は問題ないのだったな?」

「みんなそう言っていたな。問題は接近戦に持ち込んだ後だと」

「お前自身もそうだからな……ふむ。ではこうしよう!」


 ユーミルが俺に練習用の杖を手渡してくる。

 ……これはつまり?


「お前と試合をしろってことか?」

「うむ、そうだ! あ、確認だが、訓練なら叩いてもお前は怒らない……よな?」

「当たり前じゃないか。大体、それはお互い様だろう? 俺の攻撃をお前が全回避できるとは限らないんだし」

「そ、そうだよな……と、とにかくだ! 私は人に教えるのが得意ではないからな! 習うより慣れよ、だ! ハインドの接近戦能力が向上すれば、きっとノクスの指示にも反映される!」

「後半の言葉には同意するが、お前との試合はどうだろうな……トビの時のようにならないといいが」

「む?」


 ユーミルが不思議そうな顔をする。

 闘技大会でのトビとの戦いのこと、忘れているのか?

 しかし、ユーミルもああなるとは限らないしやってみるか。

 結果……。


「お、思い出したぞ……そういえば闘技大会で、トビもお前に完封されていたな……」


 ユーミルの動きを読める俺は慌てることなくほぼ完封。

 ともすれば、トビよりも酷い結果であると言えるかもしれない。


「だから言っただろう? 俺がお前を見てきた期間は、トビの比じゃないからな。考え方の癖なんかも分かっているし、そうそう負けることはないって。最近は特に、後ろから戦う姿をほとんど毎日見ているんだし」

「う、うむ……」

「何故そこで照れる」


 訓練ということで、ユーミルが全力全開ではないということも一因としてあると思われる。

 本人は全力のつもりなのだろうが、明らかに動きの鋭さが違うんだよな……追い詰められたり一発勝負だったりする時と。


「……昔は私が一方的に勝っていたのに」

「昔って、小さいころに喧嘩した時の話か? ぼっこぼこだったよなぁ、昔の俺はモヤシだったし。って、喧嘩した回数自体はそんなに多くないよな? お前、すぐに手が出る癖を結構早くに直していたから」

「それは、そんなことをしていたら嫌われると父さんが――ごほん!」

「ん? まあ、負けていた身長も少し経ったら逆転したしなぁ。昔はお前の方が高かったことを考えると、女の子のほうが成長が早いってのは本当なんだな」


 会ったころはユーミル……未祐の方が少しだけ背が高かった。

 今でもこいつは平均身長よりも上なので、幼いころから順調に背が伸びていたということになるか。


「あーあー! 全くお前ときたら! あっという間に私の身長を追い抜いて行きおって……お姉さんは悲しい!」

「誰がお姉さんだ。俺の方が誕生日は早いだろうが」

「それはそれとして……」

「おい、聞けよ」

「これでは接近戦の訓練にならんな。どれ……助っ人を呼ぶとするか」

「助っ人?」


 ユーミルがフレンドリストを経由してメールを送る。

 送りながらも、こちらを見ずに話を続けた。


「お前の弱点の一つは、前に出ると慌てること――だったな?」

「ああ。特に初見の相手、攻撃の読めない相手、多数の敵相手なんかだと頭の中で処理し切れずに――そうか、そういうことか」

「そうだ! お前に考えずに反射で動けと言っても、無理なことは知っているからな!」

「正しいんだけど、そう真正面から言われると微妙に腹が立つな……」


 その反射だって、大部分は経験の積み重ねが無意識に補っているんだぞ?

 ……こうやって余計なことを考えているから、いつも動きが二、三歩遅れるのだろうけど。

 多少理屈っぽくても運動が得意な人は「考えながら動ける」んだよな、例えば弦月さんみたいに。難しい。

 ユーミルは俺の言葉を気にした様子もなく、こう締めくくった。


「だから、私がその多数の敵とやらを用意してやろう! 手始めに、まずは二人から!」


 つまり、今のメールは呼び出しメールだった訳だ。

 しばらくするとパタパタとした足音が聞こえ……。


「お待たせしました、ユーミル先輩! ハインド先輩!」

「来たか、リコリス! という訳で、ハインド!」


 来たのは予想通りというか、リコリスちゃんがいなかったら誰を呼んだのかという気もするが。

 ユーミルにしてはメールできちんと説明を行ったのか、リコリスちゃんは入ってすぐに木剣と木の盾を手に取った。

 何をするのかの把握は済んでいるらしい。


「……ごめんね、リコリスちゃん。わざわざ来てもらって」

「いえ! 私、ハインド先輩への助言が何も思い浮かばなくて困っていたので、ええと……渡りに船? です! お手伝いさせていただけるなら!」


 渡りに船で合っているのに、リコリスちゃんは自信なさげである。

 それにしても、俺への助言をちゃんと考えていてくれたのか……相変わらず素直ないい子だなぁ。


「そっか。それじゃあ、二対一でやってみようか。ユーミル、すぐに行けるか?」

「うむ! 手加減なしでやらせてもらう!」

「はい! 私も全力でお相手させていただきます!」

「……うん、最初は緩めのペースでね?」

「行くぞぉ!」

「話を聞いてくれ……」


 その後剣と盾、ユーミルの体術でボコボコにされたのは言うまでもない。

 痛覚設定はいつも通りなので、スポーツチャンバラの剣が当たった程度ではあるのだが。




 そんな訓練の成果なのか分からないが、今のところ戦いは順調だ。

 二体の『試練を与えし者』を前に、回避優先で動き回る。

 ヘイト値を稼ぐために、挑発の代わりに詠唱の短い『ヒーリング』などを間に挟んで立ち回っていく。

 回復魔法はヘイト値が高いので、こうしておけば大体の攻撃はこちらに来ると見て間違いない。


「おお、敵の動きが……そこそこ見える!」

「そ、そこそこなんだ……」

「そこそこです。訓練前と比べて若干マシな程度です。戦いながら――よっと! 話す余裕も、何とか。こいつらは初見の相手じゃないですし」

「そうだね。かなり前になるけど、私と初めてパーティを組んでくれた時よりもずっと――」

「あの、セレーネさん? あの時の無様な姿はあまり思い出して欲しくないのですが? 今だって、至近弾が掠める度に身が縮むような――あだだだっ!?」

「ハインドさんっ!」


 光の羽を飛ばす攻撃を躱し切れず、俺は砂地の上に転倒した。

 激しいエフェクトで目の前がチカチカする……が、これは魔法攻撃扱い。

 神官は魔法抵抗が高いので、ダメージは低めだ。

 もう一体の光の剣による攻撃は、即座に起き上がってしっかりと回避。


「焦った……躱し切れない攻撃ってのも中にはあるよな。奥が深いな、接近戦――って、リィズ。その中級ポーションは勿体な――」

「少しの間だけ動かないでください、ハインドさん! フル回復させておかないと……」


 リィズが『中級ポーション』を始め、WTの被らない回復アイテムを次々と取り出しては使用していく。

 あああ、消費が……。

 気を利かせてくれたセレーネさんが『ブラストアロー』で二体まとめて敵を大きくノックバックさせているので、敵とは距離が開いている。

 更にノクスが自己判断により『ウィンドカッター』で追撃、敵のHPがかなり削れてきた。


「過保護ですねぇ、妹さん……先輩、妹さんが攻撃をサボると戦闘が長引くんで。なるべく被弾しないようにしてくだせー」

「ああ、ポーションも盛大に減りそうだしそうするよ……」


 そうなると、次はトビの教えを実践する必要があるな。

 ポーション類を多量に浴びせられた体を動かして、俺は再び『試練を与えし者』の前に立った。

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