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空中戦と担当プレイヤーの選定

「うおぉぉぉ! 燃える相手ではないか、ハインド! 制空権を賭けた戦い! もちろん正面から戦うのだろう!?」

「正面から……? いやいや、やらんよ」

「何故だ!?」

「まず速度で負けてるのが何よりもデカい。多分だけど、物理攻撃力も。ノクスが勝っていそうなのは、物理防御力・魔力と――」


 全て掲示板で「隼は物理寄りのアタッカー」という書き込みを見た記憶からの推測だ。

 そしてそんなことをユーミルと話している間にも、通常よりも派手な青色をした隼が迫る。


「ノクス、防御しつつ降下・後退! 無理に躱そうとしなくていい!」

「ノクスが空で連撃されている!? ハインドの言う、速度差のせいか!」

「しかし、高度を下げれば……よし、相手の速度が落ちてきた。ノクス、そのまま防御を続けてくれ! しばらくの辛抱だ!」


 地面への激突を恐れてか、攻撃前後の隼の速度がグッと下がる。

 最高速度でぶつかれるのは、相手も高空にいる時だけだろう。

 低い位置でホバリングするノクス相手では、最高速度を維持したままの攻撃は不可能だ。

 それでも十分な速度で降下・攻撃、そしてこちらの攻撃が届かない位置への上昇を繰り返してくる訳だが……。


「……ここだ、ノクス! ウィンドカッター!」


 ノクスの体が輝き、短い詠唱後に翼から風の刃が放たれる。

 今は技名を叫ぶのが恥ずかしいだのと言っている余裕はない。

 パーティ戦闘時の指示出しと同じで、やっている内に慣れるだろう――隼には当たらなかったが、風圧で体勢が崩れた。


「突破して林の中へ! ついでに羽の数本もむしり取ってやれ!」


 ノクスが速度と高度を上げ、隼と交錯する。

 後にその場に残ったのは――ノクスの茶色の羽ではなく、青い派手な羽。


「よし! 魔法を絡めれば行けそうだ!」

『ホー!』

「あれ!? ノクスが初めて戦闘中に鳴きましたよ!?」

「息ぴったりでござるなぁ……」


 攻撃を受けたことでMPはこちらが多いが、HPはあちらが大幅にリードしている。

 途中で翼を剣のようにするスキルも使っていたしな……相手は手数重視でどんどんスキルを使用してくるタイプと見た。

 となれば、ここから大技が出てくる可能性は低いか。

 速度を活かすためか、隼は平地エリアから追ってこない。

 森林エリアに隠れたノクスに呼吸を整えさせ……。

 やや詠唱の長い『アイスニードル』を捨てて、こちらも『ウィンドカッター』連射で勝負!

 木立から一気に飛び出させ、『ウィンドカッター』を撃たせる。


「ノクス、ウィンドカッター! ……外したか。次、右! WT空けに三秒ディレイをかけて発動!」

「お、おお……兄妹揃って未来の指示を……」

「当然です。私にできることをハインドさんができないはずがないでしょう?」

「それは過大評価ってもんだよ。俺にはリィズのように四手以上先とかまで予測を立てるのは無理だ。それでも二手、三手先くらいまではどうにか――よくやった、ノクス! そのまま接近してくれ!」


 幼体だった頃のノクスでは理解できなかったであろう、高度な指示。

 神獣は未成体になると大幅に言語理解力が上昇する。

 指示を忠実に実行できるかどうかは個体差、信頼関係の有無など様々な要因があるそうだが……。

 牽制後の本命をノクスは見事に命中させた。

 ただし、その間にまた被弾したためHPは風前の灯火である。

 ここで『ウィンドカッター』を受けてよろけた隼を捉まえなければ。


「ノクス、相手の進行方向にひたすら回り込め! 速度は下でも、機動性はお前の方が上だ!」


 空中で二羽の猛禽が主導権を奪い合うようにぐるぐると回る。

 指揮エリア内の全員が固唾を飲んで、目まぐるしい攻防を見守り……そしてついに。


「捉えた! インファイトだ、ノクス! ウィンドカッターも混ぜて押し切れ!」

「あっ、隼の速度を完全に――」


 サイネリアちゃんが息を呑む。

 ノクスと隼が肉薄し、互いに足の爪を立てながら激しく競り合う。

 二羽の飛行速度は隼が初期に見せたものの半分以下に収まっている。


「抑え込みましたね。先輩さすが。でも、ノクスのHPはもつんですか?」

「……大丈夫みたいだよ?」


 シエスタちゃんの言葉を受けたセレーネさんが、モニター内の隼のHPを指差す。

 ノクスと比べてその減少割合は目に見えて多く……。


「紙っ! 紙防御でござるなぁ、拙者と同じ!」

「お前っていうか、軽戦士の攻撃型アタックタイプに近いよな。魔法にも弱いから、初級スキルのウィンドカッターのダメージが馬鹿にならん」

「む、もう指示を出さなくていいのか? ハインド」

「ああ。心配しなくても、後はノクスに任せておけば大丈――」


 そう言いながらもモニターを見つめていた俺は、途中で言葉を切った。

 いつの間にか砂漠エリアにまで移動していた二羽の戦いだが、最終的に隼が砂塵を巻き上げて墜落するという結末を迎えた。

 勝者であるノクスは、砂漠の空を悠然と旋回している。

 俺はその光景をしばらく見つめると、そこでようやく体から力を抜くのだった。




 これで模擬戦のノクス担当も五人で一巡した訳だが、当然ながら一度試した程度で結論を出すのは早計である。

 対戦相手によってもブレが出るということで、二巡、三巡目まで模擬戦を行い……。


「終了ー! 三巡もした割には早く終わったな!」

「一瞬で勝負が着いた戦いもあるからな。で、話しておいた通り誰がノクスを担当するかは……」

「私たちが決めるんですね!」


 リコリスちゃんが元気に手を上げて返事をしてくれる。

 折角後ろで見ていてもらったので、ノクスの担当は三人に客観的に判断したもらうことに。

 例の各人の指示に対するノクスの反応速度も、リィズが綺麗に一覧にして纏めてくれた。

 三人にメールでデータを送ったので、そちらも参考にしながら決めてくれるとありがたい。

 引き換えに俺たちは、マーネ担当を誰にするか五人で相談して決める手筈である。

 その後フィールドに出て、三人とマーネとの相性をチェックしてから解散。

 模擬戦実装初日の活動は、そこで終了ということになった。

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