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サブイベントの悩み

「うーん……」

「あれ? どうなさったんですか、大し――ハインドさん。レイドのほうは順調だと思いますけど」


 ギルドホームの談話室で、俺がノクスの世話をしながら唸っていると……。

 アイテムの納品に来てくれたらしいパストラルさんが傍に立っていた。

 俺が唸っていた原因は、レイドイベントのアタックランキングについてではない。


「いやあ、サブイベントのほうがですね……」

「ああ……魔王ちゃんの冷たい食べ物を作るイベントもありましたね。もしかして、氷の確保ができていませんか?」

「実はそうなんですよ。レイドにかかり切りで、手が回らなくて。氷の用意なんて初歩の初歩の上、別にこっちのイベントに参加する義務もないんですけれどね。トビのやつが……」

「……目に浮かぶようです。魔王ちゃんの大ファンでしたね、にん――トビさんは」

「――むむ! 拙者の名を呼んだでござるか!?」


 珍しく隠し扉を使わずに、談話室のドアからトビが転がるように――否、実際に転がりながら入室してくる。

 パストラルさんが表情を引きつらせて一歩下がり、ノクスは小さくホー、と鳴いた。


「普通に入ってこれんのか、お前は」

「ノン! ノン! ノンノンノーでござるよ、ハインド殿! 魔王ちゃんへの貢ぎ物を出せないなんて!」


 指を左右に振りながら近付いて来るな、鬱陶しい。

 しかも貢ぎ物って……まあ、ご機嫌取りの手段という意味では間違っていないか。


「出さないとは言っていないだろ? しかし、そこまで言うなら人任せにせずに協力してくれよ。氷がどうにも用意できないんだ」

「もちろん拙者にできることなら! して、事前にハインド殿が挙げていた心当たりは全て試したのでござるかな?」

「現地人に頼んでみる方法とかか? 結論から言うと、今の現地人は一部を除いて水魔法そのものを使えないぞ」

「え? そうなんですか?」


 パストラルさんに限らず、俺たちがそれぞれ持っている情報には偏りがある。

 中でもセレーネさんとトビは分野を問わずゲーム全般の情報に詳しいが、それでも取りこぼす情報が出てくることも。

 だから、こうして色々な話をしておくのは大事だったりする。

 二人から何かサブイベントに役立つ情報が出てくることを期待しつつ、話を続ける。


「普段なら、生鮮食品を扱っているような現地人の業者は、氷を出せる術者とコネがあったりするんですけどね」

「ああ、掲示板でも話題になってござった。何でもクイーン・ソル・アントが引き起こす異常気象のせいで、水魔法を呼び起こす力が弱まっているとか。そして何故か来訪者であるプレイヤーには影響なしと。プレイヤーたちの特殊性を強調する、ちょっぴり楽しい設定でござるな! ワクワクするでござるよ!」

「おかげでこっちは大迷惑だけどな。ベリ連邦まで氷を採取しに行く時間はないし、取引掲示板は巻物も含めてずっとやばい値段だし……」


 提出期限ギリギリまで氷が確保できないようなら、それらを買うしか方法はないのだろうが。

 大体、魔王ちゃん効果なのか知らないが、料理コンテストなんかよりも各所で盛り上がりを見せているような気がする。

 材料費の高騰もその一つだ。

 今の話で引っかかるところがあったのか、パストラルさんが小さく首を傾げる。


「一部ということは、使える現地人さんもいるんですよね?」

「いますけど、近場だと女王様とか、引退した大魔導士のアルボルさんとか、相当高位の魔導士じゃないと駄目みたいで……」

「頼んでも聞いてくれそうもないでござるな。というか、滅茶苦茶気が引けるでござるよ。魔王ちゃんとは敵対関係でござろうし」


 そしてパストラルさんがここまでの会話を吟味するように視線を彷徨わせてから、ゆっくりと口を開く。


「これって、一部のプレイヤーにお金が入るようになっていませんか? そのために制限をかけているような」

「はて、どういうことでござる?」

「ですから、アクアアースタイプで氷を出せる魔導士なら……」

「ああ、それはそうでござろうな。巻物を量産して売る、氷を直接売りつける、などなど……またアクアアースタイプ優遇か! と憤慨してござったな、残りの二つのタイプの魔導士連中は」

「次イベからは逆に冷遇されるんじゃないか? と戦々恐々だったがな、当人たちは。大体、魔導士じゃなくてもベリに行って雪や氷を採取して売りに出せば、普通のプレイヤーでもかなり稼げるぞ。異常気象で標高の高い山に行く必要があるから、レイドへの参加は難しくなるが」

「なるほど……って、すみません。私のせいで話が脱線しちゃって」

「いやいや、情報確認になっているんで構いませんよ。で、ここまでの話を踏まえると――」


 現地人に依頼するのは不可、取引掲示板経由の入手は最終手段ということで……。

 プレイヤーの誰かに頼む、というのが最も真っ当な方法になるか。


「イベントに参加しているフレンドの中には、見事に水魔法を使える人がいなくてな」

「ええと、シリウスは……」

「ヘルシャが不参加なんで、ギルド丸ごと不参加。全員グラドにいますね」

「では、和風ギルドはどうでござるか?」

「ミツヨシさんが忙しいらしくて、個別参加だそうだ。フレンドリストにはミツヨシさん、キツネさん、ユキモリさん、マサムネさんが登録してあるけど」


 俺の言葉に、同じ面子がフレンド登録されているトビがリストを確認する。

 それを見て一瞬で渋い顔になるトビに、パストラルさんも察したような表情に。


「見事に全員不参加でござるな……ログアウト地点、マールでござるし。今イベは盆を挟んでいるから、仕方ないのでござろうか?」

「セレーネさんみたいに、里帰りする人も多いだろうしな。それでどうしようかと唸っていたわけだ」

「私のレベルがもっと高ければ、お役に立てたのに……ごめんなさい」

「これだけアイテムを揃えてもらって、その上謝られたんじゃ俺たちの立つ瀬がないですよ。凄く助かってます」

「そ、そうですか?」

「そうでござるよ。アイテムの残り個数を確認しては、険しい顔をするリィズ殿を見なくて済むでござるし」

「お前、響子さんの時もそうなんだけどさ。基本的に迂闊な発言が多いよな?」


 リィズの耳に入ったらどうするつもりなんだろう。

 気まずそうに顔を背けた後、なかったことにしようとトビが俺に話の続きを促してくる。


「け、結論! そろそろ結論を、ハインド殿!」

「……結局、氷を出すにはそこそこのレベルとスキルポイントが必要なんだよな。一番ランクの低いアイスニードルでもさ」

「大体レベル50以上でござろうか? しかしその手のプレイヤーは、レイドに忙しそうで捉まえるのが大変でござるよな」

「実際にフィールドや王都の街中で何人かに声をかけてみたんだけど、返事は渋かったな」

「掲示板での募集は、取引掲示板を使うのと変わらない値段になりそうですもんね……」

「例えゲームでも、必要以上に高い手段は好かんのですよ。何とかして、安く済む方法を使いたい」

「その意見、実にハインド殿らしいでござるが……レイドもあるでござる故、攻略のついでに採れるような手段でなければ――」

「あっ!」


 突然声を上げたパストラルさんに俺とトビが視線を向けると、パストラルさんが見ているのは……ノクス?


「あの、私、よく神獣関連のスレッドを覗いているんですけど……」

「ええと……まさか?」

「確信は持てないんですけど、神獣の取得スキル……フクロウの取得魔法の中に多分……」

「えっ? パストラルさ――」

「ちょっとログアウトして確認してきます! お二人はここで待っていてください!」


 そう言い残すとパストラルさんは、呆気に取られる俺を残して消えて行った。

 事態が上手く飲み込めないんだが……トビはどうして冷静なんだ?


「そもそも、神獣が魔法を覚えること自体初耳なんだが……」

「ハインド殿、知らないの? 神獣によって回復魔法だったり補助魔法だったりを覚え出して、スレではお祭りだったんだけど」

「いつから?」

「六日前……だったでござるかな?」

「よりによってその日かよ……その前の日だったら、神獣について色々調べたんだが。弦月さんたちと一緒に、ノクスを戦闘参加させた後にさ」

「そりゃあ間が悪かったでござるな。しかし、これで活路が開けるのではござらんか? ノクスが氷を出せるのであれば、太陽の欠片集めに参加させておけば!」

「習得が間に合うかもって? そう上手く行くもんかね……」


 俺が見下ろす先、ノクスは三つあるまぶたの内の一つを使い、ぱちぱちとまばたきをした。

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