魔王ちゃんへの贈り物作り
「突然だが、魔王ちゃんの性格をどう思う? トビ」
俺の問いに対し、トビは二重の瞼を限界まで持ち上げた。
――あ、嫌な予感。
「そんなもの、決まっているでござるよ! 純真無垢でありながら可憐! 本人が邪悪だと思っている笑みは、ただただ可愛いだけであり更には――」
「いや、そういうのいいから」
「なんと!?」
どうしてそこで心外な! という顔をするかね。
お前の賛美を聞くために問いかけたんじゃねえよ。
調理室で向かい合う忍者野郎に、改めて質問を投げかける。
「もっと率直に、端的に答えてくれ。実年齢は定かじゃないが、魔王ちゃんはかなり見た目通りの性格をしているだろう?」
「……子供っぽい、でござるか?」
「そうそう、それだよ」
今やっているのは、魔王ちゃんへ贈る料理に関しての相談だ。
トビがどうしてもと言うので、こうして二人で決めるべく時間を設けたのだが。
「だから視覚的に、分かりやすいものがいいんじゃないかと。インパクト重視っていうか」
「デカ盛りみたいなやつでござるか?」
「あー、いいなデカ盛り。要はそういうこと。女の子だから、見た目が綺麗なものでもありだと思うが……さっきも言ったけど、子供っぽいからな。魔王ちゃん」
「あの背伸びしている感が最高なのでござろうが!」
「急に興奮するなよ……面倒くさいやつだな」
最初は綺麗系に反応を示すかもしれないが、最終的には分かりやすく美味しそうなものに飛びつくと個人的には読んでいる。
「一応、魔王ちゃんスレを読んで予習してきたんだが……」
「おおっ! ハインド殿が専スレとは珍しい!」
「……ただのスクショ雑談スレだった。さっきのお前みたいなのが一杯いるだけだった」
大体どのキャラ専スレでもそうなのだが、独特の雰囲気がある。
魔王ちゃんスレは……見守る系の紳士と変態どもが混在する魔境だったような気が。
「あー。平常運転でござるな」
「貢ぎ物、と称して料理に関する話をしている層も少数いたけど、何を出すのか具体的に言っている人はいなかったな」
「みんな、魔王ちゃんに褒められたいから黙っているのでござろう。前回のレイドのように直接会えて、とっておきのスクショが撮れるかもしれないでござるし」
「……あと、お前がスクショコンで提出したやつが殿堂入り――とかでスレのテンプレ入りしているのはどういう訳だ?」
「………………」
黙ってそのままニヤリと笑うトビ。
何だろう……ここで何か反応を返したら負けな気がする。
「……まあいいや。設計図を書こう、設計図を」
「設計図? 料理に、でござるか? 全自動料理マシーンでも作るのでござるか?」
「そんなものを作る技術が俺にある訳がないだろう……? 設計図っていうか、断面図っていうか。もしくはデザイン案?」
「あー、何となくハインド殿が作ろうとしているものが分かったでござるよ!」
という訳で、トビと一緒に洋紙に図を描き込んでいったのだが……。
今一つ、いい出来にはならない。
「そもそもこれ、ちょっとでかすぎないか?」
「いやいや、サイズはこれで良い筈でござるよ。インパクト、大事!」
「さっき俺が言ったことだったな……了解。サイズはこれで行こう」
「問題はそれよりも、全体の彩りというか。地味ではござらんか? 先程の案のほうが……」
「最近使ったばかりの、デーツのソースが多めだからなぁ。それにさっきのは、見た目のバランスが悪かっただろう? それよか、魔王ちゃんの好物って判明していないのか?」
「さすがにそれは拙者にも分からないでござるよ。直接会いに行けるタイプの現地人――現地人? 魔界人? ではござらんし」
「イベントの投影映像と報酬授与だけだもんな。食べ物の好き嫌いを読み取るのは無理か」
だったら、この辺りの特産であるデーツをメインの味付けにするのはいいとして……。
喫茶店で作っているものを参考にしているので破綻はないが、トビの言う通り華やかさに欠ける。
やはりここは――
「実は、俺たちだけだとこうなると思って、前もって女性陣の中から助っ人を呼んでおいた」
「おおっ! ……ちなみに、誰でござるか?」
「私ですが」
「――ひぃっ!?」
突如現れたリィズの姿に、トビが悲鳴を上げつつその場で垂直に跳ねた。
そのまま俺の隣に逃げるように移動する。
その反応に、リィズはとても不満そうだ。
「ひぃっ、とは何ですか。失礼な」
「気配なく現れるリィズ殿が悪いでござろう!? というか、リィズ殿は気配を消すのが上手いでござるな……」
本当、どこで身に着けたんだろうな? そんな技能。
リィズの容姿上、存在感がないということは全くないのだが。
しかし、簡単に背後を取られる忍者というのもいかがなものか。
「俺もその意見には賛成なんだが……この前のフィリアちゃんの件といい、お前はことごとく忍者として負けているよな」
「ぐっ!!」
がくりと膝を落とすトビだが、構っていると日が暮れるので話をどんどん進めていく。
どうせ放っておいてもすぐに立ち直――
「そんなことよりも、今は魔王ちゃんへの貢ぎ物をぉぉぉ!」
「はっやいなぁ。忍者としてのアイデンティティをそんなことの一言で済ませるなよ。……リィズ?」
「特産品であるデーツをメインにするのは良いと思います。ですが、色は地味ですからメインというよりは味のベースとして考えて、もっと多様なフルーツを使いましょう」
「うん、何も異論はないな」
「右に同じ、でござる!」
「俺たちも同じ意見には到達したんだが……リィズにやって欲しいのは、そういうのの配置のバランス取りだな。盛り付けには自信があったんだが、でかいせいかどうにもとっちらかる……すまないけど、頼んだぞ」
「ハインドさんに頼っていただけて、私はとても嬉しいです。早速やってみます」
リィズがデザインを作成している間、手持ち無沙汰の俺たちは決定している部分の作製を始めた。
まず基本となるデーツを混ぜたアイスクリームをトビの補助を受けながら作り、溶ける前に大部分をインベントリに。
少しの量を試食に出して……。
「予想通りだが、すっげえ勢いで溶けるのな。砂漠の気候と異常気象のダブルパンチで」
「これ、盛る時に困るのではござらんか? ……うん、味はいい感じでござるよ!」
『アイスニードル』を何度も使い、かなりMPが減ってしまったノクスにMPポーションを与える。
ついでに餌もあげておくか……ご苦労さん、ノクス。
「その辺も上手くやらないと、ノクスがバテちまうな。リィズも、ほら」
「――はい? あっ……美味しいです。ふふっ」
「リィズ殿、上機嫌でござるなぁ……拙者もいるでござるよ? 見えてるー? おーい?」
そんな流れで、どうにかイベント用の冷たいお菓子が完成。
追加で飾り用の大きなアイスクリーム・コーンを作ったりと、案が固まってからの調理はとても楽しかった。
スクリーンショットを撮り、最終提出前に他のメンバー……主にシエスタちゃんの意見を聞いてからエントリーということになる。
「って、どうしてシエスタ殿なのでござるか?」
「前にサイネリアちゃんから服のセンスが良いって聞いたから、料理の彩色も分かるんじゃないかと思って。安直な発想だが」
「ハインドさんの考えは正しいかと思いますよ。彼女はセッちゃんとは別ベクトルで、ハイスペックですからね。ただ……」
「まあ、そういうこと。作るのに協力してくれるか分からなかったから、シエスタちゃんはあまり労力がかからない最終チェック係ってことで」
「ハインド殿が真剣に頼めば、どうにかなったようにも思えるのでござるが……ともあれ、無事に完成を迎えたことは非常にめでたい! 待っているでござるよ、魔王ちゃん!」