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空からのお知らせ

 ヒナ鳥たちのホームは俺たちのホームのすぐそば、貴族屋敷の使用人たちが泊まるために使っていた別邸。

 基本的な造りは似通っており、建設当初の屋敷の主人がどういった人物だったかをうかがわせるものとなっている。

 違いは調度品の豪華さと、建物の大きさ位なものか。


「構造が似ているから、記憶がおぼろげでも割と迷わずに歩けるな。シエスタちゃん、先導してくれないし……」

「ふあぁぁ……んむ、すみません。ゴロゴロしていたせいか、怠さが増してしまいまして。でも先輩、私たちのホームに入ったのって、これで何回目くらいですか?」


 シエスタちゃんがのそのそと俺の後ろを歩きながら欠伸混じりに問いかける。

 ヒナ鳥のホームに来た回数か……。


「ええと……ホームを選んだ直後と、用事があって呼びに行くときに数回、リコリスちゃんのぬいぐるみとシエスタちゃんに寝具のセットを作ってあげた時に一回、今で……十回にも満たないのか?」

「寂しい! 寂しいですよ、先輩! もっと遊びに来てください!」

「そう言われても、いつも集合場所が俺たちのホームの談話室だからなぁ……それなら、偶にはそっちに集合するようにしようか?」


 渡り鳥のホームのほうが生産関係の設備が充実しているという理由もあった訳だが。

 談話室の広さ的には、こちらでも何の問題もない。

 そもそも、あちらの談話室のスペースが十人ほどで使うには広すぎるというのもある。


「是非そうしてください。サイが喜びます」

「サイネリアちゃんが?」

「こっちの談話室の花とか調度品とか飾り付けしてるの、サイなんですよ。華道も習ってるし」

「そっか、どうりで花瓶に活けたりが上手だと思った。結構習い事とかってしてるの? サイネリアちゃんは」

「あのおうちですからねぇ。今言った華道に茶道、習字、あとそろばんなんかもできますよ。あの

「渋いな……琴とか日本舞踊とかは?」

「サイは、ちょっと音感が……」

「ああ……」


 前に偶然、サイネリアちゃんの鼻歌を聞いてしまったことがあったが……。

 決して上手ではなかったな、言われてみれば。

 シエスタちゃんの部屋に到着すると、俺は空っぽのベッドの前で手の平を上に向けて差し出した。


「シエスタちゃん、布団を」

「あ、やってくれるんです? わーい」

「言葉の割に、俺がそう言うのを待っていたような表情なんだけど?」

「気のせい気のせい」


 アイテムポーチに手をかけるのも速かったんだが……まあいい。

 布団を受け取り、ベッドの上に広げていく。


「おー……皺が綺麗に伸びていく。先輩、ベッドメイキング上手ですね」

「現実よりも布団の復元力が高いから、楽なもんだよ――って、また寝ようとしていない? ねえ?」


 シエスタちゃんの足取りが怪しい。

 蜜に引き寄せられる虫のように、フラフラとベッドに近付いていく。

 俺が強めの口調で声をかけると、ようやくハッとしたように動きを止めた。


「綺麗なベッドを見たらつい……」

「マーネとノクスの世話をしながら、イベント発表を待とうよ。こっちの談話室でいいからさ」

「私が言うのも何ですけど、先輩って態度が甘々ですよね。相手によってはつけあがりません?」

「これでも相手は選んでいるつもりだよ。文句があるなら、無理矢理引きずってでも渡り鳥のホームに連れていくけど?」

「……はい、ご一緒します」


 メニュー画面を開き、二人で神獣召喚のボタンを押す。

 すると光が溢れ、中から二羽の鳥がそれぞれの肩と手の上に止まった。

 そのまま談話室に移動し……。


「うん、調度品のセンスがいいね。うわついてないっていうか、落ち着く」

「でしょう? 私だと配置が雑になるし、リコだと色使いとかが明る過ぎるんですよね」


 そのまま二人、テーブルの上で二羽に餌やりを始める。


「なんか、あれですよね。ほとんど同時に生まれたのに、既にノクスのほうが大きいという」


 マーネに餌をやりながら、シエスタちゃんが二羽の幼い鳥たちを見比べる。

 ノクスはゆったりとした動きで餌をついばみ、マーネはシエスタちゃんの手の上でぴょんぴょんと二度跳ねた。


「それは完全に種族の差でしょう。カナリアって、成鳥でも小鳥みたいな見た目のままだし」

「ですよね。そっちは猛禽類だもんなー」


 マーネのほうが僅かにお姉さん……お兄さんか? そういえば、雌雄が分からないな。

 ともかく、僅かに生まれたのは早いのだが、既にノクスのほうがころころと縦にも横にも大きくなっている。

 肩に乗っている時に感じる重みも、徐々に増してきた。


「それにしても、誰も来ませんねぇ。今日のイベント発表って、特殊演出ないんでしたっけ?」

「特に予告はされていないね。こういう時は生産系イベントだったりが多いんだけど。ただ、演出なしだとやっぱり同接が増えないらしいよ」

「あー……魔王ちゃんが出る時は凄いですもんね。どこから湧いたんだ、というくらい……それこそ、この前の花火大会みたいに」

「言えてる。しかし、ユーミルがちょうど告知の前後に来るって言っていたんだけど」


 話ながら俺がフレンドリストを開こうとしたところで、字幕が流れ始める。

 俺たちは会話を一度打ち切ると、その字幕を読むことに集中し……。

 そのまま、それぞれメニュー画面の告知ページに目を通していると――


「ハインドォ! ここにいたか!」


 落ち着きのない足音が響いたかと思うと、力強くドアを開けてユーミルが登場した。

 フレンドリストを確認すると、ログインから数十秒となっており……イン直後から一直線にここに向かってきたことが分かる。

 しかも、同じくインしたてのリコリスちゃんを伴って。


「ぜぇ、はぁ……は、速いですよぉ、ユーミル先輩」

「む、すまん! だが、しっかりとついてこれたではないか!」

「あ、リコも一緒じゃん。そういえば、昨日は渡り鳥のホームでログアウトしたんだっけ?」

「はぁ、はぁ……うん、そう、だよ。ログインしてすぐに、目の前にユーミル先輩が現れて――おおっ、リコリスではないか! 早速だが、まずはハインドと合流しよう! 急げ! ――って。ふぅ」

「先輩、どう思います?」

「うーん……ちょい似」

「えっ!?」


 リコリスちゃんが目を丸くして、どう返せばいいのかとあたふたする。

 そして呼吸を整えてから、ようやく論点がずらされていることに気が付いた。


「って、私のものまねの精度はどうでもいいんですよぅ!」

「ごめんごめん、大変だったね。とりあえず、お水どうぞ」

「あ、ありがとうございます! 今日は私たちのホームなんですね、ハインド先輩」

「うん、成り行きでね」


 リコリスちゃんが水を飲み始めたところで、ユーミルが椅子に座る。

 こちらはリコリスちゃんと違い、息切れせずに前のめりの姿勢のままだ。


「で、どうだったのだ? ハインド」

「どうって?」

「イベントの告知に決まっているだろう! 微妙に時間に間に合わなかった……無念」

「演出なしなんだから、焦らなくてもいいじゃないか。とはいえ、今回はイベントを主催しているのが新顔だぞ」

「おお、誰だ?」

「各国の王様たちの誰かじゃないんですか?」


 二人からの問いに、俺とシエスタちゃんは顔を見合わせ……それから同時に視線を上へ。

 ユーミルとリコリスちゃんが、その動きに首を傾げる。


「む、天井がどうかしたか? トビでも潜んでいるのか?」

「いや、あいつがバレずに隠れられる訳ないじゃん。天井よりももっと上」

「天井よりも? ……屋根ですか?」

「違うよ、リコ。屋根よりももっと上」

「上……」

「……空、か?」

「「正解」」


 今回のイベントの主催者は、告知ページによると神獣を預けてきた謎の存在……。

「天界」とやらに住まう「神々」だそうだ。

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