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レイド用・臨時パーティ結成

「お菓子を所望します! ハインド作の美味しいやつを!」

「――はい?」


 お久しぶりですと挨拶をしたと思ったら、次の瞬間にはこの発言だ。

 二人には一旦ホームの談話室まで来てもらったのだが……。

 椅子に座って少し話をした後、すぐに出発できると弦月さんが申し出てくれた直後の出来事である。

 そういえば、こういう子だった。

 初めて会った時も、アルテミスのホームに再度招かれた時も、一貫してこの調子だったと記憶している。


「お菓子をくれなきゃイタズラしますよ!」

「……いや、ハロウィンにはまだ大分早いんじゃないかな」

「相変わらずの図々しさだな、フクダンチョーよ」

「申し訳ない、本当に申し訳ない……」


 フクダンチョーさんの首根っこを引っ掴み、弦月さんが頭を下げる。

 弦月さんでも持て余すのか……。


「しかしながら、その図々しさ……なあ、ハインド」

「ああ」

「「嫌いじゃない」」

「何と寛容な……フクダンチョー、まずはお礼を――」

「じゃあ、何かくれるんですか!? 渡り鳥のクッキーとかポップコーンが美味しいって、噂になってますよ!」

「こら!? ギルドの外では礼を欠くなと、何度言ったら分かるんだ君は!?」


 目を輝かせるフクダンチョーさんに対し、弦月さんが俺に向かって激しく首を横に振る。

 分かっていますよ。


「戦闘で活躍してくれたら、その分だけお菓子のグレードを上げよう。お土産の持ち帰りも可!」

「ほう……このフクダンチョーをお菓子で買収しようと? そんな見え透いた手に、私が簡単に乗るとお思いですか?」

「嫌なら、やっぱりアルクスさんを待っ――」

「乗りましょう!」

「食い気味!」


 驚愕に目を丸くするユーミルの前で、フクダンチョーさんの尻尾が千切れんばかりに上下する。

 可愛いから許される範囲のギリギリを攻めてんな……。

 黙って見ていたリィズが、呆れたように嘆息する。


「不毛な問答ですよね……最初からそれでいいと言えば済むのに」

「こういうのも、会話の妙と言えなくもない……かな? ありがとう、ハインド。迷惑をかけるね」

「いえいえ。料理が趣味の人間からすると、素直にお前の作ったものが食べたいと言われるのは嬉しいので」


 戦闘前の料理バフは、昨日と同じくキャラメルでいいだろう。

 MPポーションのストックが充実するまでは、MPのフォローができるこいつでOKだ。

 ユーミルと話しているフクダンチョーさんを横目に、弦月さんにキャラメルの包みを二つ手渡しておく。

 さて、今度こそフィールドに……フィールドに……。


「あの、弦月さん」

「何だい?」

「さっきから気になっていたんですけど。弦月さんの足元にいる、そのちっこい……」

「ああ、こいつかい?」


 弦月さんが小さいサイズの「馬」を抱えて俺たちに見せてくれる。

 そいつはどう見ても人が乗れる大きさではなく、そもそもホームに入れていることからして普通の乗用馬ではない。

 ということは……。

 俺と目が合ったリィズは、同じことを考えていたのか小さく頷く。


「神獣の馬、ですか?」

「正解だよ、リィズ。名はセンリ」

「アルテミスで共有している神獣ですか?」

「それも正解。フクダンチョーが使い物にならない時は、この子に戦ってもらおう」

「――何でですか、弦ちゃん!? 私もちゃんと戦いますよ!」

「その呼び方はやめろと言っているだろう!?」


 ユーミルと話していたはずのフクダンチョーさんが、弦月さんの言葉に異議を唱える。

 それよりも俺は、弦ちゃ――弦月さんがこの状態の神獣に戦わせると発言したことが驚きだ。


「待ってください、この馬……センリはもう戦えるんですか?」

「体当たり程度だがね。なるべく被弾させないように気を遣う必要はあるが、将来的に戦闘させる気があるなら積極的に参加させるべきではないかと。根拠はないが、その方がいいと思っている」


 AIの学習機能を当て込んでのことだろうか?

 理屈としては間違っていないような気がする。

 フクダンチョーさんが弦月さんの横から体を割り込ませて、話を聞いてほしいアピールをしてから口を開く。


「一応、アルテミスの総意ですよ。アーロンが渋い顔して、若い内から戦いの空気を肌で感じさせておくことが大事だろう――とか言ってました」

「いかにも言いそうではあるが……似てないな、フクダンチョーのものまね!」

「彼はもっと低くて渋い声だったはずから、そもそも無理がある」

「あらゆる意味でかけ離れていますからね、フクダンチョーさんとは」

「あれ!? 思った以上の酷評!?」

「私を弦ちゃんと呼んだ罰として、フクダンチョーがものまねをしていた事実をアーロンに伝えておくとしよう」

「へあっ!? 待って、許して弦ちゃん!」

「直す気ないだろう、君」


 そんな話をしていると、ノクスが飛んできて俺の肩に止まる。

 話を聞いていた訳でもないだろうが、面白いタイミングだったのでつい問いかけてみる。


「お前も戦ってみるか?」

「おや、ハインドの神獣はフクロウか。肩に止まっている姿が様になるね。大きくなれば更に映えるだろう」

「ありがとうございます。俺のというか、こいつもギルドで共有している神獣なんですけどね」

「お? 今こいつ、私を睨みましたよ? やんのかこらぁ?」


 へなちょこなシャドーボクシングをしながらぐいぐい寄ってくるフクダンチョーさんに対し、ジッと見つめるノクスはやがて……。

 近付き過ぎたフクダンチョーさんが一歩下がろうとした瞬間に、バサッと羽を広げて威嚇した。


「ひえっ!?」

「あはははは! 小さい割に度胸は十分なようだ!」

「ハインド、折角だから連れて行ってみるか? ノクスはやる気満々に見えるぞ」

「そうだなぁ……」

「セッちゃんもトビさんも、ノクスを戦闘に連れ出すタイミングはハインドさんに任せると言っていましたよ?」

「うーん……」


 俺が悩んでいると、弦月さんが胸に手を当てて笑いかけた。

 ちらりと覗く白い歯が眩しい。


「イベント効率が心配かい? 大丈夫、私が二人分働いてみせるよ。交代で一人休憩、神獣をパーティに一体ずつ投入でどうだい? 無論レイドボス戦に関しては神獣抜きで、召喚アイテム集めの時限定の話さ」

「おお、言い切りますね。相変わらず格好いい」

「む!?」


 弦月さんの頼もしい言葉に対して、ユーミルが対抗するように椅子から立ち上がる。


「だったら私は三人分働いてみせるぞ!」

「張り合う必要性がどこに……しかしまあ、そのくらいじゃないとランキングトップは獲れんか。気合十分だな」

「うむ!」

「弦月さんは今回、ランキングは狙っていないのですか?」

「今回の私は防御スコア狙いさ。勇者ちゃんの攻撃スコアとは競合しないから、遠慮せずに存分にやるといい」

「で、結局どーするんですハインド? 結論言ってませんよ、結論」


 肩のノクスに視線をやると、小さく羽ばたいてセンリの背中の上に乗った。

 本当に一緒に連れて行けって言ってるみたいな行動だ……。

 それにしてもセンリ、大人しいな。

 背中にノクスが乗っても穏やかに談話室の中を歩いているだけだ。


「……では、連れて行ってみますか。余りに戦闘参加が厳しいようなら、その時は編成に入れないように切り替えということで」


 そんな訳で、今回はアルテミスの二人を含めた五人に加え……。

 神獣二体を連れた、五人と二体で『大砂漠デゼール』に向かうことになった。

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