神々からの試練
「神々からの依頼なら、普通に天の声とかで特殊演出をすればいいのにな。卵を渡した時みたいに」
「シャイな神々なのかもしれんぞ」
「イメージが掴めないんですけど。リコ、分かる?」
「セレーネ先輩みたいな神様ですか?」
四人でしばし、引っ込み思案な神様の様子を想像してみる。
……。
「何だか私、神様のことを応援したくなってきました!」
「俺も」
「私も……」
「私もだ!」
それぞれがどんな様子を想像したのかはさておき。
これはあくまでも勝手な想像である。
「実際に登場……登場するのか? まだ分からないが、どんな神様たちなのかヒントすらないからな。どんな神様なのやら」
「む、それは今回のイベント次第――って、まだイベント内容を聞いていないぞ! 早く教えるのだ!」
「そこまで言うなら自分でイベントページを見ろよ……」
「お前から聞いた方が絶対に早い!」
「全く……今回は、ざっくり言うと神獣選手権だな。神々とやらは、神獣の育ち具合を見たいらしい」
「「神獣選手権?」」
二人の声が揃う。
イベント内容としては、育てた神獣同士を戦わせる神獣バトル、見た目の良さを競う美獣コンテスト、生産補助能力を競うサポート神獣コンテストの三つ。
「ふむ……ノクスはバトルとして、マーネのような補助魔法メインの神獣はどれに出ればよいのだ?」
「補助系はマーネのように見た目が良いのが多いらしいんで、美獣コンテストか……あと、神獣バトルにタッグマッチがあったはずだから。出るなら、前衛寄りの神獣と組ませればいいはず」
「ええと、一人――じゃないや。出場できるのは、一匹につき一つだけですか?」
「二つまでになっていたと思うよ。神獣は、ほら。共同保有システムの都合もあってプレイヤーほど数が多くないから」
加えて、一部門に特化している個体も中にはいるだろうが、神獣の多くは部門を掛け持ちできるような能力をしている。
ノクスならバトルだけでなく美獣コンテストに出してもいいし、マーネも然り。
ただし、ノクスならまずバトル寄り。
マーネなら美獣コンテストのほうが適しているのは言うまでもない。
他にも、止まり木のウッドゴーレム……ルートなら、サポート神獣メインでバトルも可、といったところか。
「先輩、とりあえず二部門にエントリーしておくのが無難ですか? どちらにより力を入れるのかは、別の話として」
「そうだね。特に美獣コンテストは、審査基準も賞も複数あるみたいだし」
「ええと、それはどんな?」
「ワイルド、ビューティー、キューティ、ユニーク、の四つだったかな」
「格好いい、綺麗、可愛いって感じですか?」
「だと思う」
「リコ、何でワイルドだけ直訳じゃないの?」
「えっ? あれっ?」
シエスタちゃんの言葉に、リコリスちゃんが首を捻る。
まあ、ニュアンスとしてはきっと間違っていない。
獣だからワイルド、という単語チョイスなのだろうし。
そして今度はユーミルが小さく手を上げる。
「では、ユニークは? どういう感じのやつを指しているのだ?」
「……ブサかわいいやつとか? キモかわいいでもいいけど」
「「あー」」
神獣スクショスレを見れば分かるのだが、人の趣味は実に多様だ。
そんな常人には理解し難い感性の下、出場させられる神獣たちは大体このカテゴリーに入るものと思われる。
「で、それに付随して神獣の経験値アイテムが入手可能だってさ。この前報酬で出たのと同じ、神獣の宝珠が手に入るそうだ」
「ああ、あれか! では、入手手段は?」
「試練がどうとか書いてありましたよ。情報が微妙に伏せられていて、かったるいですねー」
「むっ、それは確かに。明言してくれたほうがありがたいな!」
「でしょう?」
椅子にもたれると同時にシエスタちゃんがメニュー画面を放り投げると、画面が小さくなって消える。
ユーミルとシエスタちゃんの意見が一致するのは珍しいな。
浮かべている表情にはかなり差があるが。
俺は椅子からずり落ちそうな状態のシエスタちゃんへと視線を向けた。
「そんなことを言うけど、実は察しがついているんでしょ? 各フィールドにて、とは書いてあったんだから」
「まー、そうなんですけどね」
「えっ、それだけで分かるの? シーちゃん」
「合ってるとは限らないけど。フィールドでやることっていったら戦闘か採取っしょ? 多分」
「特別な仕様が導入されていない限りは、そうだろうね」
戦闘ならば、試練という言葉もしっくりくる。
ちなみに試練から得られる経験値アイテムは譲渡可能で、お世話になっている生産プレイヤーに送ったりと融通が利くものとなっている。
前イベントの報酬としてで得た『神獣の宝珠(大)』に関しては、俺たちはまだ未使用で残してあったりする。
理由は前述の譲渡可能な仕様に加え、どの程度の希少性があるアイテムなのか分からなかったこともあり、止まり木に渡すべきかどうか迷っていたためだ。
しかし今回のイベントで入手できる量によっては、気にせずどんどん使ってしまって構わないだろう。
譲渡分も稼いでくればよいのだし。
俺とシエスタちゃんの話を聞いたユーミルが、頷きつつ笑顔を作った。
「なるほど。ということは、とにかくフィールドに行けば色々なことが判明するのだな?」
「そうですけど……まさか、この流れは……」
シエスタちゃんがユーミルの勢いに押されるように、こちらへと視線を流した。
それに対して俺は、黙って首を横に振ることしかできない。
ユーミルが椅子から立ち上がり、力強く宣言する。
「無論、行くに決まっているだろう! ほら、シエスタ! 準備だ!」
「やっぱり……」
「ハインドとリコリスも! 行こう!」
「はいはい」
「はーい!」
今日のパーティは四人なので、今回は神獣を二羽とも連れていくことに。
場所は近場の砂漠ならどこでもいいだろうということで、俺たちはひとまず馬を連れずに街へと繰り出した。