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礼拝所と神獣バトル用ポータル

「そう……不思議な力を持つ動物たちを戦わせるのね。戦いの神ベルルムの好みそうな話ね」


 礼拝所の一角で、ティオ殿下が周囲を見回しながらそう呟いた。

 普段は静謐な空気に満ちているという礼拝所からは、その片鱗すら感じ取ることもできない。

 何故なら、今は神獣ペット飼い主(プレイヤー)の集会所と化しているからだ。

 色んな神獣がいるもんだな……そして戦いの神と来たか。


「神々の名前というのは、結構判明しているのですか?」

「人間へ頻繁に干渉してくる一部の神の名は判明している、といった程度ね。あなたたちは会ったことないの?」

「天から声が降ってきたのが一度きりだぞ! 確か……」

「神獣を私たちに渡す時ですね」


 ユーミルとリィズの言葉を聞くや、ティオ殿下が驚きに目を見開く。

 ……何に対して驚いているのか分からない俺たちは、殿下の言葉を黙って待った。


「それは来訪者全員に?」

「全員……ですね」


 正確には「ログインしていた者なら全員」という答えだが、話がややこしくなるのでそう答えておく。

 ティオ殿下は唖然としていたが、やがて首を左右に振ると気を取り直したように表情を引き締めた。


「私たちの場合は、今回のように修行を積んだ高位の神官しか声を聞けないとされているのだけど……羨ましいわね、来訪者たちが。私たちとは神の声を聞くための素質が違うのかしら?」

「ティオは聞いたことないのか? 神々の声」

「ないわよ……悪い!?」

「わ、悪いとは言っていないぞ!?」


 ユーミルに向かって歯を剥きだす殿下に、まあまあとセレーネさんがなだめるように割って入る。


「それは混乱を招かないため、じゃないかな?」

「どういうことよ? セレーネ」

「私たちこの世界にとっての異端者と違って、現地の人たちにはしっかりとした社会秩序があるからね。だから素養とか素質は関係ないんじゃないかな?」

「つまり、神々のほうで声が聞こえる人間をコントロールしている?」

「少なくとも私はそう思っているよ」


 殿下が納得したように怒気を納めると、ユーミルがホッとしたように笑う。

 これだけ感情の波が激しいのだから、やはりあの外面をキープするのは難しいよなぁ。

 そして殿下はノクスとマーネを改めてまじまじと観察する。


「それで、これがあなたたちが与えられた神なる獣……神獣というやつね? フクロウとカナリアか……」

「可愛いだろう?」

「………………うん、可愛い」


 ユーミルの言葉に、引き締まった表情で黙って見ていた殿下の表情が崩れる。

 礼拝所には他の現地人もいるのだが、ティオ殿下は特殊な立場なために目立つ。

 女官さんたちがしゃがみ込む殿下の壁になるようにガードしているので、あまり見えないとは思うが。


「さ、触ってみてもいい?」

「あ、どうぞ。いいよね? シエスタちゃんたちも」

「あーはい。どーぞどーぞ」

「ふわぁぁぁ……あ、あったかい……ちょっと暑苦しいくらいだけど、全然嫌じゃない……」


 俺たちがしばらく待っていると、やがて殿下が咳払いをして立ち上がる。

 もう取り繕いきれる範囲じゃないです、殿下。


「あなたたちも知っていると思うけど、フクロウは戦士団にとって大事な象徴なの。神の御前で、無様な戦いだけはしないでね?」

「分かっている!」

「マーネも頑張って一緒に戦いますよ!」

「よろしい。この世界の普通のフクロウの生態に関しては助言できるから、役に立つ知識を提供できるかもしれないわ。何かあったら遠慮なく私の下へ来なさい。カナリアについても調べておいてあげる。だから……」


 殿下は途中で言葉を切ると、顔を赤くした。

 何やら言い難そうにした後、意を決したように俺たち全員の顔を見る。


「だから、本戦前に一度くらいは来なさいよね。その……ノクスと、マーネを連れて」


 殿下の言葉に、俺たちは笑顔で深く頷いた。




 模擬戦のポータルは礼拝所のど真ん中に鎮座していた。

 殿下の話の通り、帝国魔導士の使う転移の魔法陣に似ている。

 ティオ殿下が去った後、俺たちは最初の模擬戦に乗り込むべく準備を進め……。


「指示を出す二人の組み合わせはどうする?」

「まずは大本命であるハインドさんとシエスタさんで行ってみてはどうでしょうか? それを基準に他の組み合わせを評価していくのが分かりやすいと思いますが」

「いいんですか、妹さん? 私が先輩と組んじゃって。後で泣きませんか? もしそのままの組み合わせで確定しちゃったら、私との距離が急接近するかも? むふふ」

「は? ……それとこれとは全くの別問題なので、何も問題ありません。ええ、全く問題ありませんとも」

「そうだ! ないぞ!」


 シエスタちゃんの問題発言に食ってかかるリィズとユーミル。

 俺がさり気なく視線を外そうとすると、トビに左右から手で挟まれて顔の向きを固定された。


「……おい、何してくれてんだ? 手を放せ」

「ハインド殿。あの論法で話を進められると拙者、非常に組み難いのでござるが? というか、そもそも誰とも組んでもらえないのでは? ……ということで、目を逸らさずに何とかして!」

「……」


 リコリスちゃんとサイネリアちゃんも妙な話の流れに恥ずかしそうにしているし、セレーネさんも居心地悪そうに苦笑している。

 うーん……確かにこのままでは良くない。


「あー、ほらストップストップ。じゃあこうしよう。二対二の前に一対一で神獣との相性チェック。で、その後に決まったプレイヤーと神獣の組み合わせで二対二ってことにしよう。揉めるくらいなら初っ端から二対二には行かずに、神獣との組み合わせだけを先に決めてしまおう」

「えー」

「そうですか……ではリコリスさん、サイネリアさん頑張ってください。全力で。私もノクスに選ばれるよう全力を尽くします」

「うむ! ハインドかシエスタ、どちらかが外れれば何も問題ない! やれ、二人とも!」

「「あ、は、はい……」」


 ということで予定を変更し、二対二の前に各神獣を担当するプレイヤーをまず決めてしまうことになったが……。

 マーネに一対一は厳しいという事実は変わらない。


「だから、悪いけどまずはノクスだけで一対一の模擬戦を。その後、マーネの担当はフィールド戦闘でパーティに入れながらチェックということにしよう。俺たち渡り鳥から三人、ヒナ鳥からマーネに指示を出す人が一人、最後の一枠がマーネって形で」

「そうですね! マーネで一対一の決闘は心臓に悪いですもん……逃げ回るだけになっちゃったら、もう私どうしたらいいのか」

「では私たちはしばらくの間、観戦モードですね。見ているだけでいいのは楽ですねぇ」

「数人までは指示を出すプレイヤーと一緒に入れるのでしたよね? 確か指揮エリアという名称だったと思いますが」

「うん、神獣の共同保有者とフレンドの一部は一緒に入れる。神獣に声を届けられるのは担当プレイヤーのみだけど」

「よし、なら次はノクスと一緒に出る者の順番決めだな! どうする!?」


 メニュー画面で映像を呼び出すこともできるが、より臨場感を得られるのは指揮エリアだろう。

 そんな訳で、ノクスの一対一の模擬戦。

 話し合いがグダグダになった結果もう順番はくじにしてしまおうということで、トップバッターに選ばれたのは……。


「フフフ、安定の一番槍! まずは私と共に行くぞ、ノクス!」


 ギルマスにして切り込み隊長でもある、ユーミルということに決まった。

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