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弓術士セレーネ

 セレーネさんが落ち着くのを待って、現在の俺達の状況を説明した。

 パーティの人数、それぞれの職業、それとこれから向かう地域について。


「なるほど、砂漠……」

「もしかして、嫌でした? だったら、今からでもギルド入りを拒否して下さって構いませんが」

「ううん、全然いいよ。むしろ、山では採れないレアメタルとかが眠っているかもしれないし」

「ああ、確かに。そう考えると、砂漠も悪い事ばかりではないのか」

「RPGの定番、砂漠の秘宝なんていうものもあるかもね?」


 砂漠に何らかのお宝が眠っている、というのは現実でもゲームでもありがちな話で。

 ピラミッドなり古代の遺跡なりが存在していれば、より実在の可能性が増すことだろう。


「しかし、生産系で苦労しそうなのは変わりませんがね。特に農作物に関しては」

「でも、ハインド君のことだから何か考えてはいるんでしょう?」


 セレーネさんが俺を試すような目で見てくる。

 そうだな……いくつか有力な案が無くもない、というのが正直なところ。


「まあ、一応は」

「さすがだね。じゃあ、私も期待しちゃおっかな」

「それはプレッシャーですね。頑張りますが」


 セレーネさんの調子が戻って嬉しく思う。

 この打てば響くような会話のテンポが、俺としては非常に心地良い。


 と、そういえば渡すものがあるんだった。

 インベントリから足を痺れさせつつ作った防具――というか服を引っ張り出して、セレーネさんに見せる。


「これは……?」

「世の中には、おしゃれツナギなる未知の物体が存在するそうで。雑誌とかネットの画像を見ながら作ってみたんですが……どうでしょうか?」

「え? もしかして、これを私に?」

「はい。セレーネさんの為に作りました」


 先程と同じ状況を招かないように、敢えて直接的な表現でプレゼントするという意志を伝える。

 その言葉に顔を赤くしているセレーネさんを見ると、俺まで少し恥ずかしくなるが。

 メインのプレイが鍛冶のセレーネさんには、華美な服よりも実用的な物の方が喜ぶと思っての選択だ。

 彼女、未だに初期装備のままだし……。


「まあ、おしゃれと言ってもそこはツナギなんで限界はありますが……試しに、着てみてもらえますか?」

「う、うん!」


 通常のツナギと違うのはボタンのデザインが凝っていたり、襟の部分がシャープだったりと些細な違いではあるのだが。

 セレーネさんがメニューを開いて装備を変更すると、光が弾けて一瞬で着用状態に変わる。

 サイズは目測だったのだが……それほど問題なしか。

 ツナギはその辺りの誤魔化しがきくタイプの服だしな。

 しかし、何というかツナギを身に着けたセレーネさんは……


「似合いますね。こういうラフに着られる服は」 

「あ、ありがとう……? それは褒められているのかな?」

「似合っていて悪いということはないでしょう。で、ベルトもしちゃいましょうか。それと、インベントリのポーチの位置も調整して……」

「あ、うん。首元、もう少し開けてもいいかな? ちょっと苦しいかも」

「ええ。デザイン上、だるっと着てもサマになる筈なんで。むしろそっちの方が良いくらいでしょうよ」


 こうして微調整を重ねていき……。

 金属製のベルトのバックルやボタンをアクセントに、ラフでありながら全体で見ると引き締まった印象の装備が出来上がった。

 うーん……どうだろうか?


「これで完成です。確認して頂けますか?」

「あ、えと、鏡は!? 鏡!」

「ここには無いですけど……メニューの装備画面から、自分の状態を見られるボタンがありますよ。それを使って下さい」

「ほんと!?」


 割と基本的なことなのだが、知らないのは自分の装備に無頓着だったせいだろうか?

 メニューを開き、己の姿を食い入るように見つめるセレーネさん。


「パッと見、鍛冶屋というより機械技師みたいですけれど……。あ、それと鍛冶の時に役立つかと思って、耐火性能も付加してみたんですが――」

「……うん。うん!」


 どうですか? と問う前にセレーネさんが俺の手をがっしりと掴んでくる。

 出会った時のことを思い出す動きだ……彼女は感動すると、こうする癖でもあるのだろうか?


「ありがとう、ハインド君! すっごく嬉しい! 最高のプレゼントだよ!」

「いえいえ、セレーネさんには今日まで大変お世話になりまして……あー、それと。今後も宜しくお願いしますということで、一つ」

「ううん、それはこちらこそだよ。本当にありがとう!」


 頬を紅潮させて喜ぶセレーネさんは、まるで無垢な少女のような表情で。

 でも、そろそろ手を放してくれないかな……そんなにしっかり握られると、さすがに照れるのだが。




 その後、セレーネさんが荷物を纏めたのを見計らって鍛冶場の椅子から立ち上がる。

 ユーミル達の方も、そろそろ準備が終わる頃だろう。


「それじゃ、みんなと合流しに行きましょうか」


 俺がそう言うと、セレーネさんは急に挙動不審になった。

 両手をさまよわせてオロオロし出す。


「ど、どうしよう! か、菓子折りでも用意しないと……!」

「ゲームのプレイヤー同士が会うだけなのに、それはおかしいでしょう……?」

「え? あ、そうだよね……」

「普通に行きましょう、普通に」

「うぅ……大丈夫かな? 変に思われないかな……」


 そんな不安を隠せないセレーネさんを連れ、アルトロワの鍛冶場を出てヒースローへと向かう。

 彼女のレベルを少しでも追いつかせるため、パーティを組んでなるべく道中のモンスターを倒しながら進んで行く。


 セレーネさんの職業は弓術士であり、得物はクロスボウの一種で「アクゥアル」という武器だ。

 装弾に足を使って全身で弦を引くため「足弓」とも呼ばれている。

 その中でも特に大型のものを担いでおり、打ち出す矢も相応に大きい。


 以前にも触れたが、素攻撃力によって武器重量が軽くなるので、こういう現実では扱えないものを使えるのもゲームならではの魅力だろう。

 本来なら、女性ではアクゥアルの矢を装填することすら難しいはずだ。

 弓術士は後衛の中では最も攻撃力が伸びるので、女性でも大きめの弓やクロスボウを扱うことが可能となる。

 レベルがまだ低いセレーネさんにアクゥアルはギリギリのようだが……まあ、それも直ぐに解消されることだろう。

 このことからレベルの高い重戦士であれば大斧を振り回す少女、なんて図も実現可能ということになる訳だ。


 村を出た俺達は『ドンデリーの森』を抜け、そのまま二人で順調に進んだ。

 結果『ホーマ平原』中央部に通過する時点でレベルが10まで上昇し、これでセレーネさんもスキルが分岐する位置まで進んだことになる。

 セレーネさんが歩きながらメニューを開き、スキルポイントの割り振りを考えて少しだけ首を傾げた。


「やっぱり、単発型が良いよね?」

「迷う必要はないですね。クロスボウの時点で、装填には時間が掛かりますし。武器はそれが気に入っているんですよね?」

「うん。ちょっと大きく作り過ぎたけど、弓よりは扱いが楽だからね。レベル5の時よりも、大分軽く感じるようになってきたし……問題ないかな。じゃあ、ブラストアローを取得するよ」


 弓術士のタイプは、サイネリアちゃんが選択したようなアローレインに代表される「連射型」の人口が最も多い。

 狙いが悪いプレイヤーでもある程度のダメージを期待できるため、弓術士で安定性を考えるならこれを選べば間違いない。


 もう一つが短剣を同時に装備可能になり、体術系のスキルが増える「近接型」であり、事実上のロマン枠。

 遠近の使い分けが難しいが、技が決まった時の格好良さは断トツである。

 尚、与えるダメージ量がそれに伴っているとは限らないそうだ。故にロマン枠。


 そしてセレーネさんが選んだ一撃重視の「単発型」が最後の一つ。

 以上の三つが弓術士に用意されているタイプということになる。

 単発型は連射型よりも大幅にスキルによる攻撃回数が落ちるので、正確な狙いが必要とされている。


「ちなみにセレーネさん、視力は? 眼鏡ということで心配だったんですけど、狙いがやけに正確で驚いているんですが」

「ああ、コレ? 私、実は遠視なんだよね……小さい頃から視力のトレーニングしてたから、本当はもう眼鏡はいらないんだけど。無いと落ち着かなくて」

「つまり、それは伊達眼鏡だと?」

「そうそう。一応、今の視力は2以上あるよ。遠視用のレンズは凸レンズだから、度が入っていると目が大きく見えるんだよ。これはそんなことないでしょ?」

「へえ……」


 なるほど、遠視か……。

 今の所、一射も矢を外していないのでおかしいとは思った。

 ちなみに度の有無に関わらず眼鏡は現実から持ち込み出来るそうな。


「ガァァァァッ!!」

「――! あっ、そうか……忘れてた」

「え、何々? 今の叫び声は何?」


 突然の叫び声に一瞬驚いたが、現在地を確認するともう北エリアに足を踏み入れていた。

 エリアボスに関しては、パーティに倒した履歴の無いメンバーが居る場合に出現するという仕様となっている。

 セレーネさんはアルトロワ以外の街や村に行ったことがないので――


「ゴアッ!」


 棍棒が叩きつけられる。

 ホーマ平原のエリアボス『オーガ』レベル15が出現し、三度俺の前に立ちはだかった。

 今は前衛が一人も居ない状況だが……レベル差もあるし、何とかなるか?

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