出場者の決定
「結果発表ー」
「わー」
ヒナ鳥のギルドホーム、その談話室でシエスタちゃんがやる気のない声で宣言し、リコリスちゃんが盛り上げるように拍手をした。
マーネの担当プレイヤーはシエスタちゃんに決まり、今はノクスの担当を三人が発表してくれるところだ。
「三人で話し合った評価を一人ずつ発表させていただいて、それから誰を選んだのかに移りますね」
「私たちも先輩方のやり方に倣おうかと。神官としての経験が活きていたから私を、という理由付けも分かりやすかったですし」
「私はともかく、サイちゃんとシーちゃんはどうかな? あんまり差がないんじゃないかな? と思っていましたしねー。あれなら納得できます! ということで、先輩たちが戦った順に行きますよ!」
「よし、どんどこい! できればハインド以外でな!」
「……」
こんなことを言っているが、ユーミルは最終的に公平な観点からシエスタちゃんに票を入れた。
何かを言いたそうにしているリィズも同じで――リコリスちゃんが困ったような顔で笑ってから、話を続ける。
何やら手に持った『洋紙』に色々と書き込んであるようだ。
「ええと、まずはユーミル先輩ですね! 良かった点は主導権の取り方。腰が引けた相手へのラッシュと詰め……です!」
「奇策ごと倒しちゃったり、相手が何かを準備する前に倒しちゃったりもありましたねぇ」
「予想以上の勢いで来られると、混乱してしまう場合があるんですよね。その隙を見逃さないのはさすがです」
「ふふん!」
「それって、まんま普段のユーミル殿の評価なような……」
三人の称賛にふんぞり返るユーミルに、トビが同意を求めるようにこちらを見る。
まあ、自分の戦いの経験をフィードバックしていたのはみんなも同じだしな。
ある程度はそうなるのが自然だろう? ユーミルは確かにそのまんまだったが。
そして今度はサイネリアちゃんが、良くなかった点を挙げていく。
「反面、どっしり構えた相手……ノクスよりも真っ向からの打ち合いに強い、ヘビー級の相手への対応が今一つでした。初戦はそのせいで引き分けになったのではないかと」
「うっ!」
「特にドラゴン系のプレイヤーは能力に自信があるのか、ほとんど慌てないもんな」
「ああ、ステータス高いよね……ノクスが満点の立ち回りをして、やっと時間内に倒し切れるくらいだもの」
「あれは自信ではなく過信というものです。却って罠に嵌めやすい手合いですよ?」
そう言ったリィズこそが、セレーネさんの言う満点の立ち回りを行ったプレイヤーだったりする。
そこでシエスタちゃんがリコリスちゃんの手から紙を受け取った。
「はいはい、では次は妹さんの良かった点を私から。良くなかった点はリコが」
「ずるい配役ですね。別に構いませんが」
「瞬時にそんな返しをする妹さん、こわーい。で、良かった点は――」
良かった点は言うまでもなく、相手を策に嵌めて完封できるほどの頭のキレ。
最初の虎以外は、事前に集めた神獣の知識で相手を手玉に取っていた。
既知の相手に対しては、はっきり言って無敵かもしれない。
話を聞いていると、ユーミルに袖を引かれた。
「なあ、ハインド。私には今の会話の意味がよく分からなかったのだが?」
「ん? ああ、もしシエスタちゃんが悪かった点を言うと遠慮なく言い返せちゃうだろう? リィズは」
「言われてみれば、あの二人は妙に互いを理解している節があるからな。それで角が立たないよう、良い点をシエスタが言ったのか……では、良くなかった点をリコリスに言わせようとしているのは何故だ?」
「……それは見ていれば分かると思うぞ」
「む?」
ユーミルと一緒に視線を戻す。
するとリコリスちゃんが申し訳なさそうな顔で、リィズの緊急時の対応力の低さを指摘している。
リィズもどんな顔でそれを聞いたらいいのか分からない、といった様子で「謝らなくてもいいです。事実ですから」と気まずそうだ。
「……なるほど。純真無垢なリコリスをあの腹黒にぶつければ、こうなるだろうと読んでいたのか。巧いな」
「誰が腹黒ですか突進馬鹿」
「ぬおっ!? 聞いていたのか貴様! 話はもう終わったのか?」
「ええ。本当は言いたいことが山ほどありますが……あなたの無礼な発言よりも、今はシエスタさんの方が気がかりです」
「確かにな。シエスタ……侮れんやつよ」
俺を挟んで左右からひそひそと話す二人がシエスタちゃんに視線を送ると、緩い笑みを返してくる。
あれは何を言われていたのかおおよそ分かっている顔のような……。
「……。次はセレーネさんの番か」
そしてこのタイミングで俺が何を言っても藪蛇になりそうなので、流してサイネリアちゃんの方を見る。
セレーネさんは距離の取り方、相手の弱点を見抜く力などが良い点。
良くなかった点は本人が言っていた通り接近戦の積極性が足りないところ。
「うーん……仰る通りだよね。三人がしっかり見ていてくれて嬉しいよ」
「セレーネ先輩、心が広い! 結構厳しいことも言ったのに!」
「そ、そんなことないよ。私のことはいいから、次に行こうよ。ね?」
「あ、ということは拙者でござるか。拙者はガラスのハートなので、是非ともお手柔らかにお願いするでござるよ」
「では、ご要望通りトビ先輩だけ特に厳しく行きますかー」
「!?」
「シーちゃん、意地悪……」
「冗談だよ、冗談。サイ、よろしくー」
サイネリアちゃんが呆れた顔でシエスタちゃんから紙を受け取る。
トビの良かった点は間合いの取り方と回避、良くなかった点はすぐに調子に乗って自分からペースを崩すところ。
「え? 拙者、調子に乗ってた?」
「自覚ないのかよ。どこからどう見ても、完全無欠に調子に乗っていたぞ。それも何度も」
「うむ。そんなお調子者は放っておくとして……」
「えっ?」
「次のハインドで最後だな。終わらせて早く結果を発表するのだ! 私はそろそろ結果を知りたい!」
「あ、ではハインド先輩の評価を……」
俺の良かった点はノクスの能力を十分に引き出せていたことと、親愛度の高さから来るノクスの反応の良さ。
良くなかった点は接近戦に持ち込んだ後の指示がやや曖昧だったこと。
「確かに接近戦については勉強不足だよな……うん、了解」
「で、最終的に試合内容の良かった妹さんか先輩かで迷ったんですけど……」
シエスタちゃんがサラッと二人にまで候補を絞って話を進めた。
それに対する反応は様々だったが、ひとまず全員が話を最後まで聞こうという姿勢を保っている。
「もし全神獣の情報が出揃っていれば、妹さんを推すところなんですけどねー。今の状況でそれは望めませんので、どんな神獣・スキルが来るかどうしても読めないところがあります。ですので、今回は対応力も高い先輩ということで。もし二回目のバトルがあれば情報ももっと増えるでしょうし、その時は妹さんにということも――」
「何をやっているのだ、貴様! 結局ハインドとシエスタが組むことになったではないか!」
「最終候補にも残らなかったあなたの言えたことですか!」
「考えられ……聞いてませんねー、これは。ということで先輩、マーネ共々よろしくお願いします。いえーい」
「いいけど……動じないね、シエスタちゃんは」
全ての組み合わせを試してみたが、結局は親代わりの二人ということに決まった。
やった意味があるのかと問われれば返答に困るが……。
俺とトビがそんなことを話していると、セレーネさんが取りなすように微笑んだ。
「でも、担当する二人の弱点の洗い出しにはなったよね? だから無駄だったってことはないんじゃないかな?」
「そうですね。だから今後はその弱点を……得意だった人に教わって改善しながら、神獣を育成ってことになりますか」
「育成も大事ということなら、今後も宝珠集めを継続でござるな。その合間に模擬戦をするのが良いでござろう。模擬戦よりも宝珠の方が経験値が多いみたいでござるし」
大体の方針もこれで決まった。
今後はMMORPGらしく、コツコツと必要なものを積み上げていく時間になりそうだ。