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模擬戦 ノクス&トビ・ハインド

 サクサク行こう、とのユーミルの声を受けたトビが模擬戦をセッティングしていく。

 残るは二人、俺は最後ということになっている。

 魔法陣に乗り、プレイヤーが行き交う賑やかな礼拝所を後に。

 ゴーレム、虎、ドラゴンと来て四戦目は……。


「ちっちゃ!? 拙者だけ相手が小型!」

蜘蛛くもか……? 油断するなよ、トビ」

「大丈夫大丈夫! 普通に捕食する側とされる側でござるよ? 蜘蛛の巣にさえ気を付ければ!」

「お前、それこそフラグってやつなんじゃ……」


 俺の心配をよそに、そのまま戦いが始まってしまう。

 相手は蜘蛛としては大型で、全長十五センチほどといったところ。

 トビは開始と同時にノクスに指示を下した。


「先手必勝! 相性を押し付けに行くでござるよ!」


 スタート地点である平地を、ノクスが羽ばたきながら加速していく。

 相手の蜘蛛が森林ゾーンに一直線に逃げるが、その背中にまずは一撃。


「よっし、相手はやはり搦め手系のようでござるな! 蜘蛛だけに! 蜘蛛の巣だけに!」

「「「……」」」

「……誰かツッコミ入れて?」


 誰が好んで火傷確定のツッコミを入れるものか。

 それよりも、ノクスに指示を出さなくていいのか?


「トビ、相手が逃げるぞ。カウンターが怖いが、上手くやればもう一撃入れられるんじゃないか?」

「おっと、そうでござるな。毒攻撃がありそうでござるし、また背中から! ノクス!」


 ノクスがトビの命を受け、旋回して攻撃の隙を窺う。

 しかし相手も警戒を強め、ノクスに向きを合わせながら多脚を使い猛然とバック走で逃げていく。


「速っ!」

「蜘蛛ってあんなに速く後ろに走れるんですか……?」

「さあ? 神獣だから……じゃないかな?」


 虫が平気な女子ばかりではないので、その姿にメンバーの何人かが若干引き気味である。

 結局一撃入れただけで、森林ゾーンに逃がしてしまったな。


「何はともあれ、出だしは好調でござるよ! 森林ゾーンはノクスにとっても得意エリア! ノクス、張り切って追撃追撃ぃ!」


 ノリノリで指示を下すトビの姿に、俺の中で益々不安が募る。

 相手の動きに迷いがない辺り、何か確立された戦法がありそうなんだよな……。


「……どう思う? みんな」

「蜘蛛の巣に引っかかると思うぞ!」

「蜘蛛の巣に引っかかりそうですね」

「の、ノクスが躱してくれるんじゃないかなぁ……?」

「これは巣に引っかかる流れですね!」

「えーと……まぁ……そうなりそう、ですよね」

「あっはっはっは!」

「聞こえてるよ!? 聞こえてるからね!? 引っかからないよ、巣になんて! ほら、ノクスもちゃんと巣を避けて飛んでいるでござるし!」


 トビの声に指揮エリア内のモニターを見ると、森林ゾーンには既に多数の蜘蛛の巣が設置されていた。

 動きが早いな……蜘蛛の巣は効果の発揮が難しい設置型だけに、消費MPが低いスキルのようだ。

 被弾分を含めても、まだ大技を撃てるほど溜まっていないはず。

 予想通りの蜘蛛のスキルだが、ノクスはすいすいと木々の間に張られたトラップを掻い潜っていく。

 そしてついに会敵すると、トビはノクスを猛然と急降下させた。


「もらったぁ! で、ござるよ! ノクス、急降下して攻撃!」


 トビが前のめりにモニターを覗き込み、ノクスが蜘蛛を上から押さえ付けるかに思われた瞬間。

 ノクスが空中で大減速し、何かに反発するように後退。

 翼を広げた状態で、宙に浮いたままもがいている。


「――はぁ!? い、一体何が!? どうして!? これが敗北フラグの力でござるか!?」

「落ち着け。セレーネさん、何か見えますか?」

「うーん……透明な糸が光に反射しているようにも……」

「え? ……ぬお、拙者にも見えた! まさか透明な糸で罠を張るとは……卑怯でござるよ!」

「卑怯でも何でもないと思うんだが……そもそも虫対鳥の時点でな。むしろ相手の策が見事というか」

「――ああっ! ノクスが!」


 悲鳴混じりのリコリスちゃんの声が響いた直後、ノクスが蜘蛛からの噛みつき攻撃を受ける。

 ダメージは程々だったが、状態異常『毒』にかかってしまった。

 ユーミルが弱っていくノクスを見て表情を歪める。


「おい、どうするのだ? 完全に相手の術中だが……」

「くっ……だが、どうにか自力で巣からは脱出してくれたでござるよ! 焦らず森林エリアの外へ!」

「ここで距離を取るだと!? 正気か!?」

「……毒が回り切るまでに、相手が外に出てくると踏んだんだな?」


 トビが俺の言葉に頷き、ノクスを砂漠エリアへと移動させる。

 そしてその場で待機させると、モニターを睨みながら腕を組んだ。


「どういうことだ? ハインド」

「神獣バトルは隠れ続けたり攻撃をしないまま逃げ回っていると、ペナルティを受けるってのは教えたよな?」

「うむ、聞いた。それがこの状況とどう関係してくるのだ?」

「あの蜘蛛には見たところ、遠距離攻撃がない。罠設置は攻撃行動に含まれないから――」

「ノクス、森林ゾーンに入って蜘蛛にウィンドカッター! その後離脱でござるよ!」


 ここが勝負の際だ。

 ノクスが蜘蛛の巣を掻い潜り、射程限界ギリギリでウィンドカッターを蜘蛛の脚へと掠らせ――よし!

 当てる必要はないが、これで攻撃したと間違いなく判定されるだろう。

 透明な巣にも引っかからずに済み、そのまま再度森林エリアの外へ。


「ああしてヒットアンドアウェイを繰り返していれば、相手は出て来ざるを得ない。ペナルティはHPが毒とは比較にならない速さで削れるそうだから」

「なるほど! ……ちなみにだが、もう一度蜘蛛の巣に捕まった場合は?」

「負け確定だろうな。待ちを有利にし過ぎないためのシステムっぽいが、攻撃側にも当然ながらリスクはある。自分だけペナルティを避けるには、ああやって相手の得意エリアに侵入しなけりゃならないんだし。相手の認識範囲外、エリア外から攻撃できるようなスキルは今のところ見ていないから」


 在っても大型の神獣の、これまた大型スキルだろうから状況は限定される。

 そんなのが相手なら、根本から戦略が変わってくるので除外ということで。


「ペナルティ覚悟で待ちを選択するのもあり、なのでしょうか?」

「互いに待ちを選択すると、そのままHPが減って引き分けって間抜けな事態にはなるけど。相手が自分の得意エリアに姿を見せる好機を、確実に物にできる自信があるなら」


 サイネリアちゃんの質問に答えながら、リィズとセレーネさんの方を見ると……。

 黙って頷いてくれているので、この認識で問題ないだろう。

 そしてそういう意味では、今ノクスが戦っている蜘蛛は詰めが甘かったということになる。


「へー、そういう駆け引きもあるんですねー。……あれ? でもそうなると、仮にマーネが一対一をした場合は……?」

「リコリスちゃんがさっき言ってた通り逃げ回るしか……正確には、ペナルティを受けないようにちょっと攻撃しては逃げ、攻撃しては逃げの繰り返しで判定勝ち狙いになるかな。決定打がないから、かなり厳しい戦いになるはず」

「そもそも一対一に向いていない神獣もいますからねぇ。そのための二対二、三対三ですし」


 シエスタちゃんがそう締めくくったところで、ペナルティでHPが大幅に減り始めた敵の蜘蛛が砂漠エリアに出張ってくる。

 こちらも毒でHPを減らしながらも、待ち構えていたノクスが魔法からの連続攻撃を叩き込み……。


「しょ、勝ー利! まさか猛禽類が虫に負けるわけないでござろう! ハハハハハ!」

「辛勝にも程があるがな!」

「引き分けだったユーミル殿に言われたくないのでござるが!?」

「しかし、ノクスの減っていくHPを見るお前の顔――」

「それは言いっこなしでござるよ、ハインド殿! 自覚があるので! あー、嫌な汗かいた……超焦った……」


 礼拝所に戻ったトビが長い吐息を出す。

 どうにか面目を保てた、といった表情だ。


「でも何だかんだで、ノクスはここまで一度も負けていませんねぇ。優秀優秀。次は先輩ですし……」

「何だいシエスタちゃん。その、もちろん勝ちますよね? 的な目は……」


 シエスタちゃんが無言で親指を立てる。

 その通りですよってことかい……全員負けなかっただけに、これはプレッシャーを感じるな。

 トビの肩から移動してきたノクスが、俺の肩で翼を広げる。

 そして羽をバサバサと――


「なっ、ノクス……ノクス! こら! 何で荒ぶってんだ!? 何かしたか、俺!?」

「おお、これは喜びの舞いだな! やはりハインドの肩が一番なのではないか?」


 俺がみんなの顔を見回すと、一様にユーミルの言葉に同意するような表情をしていた。

 ……そうなのか? 刷り込みの都合もあるとはいえ、懐いてくれて嬉しいとは思うが。

 あ、落ち着いたかと思ったら目を細めている。

 随分とリラックスしているが、このまま戦って大丈夫なのか? これ。


「……だとしても、俺の指揮が上手く嵌まるかどうかは別問題だからな。行ってくる」


 そして俺がノクスと対峙した次の神獣の種族は……。

 凄まじい速度で何かが飛来する。

 目を凝らして観察すると――どうやら相手は、フクロウを遥かに上回る速度で空を舞うはやぶさのようだった。

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