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初めての神殿

 未成体となったフクロウのノクス、カナリアのマーネを一通り愛でた後……。

 俺は時刻をメニュー画面で確認してから立ち上がった。

 今夜は慣れていないことを色々とやる必要があるので、余裕を持って動きたい。


「さて、じゃあ早速行きますか。未成体になったばかりだし、慣らしを少し訓練所でやってからになるが」

「模擬戦か!?」

「そうだ。まずはやってみないことには何も分からないだろう?」

「うむ、その通りだな! 行こう!」


 ヒナ鳥のギルドホームにも訓練所はあるので、まずはそこにノクスとマーネの動きの違いを確かめに行く。

 そちらに移動しながら、俺たちは模擬戦について話を続けている。


「でも、いざこの子たちだけで戦わせるとなると心配だよね……」

「心配無用ですよ、セレーネさん。戦闘の途中で降参なんてこともできるそうですし」

「あ、そうだったね。実力差が歴然なら、あんまりかわいそうなことになる前に降参するのも手だよね」

「模擬戦は戦績も残らないでござるから、気軽に行くのが良いでござるよ。大事なのは本番!」


 セレーネさんは俺たちの言葉に頷いてくれたが、ユーミルが不服そうな表情を浮かべる。


「何をぬるいことを言っている!? どんな戦いだろうと、最後まで全力で――」

「お前、こいつらのこの姿を見ながらもう一度同じことを言える?」

「言えるんですか? ほれほれー」


 俺とシエスタちゃんがノクスとマーネをユーミルの目の前に差し出す。

 つぶらな二対の瞳がユーミルを見つめ……。


「うっ……そ、そうだったな。戦うのは私たちではなくこいつらだ……あまりに惨い状態になるようなら、私だってそれ以上戦えとはとても言えん……」

「まあ、二羽が闘志を見せている限りは降参しないけどさ。完全に戦意を喪失している場合は別の話」


 すまなかった! と叫んでユーミルが二羽を抱きしめる。

 ちなみに神獣に指示を出す人間は、本戦までは交代でやってみるということで事前に決めておいた。

 刷り込みで親になっているシエスタちゃんと俺が最有力だとみんなは言うが、それはそれとして神獣への指示出しはやってみたいとのこと。

 そんな訳で、話を聞いたサイネリアちゃんとリコリスちゃんが小さく手を上げる。


「では神獣たちの様子をよく見ながら、ケースに応じて――ということでよいのでしょうか?」

「そうだね。本番と模擬戦では降参するかどうかの基準も変わってくるだろうし」

「ボクシングのセコンドみたいな感じでやればいいですか?」

「あー、良い例えかも。そういう気構えでやれば問題ないんじゃないかな」

「セコンドということは……あるのか!? 投げ入れる用のタオルが!」

「ねえよ。降参ボタンならあるけど」


 セコンドは例えだっての。

 こいつ、ノクスとマーネに構っていて話半分だったな……。

 訓練所にぞろぞろと入り、思い思いの位置で適当に立ち止まる。

 ――と、床から訓練用の的がせり上がってきた。

 操作パネルの前にいるのはリィズだ。


「ハインドさん、とりあえず動かない的で構いませんか?」

「ありがとうリィズ、大丈夫だ。じゃあ始めるか」




 模擬戦は専用のポータルから行けるとのこと。

 設置場所は各地にある神殿とのことで、まだ一度も行ったことがない施設だ。

 訓練所での確認を終えた俺たちは、ヒナ鳥のギルドホームを出て街の神殿へと向かった。

 その神殿というのが……。


「中々にでかい……さすが王都の神殿」

「しかし、どうしてこんなに大きいのだ? 国の宗教という訳でもないのだろう?」


 ユーミルが疑問の声を上げる。

 確かに街では門番のヤーヌのような存在は珍しくもない。

 それに対しては、どうやらセレーネさんとリィズが答えてくれるようだ。


「それは治療施設としての側面もあるからじゃないかな?」

「現地人の神官の詰め所でもありますからね。見てください、赤い顔の子どもを連れたお母さんが……」


 リィズが視線で示す先、風邪でもひいた様子の子どもの手を引く女性が神殿に向かって行く。

 風邪はどの治癒魔法で治すのだろう……『リカバー』でいいのだろうか?


「なるほど、神殿は病院でもあるということか。模擬戦に移動するポータルとやらはどこにあるのだ?」

「治癒してる場所とは別だと思うけど。マップを見れば分かるんじゃないか? とりあえず中に入ってみよう」

「そうですねー。案内してくれる人でもいると楽なんですけど」


 シエスタちゃんがそう口にした直後のことだった。


「その役、私が買って出ましょうか?」


 五人ほどの武装女官に囲まれた中心から、聞き覚えのある声がする。

 何だか目立つ一団がおり、それが段々とこちらに近付いて来ていることには気が付いていたが……。

 そういえば、彼女は国で最も有名な神官だったな。

 道理で周囲の人々が後ろを気にして歩いて行く訳だ。


「ティオ殿下。お久しぶりです」

「ティオ!? どうしてここに!」

「あっ、ティオさん!? こ、こんにちは!」


 予想できていたといった反応の俺やリィズ、セレーネさんにティオ殿下は一瞬残念そうな顔をしたが……。

 やや大袈裟に驚くユーミルとリコリスちゃんを見て、悪戯が成功した子どものように笑うのだった。

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