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街中・フィールドの近況

 そしてすぐにフィールドへ……とはならなかった。

 思った以上に長く模擬戦をやっていたということで、一度ログアウトしてから仕切り直しということに。

 今は渡り鳥のギルドホーム、その玄関付近でシエスタちゃんを待っている状態である。


「そうですか……戦いを進める上で何か決定打が欲しいと」


 帽子を被って魔導書をホルダーに装着したリィズが顔を上げる。

 時々思うのだが、この身長差で目を合わせようとすると位置によっては首が疲れるのではないだろうか?

 俺はなるべく不自然に見えないよう、杖を支えにしてリラックスするように少し体を前に傾けた。


「ああ。それで、しばらくは宝珠集めに重点を置こうって話に」

「スキル構成が変われば、ノクスたちの動かし方も変わってきますものね。分かりました、私もお手伝いします」

「じゃあ、残り一枠はノクスとマーネを交代で入れればいいね。ところでハインド君、美獣コンテストのほうはまだ何もしなくていいの?」

「そちらは二、三日前に準備を始めれば間に合うかと。なので今はバトル優先ですね」

「――あれ、いつの間にか妹さんが」


 シエスタちゃんが戻ってくるなり、リィズに目を止める。

 リィズはついさっき、予定よりも早く勉強が片付いたとのことで俺と一緒にログインしてきたところだ。

 それを話すと、シエスタちゃんは眠そうな顔のまま得心がいったように頷いた。


「はあ、なるほど。そんなに私が先輩に余計なことをしていないか心配だったんです?」


 からかうようなシエスタちゃんの言葉に、リィズはしれっとした顔でこう切り返す。


「もちろん警戒はしています。私がいない間のあなたの動向に関しては、セッちゃんに監視をお願いしておきましたから」

「そうなんですか?」

「ま、まあ一応頼まれてはいたね。ユーミルさんにもお願いされていたし。でも、何もなかったよ? リィズちゃん」

「あっては困るんですけどね……ありがとうございました、セッちゃん」


 いつの間にそんな話をしていたのだろう?

 個人的には、シエスタちゃんの言葉の大半は冗談半分だと思うのだが。

 その証拠に――


「むむっ、これはご期待に沿えませんで。では、今からでも。先輩、腕でも組みま――」

「やるなと言っているんです! いい加減にしなさい!」


 俺の手を取ろうとしてリィズに引き剥がされるシエスタちゃんの顔は、とても楽し気である。

 どこまでが本気なのか、読むのが難しい子だよなぁ……。




 王都の街中からしてそうなのだが、やはり他のプレイヤーが連れた神獣の姿がよく目に付く。

 これは純粋に未成体に成長して全体的にサイズが大きくなったこともあるが……。

 やはり、イベント中であるということが一番影響しているのだろう。


「うーん、バトル向けばかりの礼拝所と違ってバリエーション豊かだな……こうして道で眺めているだけでも、普通に楽しめそうだ」

「それいいですね、先輩。予定を変更して、ベンチに座ってボーっと眺めてみます? 私はそれでも構いませんぜー?」

「いやいや。自分で言い出しておいてなんだけど、それはちょっと。もう馬も連れてきているし」


 ベンチの傍に馬を留まらせておくと、大層通行の邪魔だ。

 農業区に戻るより楽な、街の厩舎に預けるという手もあるが――って、本気で検討してどうするんだ。

 どうも調子が狂うな、シエスタちゃんと話していると。


「ハインドさんは楽しめそう、と言っただけですしね。シエスタさんは勝ちたくないのですか? 神獣バトル」

「あー……どうせ出るなら、そうですねー。勝ちたい、かな?」


 シエスタちゃんの発言に、俺とセレーネさんは顔を見合わせて微笑み合った。

 理由は最も付き合いの長いサイネリアちゃんが過去に言った言葉を思い出していたから。

 曰く「シーがたとえ消極的にでも自分の意志を示した時は、見た目以上に乗り気です」だそうだ。


「おや? 何ですか、二人して。私、何かおかしなことを言いました?」

「ううん、何も。ね、ハインド君?」

「はい、何もおかしくないです。それに神獣観察は、掲示板の自慢スレで済ませるって手もあるしね」

「あー、あの神獣のスクショをペタペタ貼ってるスレですねー。リコが好きだって言ってたんで、今度一緒に見てみます」

「そうしてください。フィールドにも他のプレイヤーとその神獣はいますしね」


 リィズがそう纏め、向かった先は『大砂漠デゼール』。

 そこまで行くと、やはり戦闘向きの神獣――神殿内の礼拝所でよく見る神獣が多くなってくる。

 馬を降りた俺たちは、いつも通りそれぞれの武器を構える。


「そういえば、今夜は前衛が誰もいなくないですか? こんなんで戦えるんですか?」

「ノクスにヘイト稼ぎしてもらうのが無難だけど……でも挑発系スキルがないしな。そしたら、ええと……」


 シエスタちゃんの質問に、俺はこの場のメンバーの顔を見回した。

 魔導士・闇型ダークタイプ、弓術士・単発型シングルタイプ、神官・均等型バランスタイプ、そして神官・支援型サポートタイプ……。


「俺か、この中で一番防御がマシなのは……シエスタちゃん、俺が回復できない時はよろしくね」

「うぃーっす。でも先輩、大丈夫ですか?」

「前衛は下手くそだけど、できるだけやってみる。ほら、前衛連中から接近戦のコツも聞いたばかりだしさ。ノクスへの指示出しの練習にならないこともない」

「そうでしたね。ハインドさん、決して無理はなさらないでください」

「ああ、分かってる」


 リィズが俺の返事に対し、ずいっと距離を詰める。

 な、何でそんなに心配そうな視線を向けてくるんだ?


「……本当ですか? 嫌ですからね、戦闘不能になるハインドさんを見るのは。絶対に、絶対に無理して前に出たりしないでくださいね? 危ない時は私がダークネスボールで敵を止めますから、必ず言ってくださいね? あと――」

「わ、分かった! 分かったから!」

「いやー、何だろう。いかにも妹さん、って感じの発言」

「そ、そうだねえ……リィズちゃんは態度がはっきりしているよね……」


 ともかく、こうして正規の前衛が不在のフィールド戦闘が始まった。

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