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イベント翌日と煎餅談義

「しばらくログインしたくねえな。少なくとも今日は嫌だ」

「何故だ!? 行こう!」

「どうして一番動き回ってたお前がもう復活してるんだよ……」


 イベント翌日の午後。

 さすがに午前中はこいつも疲れていたのか訪ねてこなかったのだが、午後にはもうこれである。

 俺は自室のベッドの上で、未祐に背を向けて横になった。

 今日はバイトもなし、家事も一段落したので休憩中だ。

 体の疲れはそれほどでもないが、VRゲームは神経が疲れる。


「どの道インしても、今は誰もいないと思うぞ。ヒナ鳥三人だって、昼間はかなりの時間参加してくれたんだし。夜ならもしかしたらインしてくるかもしれないが」

「むう、夏休みも終わりが近いというのに……とりゃ!」


 ベッドが揺れて、背中に高めの体温が加わる。

 密着されていると理解した俺は、慌ててその場で半身を起こした。


「――!? こら、やめろ! 暑苦し――お前、顔真っ赤! 風邪か!? 熱か!?」

「違うと思いますよ?」

「「!?」」


 突如割り込んだ第三者の声に、俺と未祐はベッドから飛び退いた。

 といっても、冷静になれば誰の声なのかは丸分かりで……。


「理世か……やけに布団が膨らんでいると思ったら」

「照れるなら、始めからやらなければいいと思いませんか?」

「そう言う貴様こそ、しっかりと顔が赤いではないか! 人のことを言えた義理か!」

「兄さんがベッドに入ってからがピークでしたが……潜っている間も、それはそれで幸せな時間でした」


 いつから潜り込んでいたのだろうか?

 昼食の後片付けを手伝ってくれたところまでは一緒にいたので、そう長くはないはずだが。

 ……理世の気配消し能力を考えると、真後ろについて一緒に部屋に入ってきた可能性すらあるような。


「何にしても、真夏にやることじゃあないだろう。二人とも、ひとまずリビングに下りよう。何か冷たいものを用意――いや、あえて熱めのお茶もありか」


 暑いからといって、冷たいものばかりだと体に悪いからな。

 二人を伴ってリビングに下り、時間もちょうどいいのでおやつにすることに。




 煎餅とほうじ茶という渋めの内容のおやつを食べながら、三人でゆっくりとした時間を過ごす。

 母さんは仕事に出ているが、今夜の夕食は一緒に食べられるそうなので少し奮発しようか。

 涼しくなったら、買い物に――


「はっ!? 煎餅! 煎餅だ、亘!」


 バリボリと動かしていた口を止め、煎餅を手に未祐が立ち上がる。

 何を言っているのかと考えてみたが、さすがに分かりそうもない。

 俺が諦めて聞き返そうとしたところ、脳裏に引っかかるものが。


「……もしかして、止まり木のみんなへのお礼の話か?」

「うむ、そうだ!」

「よく分かりましたね、兄さん……」

「昨夜、何かお礼をしたいなって話をしたからな。で、何で煎餅?」

「バウ爺を始め、みんなが食べたいと言っていたのを思い出した! 市場には洋菓子ばっかりだと」

「あー、なるほど」


 ゲーム内だと米も手に入りにくいからな。

 砂漠で米って育つのだろうか? 今度和風ギルドに、種籾を分けてもらえないかお願いしてみようか。

 ゲームなので耐暑性能を得られれば、それで何とかなりそうな気がする。


「折角だから、炭火を起こして焼いてみようか」

「おおっ! そういえば、止まり木の集会所に囲炉裏的なものが」

「的、というよりはそのものがありますが。お年寄りの方々にはそれで良いでしょうけれど、小さな子たちにはどうしましょうか?」


 理世の言う通り、小さい子たちはむしろ洋菓子派が多い気がする。

 煎餅だとあまり喜ばないか? 味を工夫すれば……。


「うーん……チーズ煎餅とか?」

「美味しそう!」

「揚げ煎餅だと、甘じょっぱくて子供向けになるか?」

「食べたい!」

「青のり、にんにく、ごまなんかもあるよな。豆類も合うし」

「いいな!」

「……贈り物ですよね? 未祐さんが食べる訳ではありませんよね?」


 理世の言葉に、はしゃいだ様子だった未祐の動きが止まった。

 食べたばかりなのに、それこそお腹を空かせた子どものような顔でこちらを見てくる。


「……亘。味見……」

「……多めに作るから、大丈夫だよ」

「さすがだっ! ありがとう!」

「結構な量のお米が必要になりますね。備蓄分で足りるとは思いますが」

「足りなかったら、この前作ったアイスの残りも出そうぜ。というか、この煎餅だって美味しいだろうが。しっかり味わえよ」

「うむ、確かに美味い。これは駅前のだったか?」

「そうそう。オマケくれるんだよ、おばちゃんが店番の時だと」

「あ、では私ももう一枚」


 夏は湿気しけりやすいので、封を開けたら早めに消費しなければ。

 そうと決まれば、買い物の前にログインして下準備を進めておくか……。

 大部分はなるべくヒナ鳥も含めた八人全員で行うとして、完成時刻は止まり木のメンバーが多くログインしてくる時刻に合わせたい。

 出来立ての状態で保存できるのがゲームの良さではあるが、やはりインベントリやアイテムボックスから取り出して渡すのは味気ないので。

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