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高原歩きと写真談義

「んー! いい空気!」


 小春ちゃんが高原の空気を胸一杯に吸って、伸びをした。

 新鮮な空気を吸って、普段よりも更に元気になっていくように見える。


「うあー……」

「ほら、愛衣ちゃんしっかり。もう少しだから」

「帰りの体力は大丈夫なの? まだバスを降りて歩き始めて……十五分程度だよね? わっち」

「ああ、そのはずだ」


 反面、こちらはどんどんしおれていく。

 秀平が言うように、疲れるほどの距離を歩いてはいないはずだが……思った以上に酷いな、これは。

 歩道も綺麗に整備されているし、子ども連れだって楽々と――


「あ、子連れに追い抜かれた……」

「小学生未満の体力、それが私……はぁ、ふぅ……うん、景色いいなー」

「愛衣に景色を楽しむ余裕が……!?」

「椿、そんなに驚かなくてもよくない? まあ、さすがにこのペースだしねぇ」


 見た目は既にへろへろだが、椿ちゃんによるとこれでもマシな方らしい。

 なら、このままのペースで良いか。

 ちょうど――


「このペースなら、ちょうど正午付近に頂上に着きますね」

「そっか。サンキュー理世」


 俺が腕時計を確認するよりも早く、理世がスマートフォンを見ながら到着時刻を予想してくれる。


「いえ。それにしても、最近はようやく涼しくなりましたよね」

「肌寒いほどじゃないし、歩きやすいよな。もう少ししたら、この辺りも紅葉が見頃になるんじゃないか?」

「うむ、確かに。川があるし、その上に橋もかかっていたりで紅葉もいい感じになりそうだな! 今は今で目に優しいが」


 未祐は愛衣ちゃんのペースに体力が有り余っているのか、辺りの景色を忙しなく眺めて回っている。

 あ、この木の板で造られた道はいいなぁ。

 音とか、踏んだ感触とか。湿原みたいだ。


「まだ葉が青々としているね。マリーちゃんの別荘を思い出すなぁ」

「俺、司っちからもらった写真を机に飾ってるよ。また行きたいなぁ」

「あ、マリーからの司で思い出した。デジカメ持って来たんで、後でみんなを撮っても良いかな? 帰ったらデータを送るし」

「おお、いいな!」

「是非撮ってください!」


 こういう時はいつも理世の小さいデジカメを借りていたのだが、最近になって自分のものが欲しいと思う機会が増えてきたので購入した。

 特にこの前の花火大会がなぁ……スマートフォン付属のカメラで撮ったのだが、やはり画質に差が出る。

 そんな訳で司の助言を受けながら、数日前に購入したばかりのデジカメを取り出す。


「集合写真は後で撮るから、みんなは自然にしていてくれ」

「そ、そうか。自然にだな!」

「わ、分かりました!」


 未祐と小春ちゃんが思いっ切りカメラを意識した視線をチラチラとこちらに送る。

 あー……これは失敗したな、俺。


「わっち。そんなこと言ったら、あの二人ならそりゃこうなるってば」

「だよな、悪かった。それじゃあ、とりあえず風景でも撮るか……みんなは後にする」


 意識が逸れたころに撮るとするか。

 許可は得たんだし――あ、そうそう。


「どうしても消して欲しいって写真があったら、言ってくれたら当然消すよ。例えば……そうだな。半目になっちゃったやつとか。ある程度は俺のほうで消すけ――」

「わ、亘君? できればそれは、亘君より先にチェックさせて欲しいというか……」

「兄さん、私もそうしたいです」

「わ、私も! 私もそうします!」

「ええと、私もお願いしていいですか? その、すみません」

「お、おお? 分かった。じゃあ、撮ったものは確認なしでフォルダに入るように設定するか……」


 そうすればフォルダの中を開くまで、どんな写真になったか分からないし。

 女子が男以上に写真写りを気にするのは知っていたが、まさかここまでとは。

 未祐と愛衣ちゃん以外の女性陣全員が写真をチェックしたいとのこと。


「未祐はいいのか?」

「む? どんな顔でも、私は私だからな。それに変な顔のものが混ざっていても、亘は人に見せたりはしないだろう?」

「まあ、そうだな。そんな気はないぞ」


 ついでに言うなら、今更取り繕っても仕方ないくらいに付き合いが長いしな。

 互いに色々な表情を見て過ごしてきた訳で。


「じゃあ、愛衣ちゃんは?」

「先輩……ありのままの私を受け止めてください……」

「あのさ、愛衣ちゃん。台詞そのものは、場面を選べばとてもロマンチックだと思うけど……そんなに息も絶え絶えに言われると、どう答えていいのか分からんよ」

「げほっ、げほっ! すー、はー……あ、深呼吸したら楽になってきた。標高が高くないから空気も薄くないし、いい感じ? これなら帰りも大丈夫そうです」

「そうかい。実はもう一つ、ここよりも長いコースの案があったんだけど――」

「フッ、先輩は私の体力のなさを甘く見ています。もしそちらを選んだ場合、帰りはダウンして先輩におんぶコースで……あれ、それも悪くない? むしろ私にとってそのほうが良いのでは?」

「意味ないけどね、それだと。愛衣ちゃんの体力増加のために歩いているのに……やっぱりこっちを選んで正解か」


 選ぶ時に少し楽過ぎるかな、とも思ったがそんなことは全くなかった。

 俺が歩きながら高原の景色を写真に収めていると、誰かが肩を叩いてくる。


「わっち、俺には訊かないの?」

「何をだよ」


 誰かと思えば秀平かよ。

 そしてこいつが何を言わんとしているのかさっぱり分からない。


「何って、写真チェックだよ! 俺にも訊いてよ!」

「アホか。むしろ率先して変顔で写りたがるやつに、わざわざそんなこと訊くかっての」

「……言われてみれば、写真写りなんてあんまり気にしたことない。わっちはどうなの? 自分の写真写りって気になる?」

「余程酷い顔じゃなければ気にしないな。特に気にする時ってーと……証明写真を撮る時に、目付きが悪くならないようにするくらいか?」

「あー、俺もおんなじかも。男はそんなもんだよね?」

「人によるんじゃないか? 気にするやつは気にするし、何故か必ず見切れるように写る奴とかいるしな」

「いるいる。あれ、何でだろうね?」

「さあ? 照れ隠しだったりとか、色々あるんじゃねえの?」


 写真を撮りつつとりとめのない会話を続けていると、徐々に目的地が見えてきた。

 時間も理世の予想通り、弁当を食べるのにちょうどいい塩梅になりそうだ。

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