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聖女の神殿案内

 俺たちの前でティオ殿下が胸を張る。

 御付きの女官さんたちは……ああ、特に止める気はないのね。

 王族が奔放な国だな、やっぱり。


「私は神殿の構造には詳しいの。良かったら案内してあげるけ――」

「是非お願いします、是非」

「速っ!? シエスタ殿、速っ!」

「普段の動きからは考えられない詰め寄り方だったな……」


 気が付けば、シエスタちゃんがティオ殿下の目の前に立っていた。

 ぐいぐいと殿下に神殿案内のお願いをしていく。


「え、ええ……いいわよ!」


 それに若干たじろぎながらも、殿下が二つ返事で請け負う。

 先頭に立って上機嫌に歩き出すティオ殿下について、俺たちは神殿へと歩き出した。

 俺はシエスタちゃんを呼び寄せると、彼女にだけ聞こえるように声をかける。


「シエスタちゃん……殿下に案内してもらうと、神殿の他の施設も見ることになるけど? 直行できないから却って時間がかかるかもよ?」

「他の用事で今後、神殿に来ることもあるでしょうし。長い目で見れば各施設をきちんと案内してもらったほうが楽ですよ」

「ああ、そういうこと……じゃあこのままでいいか。殿下も上機嫌だし」

「今までは私たちに色々と教えられてばかりでしたからね。自分が教える側になるのが嬉しいんじゃないですか?」


 シエスタちゃんの言葉を聞いて、俺は殿下の様子を窺う。

 殿下はそのまま神殿の入り口に向かう前に、正面の神殿の全景が見える位置で立ち止まった。


「――まずはこの神殿の成り立ちから教えてあげるわね!」

「えっ、そこからなのか!? 回りくどくはないか?」

「建物の歴史というものは、その地に根付く文化の理解を助けてくれるわ、ユーミル! 大事なことなのよ!」

「う、うむ……そういうものか……」

「いい? この神殿は砂漠の賢人と呼ばれた、かの――」


 ティオ殿下が実に楽し気に、神殿に関する薀蓄うんちくを語っていく。

 その語りはやや詳細に過ぎるような嫌いもあるが、順序立てが上手いので聞き苦しくはない。

 この様子だと、おそらく――


「……うん、多分シエスタちゃんの推測が当たっているね」

「でしょう? まー、このゲームは思わぬところで得た知識が役に立つことも多いですし、聞いておきましょうよ。殿下の話が長くなりそうな時は、先輩よろしくー」

「えっ……あれを俺に止めろと?」


 メンバーの中でも特に話を熱心に聞いているのは、サイネリアちゃんだ。

 確か彼女は神社仏閣巡りが好きだと言っていたな……観光ガイドの話を聞く観光客のようなノリなのだろう、きっと。

 リィズやセレーネさんも興味があるのかちゃんと聞いているし、それを見た殿下の弁舌も益々好調に。

 ……とても途中で水を差せる空気じゃないんだが。


「大丈夫大丈夫。先輩ならできますって」

「勝手なことを……まあ、でも模擬戦のポータルに行くよう誘導したりはできるか。そうすれば自然と模擬戦へって流れにも持って行ける」

「あー、それは穏当な手段ですねー。しかし、模擬戦のポータルって現地の人にとってどういう扱いなんでしょう?」

「さあ……?」


 兎にも角にも、ティオ殿下の神殿案内がスタートした。

 まずは予想通り存在していた、神殿内にある医療スペースの待合室から。


「あ、ティオでんかだー!」

「聖女様、この前は本当にありがとうございました。聖女様のお力で、この子もすっかり元気に……」

「私は神官として当然の務めを果たしたまでです。民は国の宝ですから」

「それ、パトラさまがえんぜつ? で同じこと言ってたよ!」

「こ、こらっ! とんだご無礼を、聖女様……どうかお許しください」

「ぐっ……お、お体を大事になさってくださいね?」


 と、これは治療に来ていた親子――先程入口で見た親子とは別の患者さんとティオ殿下の会話だ。

 俺たちは微妙に格好のつかないティオ殿下を見て、表情を崩さないようにするのに必死である。

 素の態度を知っているだけになぁ……。


「何か拙者、見ていていたたまれないのでござるが……」

「無理しているのが見え見えだからな。聖女らしく振る舞うってのも大変だ」


 その後、一通り周囲の人々と会話を終えたティオ殿下がそそくさと俺たちの近くへ戻ってきた。

 疲れたのか先程の会話のせいか、殿下の作り笑顔はやや引きつり気味である。


「ここはあまり長居するべき場所ではないわね。移動しましょう?」

「いやいや、人気者で結構ではないか! ククク……無理に外面を作ると大変だな、ティオ!」

「なっ……ユーミル、アンタねぇ!」


 声を荒げる聖女様の姿に、待合室の人々が驚いたように囁き合う。

 これはまずい。

 女官さんたちからも何とかしろという視線が何故か俺に対して突き刺さる。


「て、ティオ殿下、次の場所に行きましょう。まさか治療中の医療スペースに入る訳にはいかないでしょうし」

「――はっ!? そ、そうですね。では、参りましょうか? みなさま」


 ティオ殿下の切り替えに、再度噴き出しそうになるユーミルの口元を俺とリィズが。

 ユーミルに釣られて笑いそうになるリコリスちゃんをサイネリアちゃんが抑え、移動していく。

 続く幾つかの施設は人も少なく静かな場所ばかりだったので、特に問題もなく通過。

 ティオ殿下も落ち着いてきたのか、過熱気味だった神殿解説も段々とちょうどいい尺で区切ってくれるようになった。ありがたい。

 そして肝心の模擬戦用ポータルだが……。


「次は礼拝所なのだけど……私が神殿に不在の間に、急に不思議な光を放つ魔法陣が現れたと聞いているわ。来訪者が自由に使えるよう、部屋を開放するように――とのお告げを神官長が受けたらしくて」

「おお、それだ! 私たちが神殿に来た目的は!」

「へえ、そうなの。転移魔法の一種なのか、来訪者が次々と陣の中に入っていくらしいのだけど……どういう用途なのか教えてもらってもいいかしら?」


 ティオ殿下の言葉に、俺たちは顔を見合わせた。

 既に門番のヤーヌ伝手に前提となる神々の試練に関しては報告済みなので、別にこれも説明して構わないか。

 と、いうことでティオ殿下に神獣の模擬戦について説明することに。


「実は――」

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