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神獣バトル・種族の壁

 ノクスが上から対戦神獣の頭を抑え付ける。

 竜の頭が僅かに下に動き、炎がマーネの散らした羽を燃やして逸れていく。


「うわ、危な。焼き鳥は勘弁だぜ! ――って避けながらマーネが言っている気がします」

「嘘だ!? マーネがそんなブラックジョークじみたものを言うはずないでしょ!? 口調もおかしい!」

「それより先輩、また長期戦の予感。もうドラゴンの相手は嫌ですよー」


 若干調子の狂う会話を続けながらも、俺とシエスタちゃんはモニターから注意を逸らさない。

 ノクスが返す刀で一撃を加えるが、表示されたダメージは何とも寂しいものである。


「セレーネさん、鱗の脆い部分とかって……」

「この二頭にはなさそう……かな? 役に立てなくてごめんね」

「いえいえ。ってことは、しっかり育っているタイプか……はー。これだからドラゴンは」

「これだからドラゴンはー。いや、本当に面倒……」


 言葉を揃える俺たちの他には、セレーネさんが後ろで観戦してくれている。

 そして彼女が口にした通り、相手は二頭ともドラゴンのドラゴンコンビ。

 種類は赤――炎属性と、茶――土属性の二種類のドラゴンだ。

 対するこちらは鳥コンビ。

 自然界で会ったなら、まず鳥側が逃げ出すであろう中々に狂った絵面である。

 ドラゴンは最近の掲示板……バトルスレで最強候補に何度も挙げられている種族で、誰が使っても強いというやっかみまで受けるようになってきた存在だ。

 純粋に高ステータスで強い。


「先輩、いつも通りに?」

「それしかないだろうね……頼むよ」

「あいあい。マーネ、幻惑の歌ー。位置取りに気をつけてね」


 いつも通りと言うのは、つまり耐久戦である。

 マーネが不思議な響きの声で鳴き、『幻惑の歌』が発動。

 すると、突進してくるもう一頭の先で回避するノクスの姿が――ブレた。

 これは残像を発生させて敵の命中率を下げる効果があるスキルだ。

 反撃に短詠唱の『ウィンドカッター』を数発、ノクスが風属性が弱点である土竜に叩き込む。

 うーん、これでもダメージが今一つ。


「先輩、種族の壁を感じます……」

「言わないでくれ……俺たちの育成が足りていないだけなんだ、きっと」


 鳥系の中では防御の高いフクロウは、ドラゴンの攻撃をそこそこ耐える。

 マーネの支援や回復を受けつつノクスが回避して、少しずつ削って、そして判定へという流れ。

 分かり難いというユーザーの声を受けて、少し前に日本語に統一された歌スキル『癒しの歌』『幻惑の歌』がマーネのスキルだ。

 一部に馴染みのない英単語が使われていたらしく、直感的な指示の足を引っ張るということで変更に至ったらしい。

 そんなマーネのスキル、どちらも効果は中々に素晴らしいのだが……シエスタちゃんが小さく唸る。


「スキル二個だと、選択の幅がないですよ。やっぱり攻撃アップ系のバフスキルが欲しいような――マーネ、反時計回りに旋回しよっか。ブレスが……あ、来た来た。細かい土砂もちゃんと避けてねー」

「そうだね……ノクスのほうも、決定打になるような中型・大型スキルが欲しいところだ――ノクス、二体の間に潜り込もう。少しでもFFを誘発させて、こちらの有利に」

「話ながらも回避と位置取りはしっかりさせる辺り、模擬戦の成果は出ているんだけどね……」


 セレーネさんが苦笑を浮かべつつそんなことを言う。

 組み合わせが決まってから数日、何度か模擬戦を重ねることで課題は更に浮き彫りになってきた。

 得意な相手、不得意な相手が明確になり……。


「結局は、高耐久・高火力の相手が辛いんですよね。俺の接近戦の指示がまだまだ甘いってのもあるんですけど」

「この戦いが終わったら、しばらくは宝珠集めに注力しようか?」

「それがいいでしょうねー。宝珠集めよりも、勝つために毎回タイムアップ近くまで粘るのは骨が折れます……」

「何度か集中力が切れて負けているしね……上手い人のドラゴンは、こっちの攻撃に合わせてカウンター決めてくるもんなぁ」


 この相手からはそういう圧力を感じないが、油断は禁物。

 何せドラゴン系の神獣は一撃で試合をひっくり返せる攻撃力を持っている。

 こちらはひたすら丁寧にヒットアンドアウェイを繰り返すのみ……我慢の戦いだ。

 そして時間は経過し、ノクスが二頭のドラゴンの間を最後まで飛び回り続けて試合終了。

 シエスタちゃんが分かり切っている結果を見ずに、その場で俯く。


「……なっがぁぁぁぁい! 長いですよ、先輩! 私は忙しいのは大嫌いですけど、退屈なのも好きじゃないです!」

「え、そうなの? 前に一日中寝て過ごす日が、週に三日くらい欲しいとかって――」

「まったりしているのと退屈なのは違いますよ!」

「ま、まあ、言われてみればそうか。確かにこういう相手でも、時間内に勝負を決めに行けるスキルが欲しいよなぁ」

「上手いドラゴン使いさん相手なら、結構ギリギリの回避が増えて緊張感があるんだけどね……」


 セレーネさんが零した言葉に、シエスタちゃんが同意するように二、三度頷く。

 言い方は悪いが、今の相手はドラゴンの能力に頼り切った単調な戦い方だった。

 しかもこちらの攻撃力の低さが原因で、最後までそれに付き合わなければならない……。

 こういった戦いが続くようだと、モチベーションの維持が難しいと感じてしまうのは俺も一緒だ。

 礼拝所に戻されたところで、俺はシエスタちゃんとセレーネさんの方に顔を向けた。


「……うん、そしたらしばらく二羽のレベルアップに集中するか。ユーミル風に言うなら、必殺技の習得! に、なるのかな?」

「ふふっ、ユーミルさんならそう言いそうだね。私も手伝うから、今から三人と二羽で行こうか?」

「そうしましょうそうしましょう。先輩、珍しく私がやる気の内に行きましょー」

「自分で言う? あー、じゃあデゼールか。早速出発しよう」


 そうして俺たちは、新スキルを求めて『大砂漠デゼール』へ。

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