臨時パーティ・パターンその3
「今日のパーティメンバー、残りの二人はポル君とフォルさんだ」
「……ふむ?」
首を傾げるユーミルだが、事前に次のパーティメンバーについて相談しようとした時に「任せる!」と判断をぶん投げたのは当の本人である。
結局話す機会を逸し、今のような状況となっている。
場所はTB内『王都ワーハ』の東門、全員馬を引いての集合だ。
渡り鳥からの参加はもう一人、ポルフォル兄妹と知り合いであるリィズが名乗り出てくれた。
「簡単に説明すると、こちらがヤンキーの――」
「あぁん!?」
「……このツッパリが効いてるシスコンがポルティエ君。俺はポル君って呼んでる」
「シス――!? 初対面の相手に何て説明してやがる!? 言い直して悪化させてんじゃねえよ! ……まあいいや、えーと……とにかくよろしくな!」
「うむ、よろしく頼む!」
「で、こっちの儚げな雰囲気の妹さんが……」
「あ、あの」
「ユーミルファンのフォルさ――」
「よろしくお願いする!!」
「はっ、はいぃ!! よろしくお願いしますっ!」
自分のファンだと聞いた直後、上機嫌でフォルさんに接近するユーミル。
それに対し、フォルさんは緊張でガチガチである。
「一応、この前のギルド戦で顔を合わせているんだけど……憶えているか?」
「む? はて、ギルド戦……」
「北方の一番星ってギルド。フォルさんは槍を使って、メイさんと一緒にお前と戦っていたはずだけど」
「おおっ、思い出した! 華麗な槍さばきだったのに、途中で咳き込み出したあの!」
「あ、それ私です……」
フォルさんらしい話に、俺とリィズは微妙な顔になる。
まだ喘息、治っていないのか……。
「これでも大分良くはなってきているんだぜ。北国の寒さに鍛えられているしな!」
「そういえばそうでしたね。しかし、どうしてそんな過酷な環境を選んだのです? フォルさんの心因性の喘息を治したかったのでは?」
リィズがフォルさんを見ながら疑問を投げかける。
それに対するポル君の答えは、俺が過去に予想した通りのようで……。
「俺は南国のマールを勧めたんだけどよ。フォルがどうしてもって言うからさぁ」
やっぱり押し切られたのか。
過保護なポル君がベリ連邦に、とは言わないよな。
ポル君に続いてフォルさんが小さく笑いながら理由を明かしていく。
「敢えて過酷な環境に身を置くのも良いかと思いまして……多少は無理をしても大丈夫という、ゲームの利点を活かそうかと」
「それで結果が出ているのならば、それはフォルが正しかったということだろう! 良いではないか!」
「あ、ありがとうございます! ユーミルさんにそう言ってもらえると、自信がつきます!」
ポル君がうんうんと頷き、リィズが腑に落ちないといった表情をする。
病弱気味なフォルさんにとって、元気なユーミルは眩しく映るのだそうだ。
幼少期はフォルさんのように伏せがちだったリィズだが、こちらは昔から気が合わずに喧嘩ばかりしているからな……人それぞれだ。
「ところで、メイさんはどうしてます? ユーミルによると、しばらくログインしていないそうですが」
「あ、そうそう! メイは珍しくハインドと共通ではなく、私だけのフレンドだから気になっていたのだ!」
「あん? ああ、あいつね」
少し長話になってきたので、通りから外れて往来の邪魔にならない位置へ移動しながら話を続ける。
俺は全員に水を配り、まずは自分が一口それを飲んだ。
「おっ、サンキュー! で、メイだけどよ。あいつぁ里帰りで今回のイベントには参加できないって言ってたぜ」
「ユーミルさんと一緒にイベントに参加したと聞いたら、悔しがるよね……」
「私も勇者ちゃんと戦いたかったー! ってな」
「一緒にイベントに参加したい、じゃなくて? 私“も”って、明らかに事実を捻じ曲げているし。本当にそんなことを言いそうなの?」
俺の疑問の言葉に、兄妹が苦笑しながら頷く。
メイさんならきっとそう言うだろうと。
確かに初めて会った時も、ユーミルに決闘を申し込んで来たが……。
「あいつ、決闘大好きなんだよ。俺もしょっちゅう相手をさせられるぜ」
「言われてみれば、そんな雰囲気はありましたけれど……イベントそっちのけで申し込むほどですか?」
リィズが初めて会った時のことを思い出すように、視線を左上にやりながら首を傾げる。
「残念ながら、そうなんですよ……今回のようなイベントなら、フィールドで強そうなプレイヤーや有名プレイヤーを見かけたら、すぐに駆け出すと思います」
「そこまで対人戦好きだったのか……」
「あいつにゃ悪いが、今回はあいつと一緒じゃなくて良かったろ?」
「私は逃げも隠れもせんがな! やると言われればやるぞ!」
「……しっかし、勇者ちゃんって普段からこういう感じなのな」
不敵に笑うユーミルを見て、ポル君が感心したように呟く。
フォルさんも期待通りのユーミルの姿に、とても嬉しそうに目を輝かせている。
しかし俺たち兄妹にとって、ポル君の言葉はもはや聞き慣れたものだ。
「事前に動画かなんかでこいつを見て、実際に会った人は大概そう言うよ……」
「ユーミルさんは裏表のない――間違いました。ユーミルさんは単細胞でいらっしゃいますからね」
「言い直す前の表現で良いだろう!? 何故わざわざ悪い方に言い直した!?」
「先程ポルさんを紹介した時のハインドさんに倣ってみました」
「悪いことは真似をするなと、幼稚園の先生に何度も言われただろうが! 真似をするなら良いことだけにしておけ!」
睨み合うユーミルとリィズの傍をいつものようにそっと離れると、それを見ていたポルフォル兄妹の会話が耳に入ってくる。
「あ、マジだ。今のって、さっき俺がされたことと同じじゃねえか。さすがハインド兄妹……今日もキレッキレだな」
「お兄ちゃん、自分が弄られていない時は楽しそうだね」
「おう。なにせ見ていて飽きない連中だからな!」
……戦闘中の連携がどうなるかは分からないが、とりあえず仲良くやっていけそうだ。