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フクダンチョーの特技

 馬を置いてある場所の都合上、王都の西門で再集合ということになった。

 先に到着した俺たちは、各々の馬を引いて現れた二人に手を振って出迎える。

 弦月さんのハクアと、フクダンチョーさんの……ん!?


「何だその馬!? ちいさっ!」

「豆サラを馬鹿にしないでくださいっ! ユーミル!」

「馬鹿にしたつもりは一切ないが……」


 ユーミルの言葉通り、フクダンチョーさんが連れた馬は非常に小さい。

 さすがに幼生体の神獣であるセンリよりは大きいが……ロバくらいだろうか?

 しかし、表示はロバではなく正式な馬となっている。

 毛並みは茶、足腰は小さい割にしっかりとしているのが見て取れた。

 門の前で話し込むと他の通行人の邪魔になるので、一度隅に寄ってから改めて会話を再開する。


「で、一体これは何なのだ? 弦月」

「……実は、私が彼女――フクダンチョーを唯一認めている点があってね。それがこういった馬の配合なんだ」


 弦月さんの視線を追って、俺たち三人はフクダンチョーさんと小さな馬を見た。

 弦月さんの説明は続き、一見いまいちなステータス同士の馬で優良な子を誕生させたり、毛色の発色が良くなる組み合わせを見つけたりと大活躍らしい。

 その全てはフクダンチョーさんの「勘」によって決定されるらしく、法則性が分からない不可解な組み合わせもあったりするのだとか。

 そこまで聞いて真っ先に結論に辿り着いたらしいリィズが、弦月さんへと向き直る。


「つまり、この子はフクダンチョーさんが配合を重ねて誕生させた新種ですか?」

「新種と言っていいのか分からないけれど……先程本人が言ったように、彼女は豆サラと呼んでいるよ」

「豆のサラダみたいではないか?」

「小さいサラブレッドって意味だと思うが……」

「ふっふっふ。やはりフクダンチョー仲間は違いますね! 正解です!」

「ハインドさんは副ギルマスであって、副団長ではありませんけどね……」

「詳しく説明しましょう!」


 リィズの指摘などどこ吹く風といった様子で、フクダンチョーさんが豆サラに装着された鞍をぺしぺしと叩く。


「この子は、馬具に足が届かない! 一人で乗るのが難しい! 普通の馬は大きくて怖い! といった、とあるギルドメンバーの要望により、私がおやつをつまみながら交配パターンを考えた――」

「ツッコミが追い付かないと思うので、一点だけ。とあるギルドメンバーというのはフクダンチョー本人のことだよ」

「シャラァーップ! 弦ちゃん! 人の話は最後まで聞きなさい!」

「はい」


 フクダンチョーさんが勢いだけの台詞回しで弦月さんを黙らせていく。

 そして今の話で、彼女がビビリであることが確定した。

 怖いのかよ、馬……。


「――と、そんな経緯で誕生したのがこの豆サラなのです! こんな見た目でも、ステータスは駿馬相当! 速いぞー!」

「凄いな!?」

「リィズもどうですか!? アルテミスに帰れば他の豆サラも何頭かいますし、今ならお安くしておきますよ!」

「はあ……確かに背の低い人間にとって、素晴らしい馬だとは思うのですが……」


 リィズが気乗りしない様子でちらりとこちらを見た。

 悪くない提案だと思うのだが……肩に乗ったノクスと共に首を捻る。


「どうしてだ? 体格に合った速い馬を手に入れるチャンスだし……検討くらいしてもいいと思うが」

「自力で簡単に馬に乗れるようになりますと、ハインドさんが抱っこして乗せてくれなくなるではありませんか」

「買え! 今すぐに豆サラを買え! 甘えるんじゃない!」

「こらこら、勇者ちゃん。それにしても君たち、毎回そんなことをしているのかい?」

「余裕のある時は乗せていますね。馬具も調整してありますし、何ならしゃがんでくれるんですけどね。ウチの馬たち……」


 リィズ以外には、シエスタちゃんが乗せてほしいと要求してくることがある。

 そんな話を聞いたフクダンチョーさんが残念そうな顔をした。


「うーん、では豆サラはお買い上げにならない?」

「いえ、俺が買いますよ」

「おおっ!」

「ハインド!? お前にはグラドタークがあるだろう!?」

「そうじゃなくて。もちろん、俺自身が一頭持っておきたいってのもあるけど……サイネリアちゃんが欲しがるんじゃないかと思ってな」

「む? 言われてみればそうだな……」


 とりあえず俺が一頭として、後でサイネリアちゃんに訊いて必要なら更に複数買っておきたい。

 純粋な興味もあるが、実際に乗ってもらいたいプレイヤーたちにも心当たりがある。


「それと、止まり木のチビたちにどうかなって。交配が上手く行くか分かんないけど」

「でしたら雌雄一頭ずつどうです!? それなら交配も間違いなし!」

「ああ、いいですね。価格交渉は道中でしておくとして……実際の売買はイベント後でも構いませんかね?」

「いいでしょう! 確保しておきます!」

「一般的な馬の市場価格は参考になりませんよね? ということで、まずは豆サラの希少性の話から――」

「何だろうね……交渉を始めた途端、ハインドの顔が平時よりも活き活きとし出したように思うよ」

「……お分かりになりますか? ハインドさんは倹約家であると同時に、買い物好きでもありますから……」

「スーパーで買い物をしている時のこいつは、見ていて面白いぞ?」


 三人が何か言っているようだったが、今は豆サラの値段交渉で忙しい。

 フクダンチョーさんのどんぶり勘定は見ていて不安になってくるので、まずは豆サラの最適な値段を話しながら探っていく。

 こういう人から安く買うのは簡単だが、まだ浅い交流しかないとはいえフレンド。

 しっかりと豆サラの価値を自覚してもらってから、値下げ交渉に入った方が気分が良いだろう。




 そして交渉途中で豆サラの走っている姿を見せてほしいとお願いしたところ、隣のフィールドでフクダンチョーさんがやってくれるとのこと。

 背の低い彼女が簡単に豆サラに跨り、豆サラが砂を蹴って加速を始める。

 その姿は……。


「凄い一生懸命走ってる!? 足がちょこまか動いてる!」

「でも、本当に速いぞハインド!?」

「これなら普通の馬に置いていかれることもなさそうですね。何だか、ちょっと可愛いような……」

「優美な姿には程遠いけれど……リィズが言ったように必死に走る姿が可愛いと、アルテミスの女子には好評さ」

「進めー! 豆サラー!」


 重心が低いからか、安定感も抜群だ。

 そんな豆サラは、フクダンチョーさんにはぴったりな馬のような気がした。

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